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願書に書くことは足で探そう
ご両親相手に願書の指導をしていてよく聞くお悩みが、「書くことがない」「なにを書いたらいいかわからない」というお言葉です。
その前にひとつご説明すると、願書には大きくわけて二つの書く欄がございます。
「入学希望理由」
と、
「お子さまを育てる上で大事にしてきたこと、またはお子さまががんばってきたこと」
です。
一般的にお母さまは自分のお子さまのことを書くことに関してはあまり苦にしません。それが願書という文脈に適切かどうかはともかく、さすがに長くいっしょにいるだけあってお子さまのことをよくわかっておられますし、そのご様子を書き表す表現力にも長けています。また親としていかに我が子の幸せを望んでいるか、幸せになってほしいかという想いを書かせてもさすがに上手いなと思わされます。
しかし願書は文字数の制限がある上、きちんとした論旨を求められますし、我が子の紹介だけでなく、端的に「入学希望理由」───ご両親がなぜその学校を志望したのか───を説得力を持った形で書き表さなくてはなりません。そして世のお母さまの大半はこれがとても苦手です。
こうしたテーマは単に育児だけにとどまらず幼児教育や英語教育といった分野の裾野にまで広がりを持っている上に、それらが学齢期の児童に及ぼす影響について期待や展望を述べるなど、ふつうのお母さまには手に余りますし、これをいきなり書けと言われてお母さまが困惑するのも無理もありません。ましてやこの内容をたった原稿用紙一枚分の文字数の中にコンパクトにまとめるなど、素人にはなかなかむずかしいでしょう。例外はご自分が教職(学校の先生や大学の教授)についておられるお父さま・お母さまの場合ですが、適度にアカデミックでいい感じの文章というのはそれだけむずかしいのが実情です。
真っ白な願書を前にうんうん悩み続けた結果、お母さまが思いつくのが
「志望小学校のホームページを見て書く」
という方法です。そして、そこに記載されている学校側が掲げる教育目標や標語をそのまま願書に書き写します。いわく、「チャレンジする子ども」「世界にむかって羽ばたく○○」といったキャッチーで収まりの良いワードで、これを「この言葉に感銘を受けた」「我が家の教育方針と合致した」という文言とセットで願書を完成させる。むろん、これはまちがいではありません。時間もかからないし、なにより手軽です。なんとなく体裁も整っている(ように見える)。しかし、これは多くの人がやりがちな罠なのです。
考えてもみてください。
上のやり方は、あなたが思いついたと言うことは、他の人もまた思いつくということです。おそらくあなた以外の志願者の方たちの大半は同じやり方で、似たような文面の願書を書いて提出してくることでしょう。その結果どうなるか? あなたのお書きになった願書は他の願書の中に埋れてしまい、面接官の先生にとくに目立った印象を与えることのないまま「その他大勢」の中の一通として忘れ去られることでしょう。じっさい、ぼくが指導していても最初に「自由に願書を書いてきてください」と言うと、だいたい七割くらいのお母さまが上のような内容の文面を書いてきます。
ならばどうすればいいのでしょうか?
近年、お受験を指導していて思うのは、みなさま「足を使わなすぎ」ということです。この「足」とは文字通りの意味のことで、最近のご両親はお受験に際しじっさいに身体を動かして物事を確かめるということをあまりなさいません。お子さまが志望するかんじんの学校のことも、調べるのはすべてネット上かスマホだけで済ませてしまい、受けたい学校まで直接足を運んでみる、またはお子さまを連れてじっさいに自宅から歩いてみるということをなさる人はいませんし、いたとしても受験間際になってから一回、という方が多い印象です。これは学校のことを知る機会を損なっているという意味で、ずいぶんもったいないことのように思えます。
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清-note(幼児教室の現場から)
幼児教室の先生をしています。じっさいにお受験を指導してきた立場から、お若いご両親に知っていただきたいことやお受験への取り組みかたなどをわか…
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