見出し画像

シングルマザーは受験に不利か?

冬、お受験シーズンが終わると、お受験志望のお子さまを持つお母さまからお問い合わせの電話がかかってきます。

「あのー、息子が小学校受験したいのですが、大丈夫でしょうか? 四歳なんですけど」
「もちろんです」
「でもあの、わたし、先年、夫と離婚しておりまして……」

お子さんのお受験を志望される、いわゆるシングルマザーのお母さまからの問い合わせをいただく機会は年々増えています。ぼくが担当するご両親のうち、何割かが母子家庭/離婚されたお母さまであることはめずらしいことではありません。離婚するご夫婦の割合が全体の三割を超えて年々増加傾向にある日本の社会動向を考えれば、こうした状況はある意味当然と言えるでしょう。

ちなみに、こうしたお問い合わせは100パーセント「母親+こども」という組み合わせです。お父さまからの問い合わせは一件もありません。長年この仕事をしていて、父親のシングルファーザーで、「子どもを受験させたいのですが」、とお子さんの手を引いて訪ねられてきたお父さまにぼくはお目にかかったことがありません。(これはほんとうに謎です。いったい彼らはどこにおられるのでしょう。統計からしてぜったいにいらっしゃると思うのですが。)

不安げなお母さまに、「そんなに神経質にならなくても大丈夫です。ふつうにがんばれば合格できる可能性はありますよ」とぼくはお答えするようにしていますが、たしかに以前はちがいました。片親では確実にお受験に合格できない、不合格にされてしまうという時期がありました。片親でも試験を受けることは許されているし、直接面とむかってなにか言われるわけではないのだけれど、結果を見たら不合格となっている。そこに見えない透明な壁が存在する、という時期です。

しかし今は2025年です。時代は変わり、今や親がシングルマザー/シングルファーザーであることを理由に受験生を不合格にする、という考えは学校側でもずいぶん希薄になっています。(まったくないとは言わない)この十年間で組織や企業が守るべき社会的規範が大きく変わったように、教育機関もまた差別やマイノリティに対する非寛容にはたいへんセンシティヴ・慎重になっています。人種、肌の色、国籍で児童を隔てることはもちろん、片親だからといって入学する児童を拒否すると言ったことは建前の上でも学校はもはやしないでしょう。

そもそも現代は成婚した夫婦の三組に一組が離婚している時代です。離婚だの片親だので騒いでいること自体がおかしいのです。統計で見ると日本の離婚率は約35%前後であり、五年前の厚生労働省の調査でさえ離婚件数は年間約21万件にものぼります。期間別にみると成婚後5年から9年の間に離婚する夫婦がとくに多く、30~34歳の方の割合が全世代の中でトップとなっています。(熟年離婚よりも多い)これはまさに年中・年長さんぐらいのお子さまを持つご夫婦の層であり、お受験生を持つご両親が離婚されるケースが多いことを示しています。

離婚の際、お子さんは母方に引き取られることが圧倒的に多いわけですから、お母さまはお子さまの教育に対してより具体的な責任を持つことになります。(正確には離婚後も父親にはわが子に対する教育の義務が発生しているわけですが、それを実行される男親はほとんどいません)

学齢期に達しつつあるお子さまを抱え、わが子に少しでも良い教育環境を与えたいとシングルマザーのお母さまたちは模索をはじめます。こどもの将来にいったい何を与えてやれるのか、未来の選択肢をどう増やしてあげられるのか。そして最終的に小学校お受験に向き合われることになるわけです。

初めの方でもお話ししたように、お受験はやるからには勝たなくては意味がありません。そのために、まずお母さまが胸に留めておくべき事がいくつかあります。

1 母子家庭だからといって門前払いを喰らうことはなくなったが、それでも依然ハンディキャップがあることを理解する。

2 シングルマザーは出願・願書・面接・受験期間中の子どものケア、オープンスクールの参加、これらをすべてを自分一人でしなければならない。

3 逆に女手一つで育ててきたことを前面に押し出し、関心と共感を誘うべし。


1についてはしっかり認識する必要があります。たしかに以前にくらべて母子家庭のお子さまにも合格への門戸が開かれるようになったとは言え、他のご家庭とまったくの対等になったわけではありません。片親であるというハンデは依然として存在します。

お受験とは当然学校側が合否の判定を下すわけですが、同時に他の志願者さんとの競争でもあるわけで、相対的に他の受験生よりお子さまもお母さまも優れていることが合格の条件となります。仮にお子さまの能力がまったく同じで、かつ親子面接の答弁も同じくらい好印象、という両親が揃っているorシングルマザーというふたつのご家庭があれば、学校側はお父さまとお母さまが揃っているお子さまの方を取るでしょう。それは現状としてしっかり認識しなければなりません。

しかし、戦いようによっては母子家庭でもじゅうぶん勝負になりますし、現に当教室ではこれまでにシングルマザーのお子さまを何度となく合格させてきました。大事なのはしっかりとした戦略と、それに則って正しく動く意志です。

ここから先は

1,774字

幼児教室の先生をしています。じっさいにお受験を指導してきた立場から、お若いご両親に知っていただきたいことやお受験への取り組みかたなどをわか…

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?