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【連作短歌】お風呂場の人魚

お風呂場で何か言ってた?鼻歌を歌っただけよ人魚みたいね 青い花は青ざめてるのか青が好きか杞憂をジョウロに入れて撒く朝 青信号待てど此方に来ないから赤い服着た私が行くの ワンマン社長たまの弱音がかわいくてたぶん私はダメンズメーカー 街灯の影の先行くOLが振り返ることに十円賭ける 五月五日隣家の猫は布製の鯉に潜って乳歯を舐める 午前六時風呂場の中で湯の舟を漕いだ私に父の雷 牛乳の配達員をおしなべて戸田さんと呼ぶかわいいママン 今は昔になること知らぬ詰襟の群れが横切

    • 自分の生きづらさのメカニズムが分かった気がする

      繊細さんとかHSPとかいうあれ。 人の些細な言葉に一喜一憂し、自分の気持ちをうまくアウトプットできず、失礼なことをされても「咄嗟に怒る」ということができない。常にびくびくしている。無駄に気を遣い疲弊する。家族関係や恋愛関係がうまくいかない。 ずっとそんな自身を持て余していたのだが、ふとその生きづらさの正体が分かった。 私は〈内〉と〈外〉の峻別がうまくできていなかったのだ。 例えば職場の先輩が、私のことを「あの子トロいよね」と話しているのが耳に入ってしまったとする。私は傷

      • 【文藝賞4次落選作】K9(ケーナイン)

        ※文藝賞の三次選考通過、四次選考落選作です。 コーヒー一杯分の暇つぶしにどうぞ。 【あらすじ】 俺、雅典、ミッキー、辰巳が四人でつるみ出してから一年と少しになる。俺たちは脳みそがぬるく溶けて死にそうな大学生活のモラトリウムの中でYouTuberの真似事をして遊んでいた。 そんなある日、「犬になってみた」という動画を撮ろうと辰巳が言い出す。 大物YouTuberの二番煎じである企画に戸惑う俺たちは、しかし、“The dog”という奇妙な動画を目にしたことで、「犬になりたい」と

        ¥250〜
        割引あり
        • 【恋愛小説】噛みたいハート 

          アフターおねショタ的な話です 初めて静香お姉さんと出会ったとき、僕はお姉さんのことを殺人鬼だと思った。 だってお姉さんは、映画で見た殺人鬼みたいに、口の周りを真っ赤に染めて赤い何かを噛んでいたからだ。 しかし、お姉さんは殺人鬼ではなかった。 僕は二階にある自分の部屋の窓から身を乗り出し、庭の桜をかき分けて、すぐ隣に建つ古い借家に越してきたお姉さんを窓越しに見つめた。 お姉さんは泣いていた。長い黒髪のかかる肩を小刻みに震わせながら、大きな赤いハート型のゼリーのようなものを両手

          【短編小説】はちみつ紅茶と洗濯ばさみ

          ※ショタの出てくるファンタジー短編 ちょっとBLっぽい 「もういいかい」とアイク兄ちゃんが言った。 「まあだだよ」と僕は答えた。 僕は僕たちの住む村を見る。 すみれの花が咲く丘の上に建つ、木造りの、ぐらぐらした、ちっぽけな物見台の上から、小さな村を見下ろしている。 空は三つの色に染まっている。 青色と、茜色と、すみれ色。あるいは、昼の色と、黄昏の色と、夜の色。 昼間の色と夜の色は気だるく溶けて、目がくらむような夕焼けの光をそのあわいで生み出していた。  この世界の空は

          【短編小説】はちみつ紅茶と洗濯ばさみ

          【日記】ヤードセール

          先日、村上春樹が訳したレイモンド・カーヴァーの短編を含むいくつかの外国文学作品群と、村上春樹によるカーヴァーの紹介文をたまたま読んで、それがまあかなり良かった。 そのため、外国文学にまるで無知な私は、もっといろいろ読みたいな、手始めにカーヴァーから手を出してみよう、と思い、図書館で『愛について語るときに我々の語ること』など、いくつかのカーヴァーの本を借りたのだった。 『愛について語るときに我々の語ること』所収「ダンスしないか?」をまず読んだ。 おそらく夫婦生活が破綻したの

          【日記】ヤードセール

          一人の部屋にはだかでいること

          自分が、普段の生活の中で、服を着ていないというときは存在しない気がする。風呂場に入るときは無意識に手早く服を脱ぎ、自動運転のように入浴のルーティーンをこなすので、裸になったのだ、という自覚は薄い。 だから、くだらない相手とくだらない自身との取るに足らない内容のセックスなどで裸になるとひどくきまりの悪い気持ちになる。 もったいぶって隠していたものは全て剥がされる。スリリングな、あるいはミステリアスな雰囲気は霧散し、男は生ぬるく現実的になり、私は間抜けな格好で突っ立ったりうろう

          一人の部屋にはだかでいること

          【第2回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト最終選考作】環(わ)

          ※この小説は「第2回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト」、略して「さなコン2」にて指定された共通の書き出しまたは終わり「そうして人類は永遠の眠りについた」を使用しています。 ✳︎ そうして人類は永遠の眠りについた。 そんな結末は許さない。 永遠なんてあり得ない。 夜の次には朝が来る。 ✳︎ 煙草の焦げ跡の散るアスファルトの上に紙飛行機が落ちていた。古いような、古く見せかけた新しいもののような、セピア色のその紙飛行機を広げると、中にはピンク色の文字が散りばめられて

          【第2回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト最終選考作】環(わ)

          スーパーマーケットの地下のコーヒーショップ

          それは意識の隙間に入り込む。それというのはスーパーマーケットの地下にあるコーヒーショップの夢のことである。全国にチェーン展開されているありふれた街のスーパー。その地下一階でなぜか二十四時間営業を行っている簡素なコーヒーショップ。 死にかけの商店街に残された陰気なビルディングのワンフロアに似た、きまり悪い白色の静寂が古臭い蛍光灯の下、黴の粒子と共に放り投げられている。 目を瞑る時間の少し長い、ゆったりとした瞬きの後、目を開けると、私の意識のうち満月に対する十六夜月ほどの分量

          スーパーマーケットの地下のコーヒーショップ

          【文學界新人賞三次落選小説】忘備録

          夢野めぐみというペンネームで「忘備録」という小説?を書いて文學界新人賞に送りつけたことがあります。 半年かけた大作は一次落ちしたのに3日も使わず書き散らかした純文学もどきの本作はニ次選考まで通過したのでわけわかんないなと思いました ※性描写とあたおか注意 【本文】 こうして、電車に揺られて座っていると、さまざまなことを思い出します。くだらないこと。夢に出てきたカメムシが今朝ホームで踏み潰されていたこと。中学生の時に書いた拙い手紙。二十歳の時、初対面の人間で処女を捨てた

          【文學界新人賞三次落選小説】忘備録

          akakilile倉田翠さん演出舞台「捌く」の的外れなレポみたいなもの

          ※2022年10月29日14時公演版「捌く」の多大なネタバレを含みます。 ※10/30追記 オレンジ色の部屋着に赤いジャージのズボンを履いた男性が舞台終盤ごろ透けた柄シャツに着替えたのは、森本けいじさんという方がやむなく降板され、当該衣装はけいじさんの衣装だった旨を倉田さんからお聞きしました。演者さんたちの思いが感じ取れますね。教えてくださった倉田さん、ありがとうございました。 倉田翠さん演出の「捌く」を縁あって観に行った。 東京芸術劇場の少し澄ましたような空気を抜けて

          akakilile倉田翠さん演出舞台「捌く」の的外れなレポみたいなもの

          【だいぶ前の日記】サルヴァトーレ・フェラガモのさいふを買った

          今まで使ってたさいふがボロボロになっちゃったので新しいやつを買おうかなーと思い立った。思い切っていいやつ買っちゃおうかな、今までのやつはいかにも安物でございというほつれ方をして何かテンション下がったし、と考えつつ昼休みにブランドさいふのおすすめをざっと見てたら「サマーセール」という言葉が飛び込んできた。ほう、サマーセール。 「割引特価」みたいなやつってアウトレット店とかくらいでしかやってないと思ってたんだけど、お高くとまってそうな(失礼)公式サイトでもやってるんだな〜と楽しく

          【だいぶ前の日記】サルヴァトーレ・フェラガモのさいふを買った

          原作好き20代女による新アニメ「うる星やつら」の散らかった感想

          【良いと感じた点】  OP、ED ・曲が洒落ていて新しく、かつうる星やつらとマッチしている ・原作絵がぬるぬる動き、可愛いラムちゃんがたくさん見られる ・ファミコンや原画などさまざまな媒体の画像がミックスされていてファンとしては嬉しい ・OPは、あたるが令和に行く夢を見る、という設定。 そのため昭和設定の本編では見ることのできない、インスタ等のSNSや推し活ライブがある令和の世界とうる星やつらのキャラクターとの融合が見られるのが良い ・各エピソードのタイトルロゴがすげえ

          原作好き20代女による新アニメ「うる星やつら」の散らかった感想

          【エッセイ】架空の信仰をつくってみたことについて

          つい5分ほど前、架空の信仰をつくろうと思い立った。 わけを説明する。わたしは小説を書いて時々公募に出してみたりネットに掲載してみたりしているのだが、書きたいと思った小説のジャンルが曖昧で、どの賞からもカテゴリエラーとして弾かれてしまいそうな気がしたのだ。 その小説を書きたいという思いは強い。きっと良い話になると感じるし、達成感も得られるだろう。しかし、膨大な労力と時間をかけて書いたものが梨のつぶてとなったとき、「わたしが満足できたのだから良いか」とハッピーに考えられるほど

          【エッセイ】架空の信仰をつくってみたことについて

          【掌編小説】秘密新聞

          午前5時、アパートの一階に降りてダイヤル錠の郵便受けを開けた。 雨除けのビニールに丁寧に包まれた新聞を取り出す。 急いで自分の部屋に駆け戻り、ビニールを破って新聞を開く。一面の上に記載された「秘密新聞」の文字から順に素早く目を通す。 日本中のさまざまな人間の秘密が載った秘密新聞は、オカルトやSF的な代物ではない。秘密新聞の作成者は、プライベート機能付きのSNSやさまざまな店の予約サービスを含む多くのWebコンテンツを運営している企業の元創業社長だ。各コンテンツに記録された膨

          【掌編小説】秘密新聞