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竹山団地プロジェクト、神奈川大学大森監督流人材育成〜地域交流でサッカーがうまくなる?!〜

 高齢化が進んだ竹山団地に、神奈川大学サッカー部の部員たちが住み込み、地域交流を行っています。そこには、大森酉三郎監督の考える、サッカーを通した人材育成への構想があります。


大森監督流「人材育成」〜地域交流でサッカーがうまくなる?!〜

神奈川大学サッカー部では、日々の活動の中で「F+1」という理念を掲げています。「F」はフットボール。「+1」は別の新しい何かにチャレンジすること。つまり、選手としてだけでなく、人として成長していくことが必要である、というメッセージです。

 スポーツ競技と社会的スキルには深い関係があると大森監督は考えます。一流の選手になるほど、スポーツの技術的なスキルに加えて、社会的スキルや心理的能力が与える影響が大きい。大きな舞台で活躍するには、心が育っていることが重要だと。そして、心を育てるのに最も適した場所として選び抜かれたのが、この竹山団地でした。

団地内の清掃活動

大森監督の考える人材育成とは

 スポーツ経験が社会的スキルを向上させると言われますが、むしろ逆で、「社会的スキルを獲得していることが、スポーツ成績に影響を及ぼす」と大森監督は考えます。知識や技術は指導者から学ぶことができますが、社会スキルを含む心理的能力は、自らの経験を通してはじめて身につける事が出来るのです。指導者の知識を受け身で取り入れるのではなく、社会的な実践活動を通して、自発的な行動を自らが行うことによってのみ、アイデンティティを変容させてくことができます。

 サッカーの試合時間90分のうち、実際に試合が動くのは60分。それ以外は審判の対応など試合が止まっている時間です。その中、ボールを持つ時間は、長い人でも2分と言われます。つまり、58分30秒程度はチームのために「裏方」として動いているのです。そうであるならば、その58分30秒をいかに工夫して心を注ぎ、意味のあるものにするか。一人ひとりがそう思うことが、チームとしての成功につながります。地域のため、人のために裏方として動くこと。部員たちは、団地での生活を通して様々な経験を重ね、社会性を身に着けていきます。

 団地で行うトレーニングメニューとして掲げるのは、シンプルに3つ。「挨拶」「整理整頓」「素直」。これを意識しながら様々な活動を行い、課題を見つけ地域の方を巻き込んで解決していきます。そういった経験が、自己認識、共感性、効果的コミュニケーションスキル、対人関係スキル、意思決定スキル、問題解決スキル、創造的思考、感情対処スキル、ストレス対処スキルなど、サッカーに必要なスキルへと繋がっていくのです。高齢者をはじめ、地域住民の方たちが、彼らのコーチとなります。

 また、そうやって育った部員たちが社会に出ていった後も、地域に溶け込み、地域貢献でコミュニティをリードしていくマインドを持った人材として、日本の明るい未来に貢献してくれることを、大森監督は思い描いています。

地域の方々との交流

竹山団地で部員たちが経験していること

 部員たちは、これまで4年にわたる取組みを通して様々な経験を重ねてきました。親元を離れ、他学年のメンバー2〜3人との共同生活を送ります。竹山団地の象徴である池の水を抜いた「掻い掘り(かいぼり)」に協力し、地域の清掃活動や防災活動、カフェ、畑の運営、花火大会や灯籠流しなどイベントへの協力、竹山小学校の総合学習への協力、学生消防団活動などを行います。「カフェ」だと高齢者が入店しづらいのではと考え、「喫茶」と名前を変えてみたら人が集まった、ということもありました。ひとつひとつが彼らにとってゼロイチの新規事業であり、それを、地域の方たちや神奈川県公社の協力や見守りを得ながら進めてきたのです。

 時には苦情が来たり、高すぎる期待を寄せられたりすることもあります。そんな時に防波堤として間に入ってくれるのもまた、自治会の方たちでした。「どんな時でも、あなたを守るのは人と人の絆です」と吉川会長は言います。「ただ、自分を犠牲にしてまで、地域貢献してもらおうとは思っていません。自分の本業や目的・夢を忘れないでください。共に同じ目的を持った同志として、楽しい時間を共有していきましょう」。このような思いで見守る大人がいることが、この取組みを絶妙なバランスに保ってくれているのです。みんな本当に成長したよね、と自治会の方たちが口々にエピソードを語ってくれました。

サッカー部員たちが畑で育てた野菜を地域へ販売

大森監督を突き動かす「原点」

 しかし、なぜ大森監督はこのような考えに至るようになったのでしょうか。大森監督の「原点」は一体どこにあるのでしょう。

 大森監督は、大学までサッカー選手として本格的に活躍してきましたが、当時は、忍耐強く考えて動くことが苦手で、与えられたチャンスを活かすことができず、ポテンシャルの割に結果を残せなかったといいます。卒業後は縁あって、サッカー部の強化に乗り出した海上自衛隊に進みました。そこで生活に密着した敷地の芝刈りや皿洗いなどの仕事にも携わることになったそうです。

 はじめは嫌で仕方がなかったそういった仕事も、「誰かがやらなくてはいけない」と積極的に取り組み始めると、自分の中で大きな変化が現れるのを感じたのだそうです。同時に、日々の生活においても考え方に変化が生まれ、不思議なことにサッカーにも良い影響が生まれ出しました。

 それが、プレイヤーとしての結果にも繋がり、キャプテンとして臨んだ国体では、見事全国優勝を果たしました。この気付きをプレイヤーの指導に生かせるのでは、という思いで、指導者の道に進んだそうです。34歳の頃でした。そして、神奈川大学サッカー部監督就任一年目で、神奈川リーグ優勝、関東リーグへの昇格を果たすことが出来ました。

 大森監督は、両親が地域で事業を営みながら、地域活動に率先して参加する姿を幼い頃から見ていました。その経験が、自然と「地域に根付いた人材育成がしたい」という思いに繋がり、強豪校からばかりでなく、地元の子どもたちを発掘し、育てることも大切にしてきました。そういった原体験や指導経験を通し、今回のプロジェクトに行き着いたそうです。「学生たちと一緒に汗をかいて、地域に貢献できるビジネスをやりながら、部員の育成が出来たら」と思っていた矢先、一旦離れていた神奈川大学から再度チャンスを頂いて、今日に至ったのだといいます。

国際大会を通して学んだ、広域連携・産学官連携

 2018年に、「ONE NATION CUP」という世界8カ国の子どもたちを招くサッカー大会を企画し、大森監督が事務局・総務部会長として中心的に携わりました。各国の代表チームが湘南地域の学校を回って日本の文化に触れ、地域の子どもたちと交流する取組みだ。招致活動やキーパーソンの巻き込み、スポンサー獲得に向けた営業、運営、最後の取りまとめまでの全てをリードしました。

 最初は、伝手をたどって茅ヶ崎市長を訪問したところから始まりました。そこで「スポーツ界の総意」という流れを作るようアドバイスいただき、奥寺康彦さんや湘南ベルマーレの真壁会長の協力を仰ぎました。スポーツ界を少しずつ巻き込んだところで、茅ヶ崎市長が、平塚市長、大磯町長にお声がけくださり、それぞれに実行委員会顧問へと就任いただきました。その後、経済界、メディア、学校、ホテル、バス会社などを次々と巻き込む、怒涛の1年半を過ごしたそうです。

 この取組みを通して、複数の自治体との広域連携や産官学連携、様々なステークホルダーの巻き込みについて学びました。それが今回の竹山プロジェクトにも生きているそうです。いずれも、大森監督の情熱あってこそ実現した取組みだといえます。

日本版スポルトガルデンの実現へ

 「ONE NATION CUP」は、ドイツの公益法人「スポルトガルデン」が、事業の一環として行っています。「スポルトガルデン」とは、英語で「スポーツガーデン」のこと。多国籍の人々が集い、スポーツをハブとした交流や、音楽、絵画などの芸術活動、職業体験や動物とのふれあいなど、様々なテーマでの交流が繰り広げられています。

 また一方で、学校や家庭で寂しい思いを抱える子どもたちの居場所ともなっており、それは竹山団地での子どもたちや高齢者の居場所づくりにも繋がるものがあります。

 様々な国籍の移民を受け入れているドイツ同様、日本でも外国人の労働者や住民が増加する中、言葉は通じなくても、また、年代が違っても、スポーツや自分に興味があることを通して人とのつながりが持てる「スポルトガルデン」のような場を地域に作り、日本に広げていきたい。それが大森監督の描く、次なる夢なのだそうです。

 日本版スポルトガルデン。大森監督の次なる夢の萌芽が、ここ竹山団地に生まれています。夢の実現に向けて、大森監督のさらなる挑戦が続きます。


竹山団地から50名もの住民が応援に来てくれた大会、見事勝利!

【都市内過疎事例1-3】

都市内過疎事例1-1】高齢化に悩む竹山団地と神奈川大学サッカー部による地域再生の挑戦/【都市内過疎事例1-2


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