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講演会「上田久美子とフランス」part2@大阪大学

去る2024年7月3日、大阪大学アセンブリーホールにて、上田久美子講演会が開催されました。
その内容を公開いたします。記事は基本的に書き起こしですが必要に応じて加筆修正し、3部構成でお届けいたします。第二部は、宝塚での作品作り、そして宝塚を退職してフランスで試した創作のお話、フランスと日本の劇場の成り立ちの違いや、留学を考える学生へのメッセージです。


宝塚に入ってから、とてもご活躍をされると思うんですけれども、そのあたりのお話、きっといらしてる方も上田さんの作品を知っている方がいると思うので、少しお話しいただけないでしょうか。

上田
ここにおられる皆さん、宝塚の作品を見ていただいてるという方がかなりいらっしゃると思うんですけれども、まずこの写真をご覧ください。これは奈良盆地です。
これは私の生家の近くから撮った春霞の写真です。
真ん中に二つ山があるのは、畝傍山と耳成山で、この辺ちょっと見えないんですけど香具山です。このあたり緑の部分は古墳だと思います。


大和平野

こういった景色の場所で育ちました。私の部屋の窓から丘が見えて素敵だなと思っていたんですけれども、ある時それが古墳だということに気づいて、子供としてはテンションが下がった記憶があります。

初期の宝塚作品はそういう生まれ育った環境と繋がりがあると思います。
最初の作品は「月雲の皇子」という作品でしたけれども、それは私の実家の周辺を舞台にした古墳時代の皇子たち、大和朝廷の皇子たちの政争の話でした。
それを書いたきっかけというのも、休みの日に、家族で車で出かけたときに神社があってちょっとお参りしようかみたいなことがあったときに、蜘蛛塚と書かれた石碑が立っていたりしたんですね。
蜘蛛塚というのが何ヶ所にもあって、何だろうと思って調べてみると、土蜘蛛と呼ばれた人たちが太古の昔にいたらしく。では土蜘蛛っていうのがどういう人たちかというと、毛むくじゃらで手足が長くて黒くて、穴に住んでいる種族ということでした。その人たちが退治され、その慰めとして蜘蛛塚が築かれたと。
体の形からして違うマイノリティたちがいたということがあったようで、その土蜘蛛とは、おそらく竪穴式住居に住んでる縄文人だったのではないかと。
つまり、弥生系の人たちによる縄文系の人たちの排斥、ジェノサイドみたいなことがあったというのではないかということがわかってきました。
日本にいると、自分たちを単一民族だと思うからあまり想像しにくいかもしれないんですけど、実際私達はある種の原住民たちを淘汰した異民族として今ここにいるのではないかみたいなことに思いをはせることがありました。短期間海外に行ってインスピレーションを受けて本を読んで物語を作るっていうことよりも、長い時間をかけて故郷の土地との繋がりの中で生まれてきた物語というのは自分にとって特別という感じがします。


それから上田さんは次々と作品を発表されていくんですけれども、その中で気づきを得るということがあると思います。いろいろな違和感が生まれて、宝塚を辞められたということがあると思うんですけど、その辺りいかがでしょう。

上田
宝塚に入って演出家となって作品をやらせてもらうようになって5年ぐらいしたころでしょうか。2018年だったか、自分自身が今違うことをやるにいたる転機が始まった年があるんですけど、夏が暑くてゲリラ豪雨が多発した年だったと思います。私はそれまであまりにも演出助手の仕事や慣れない創作活動が大変だったことがあって、常に冷房が効いているような室内にいて視野がとても狭くなって、社会がどう変化しているかとかそういうことに気づく暇がなくて。夏が暑くなっているということにも気がつかなくなっていました。ただキャリアが上がるにつれて少しずつ自分の時間はできるようになっていて、それまで昼にあまりほっつき歩いたりしなかったんですけど、出歩けるようになって、すごい暑いなってことに気がつきました。
町が全部白飛びして見えるほど、太陽の光が強くて、日本ってもともと夏暑かったけれどこんなことはなかったんじゃないのかなという気がしました。北アフリカとか、砂漠の国で見るような景色でした。
そのときに恐怖を覚えました。マンションを出る時に管理人さんが、今日も暑いですね気をつけて行ってらっしゃいみたいな挨拶をしてくれるんです。笑顔で「暑いですね」と皆さんがその熱さを話題にしてにこやかに喋っているっていうことに気がついて、私は浦島太郎的にびっくりしているけど、この人たちはずっと10年間少しずつ暑くなるのを感じているから、去年に比べてちょっと暑いなぐらいの感じでにこやかに対応できるのかなって。
本当にこの熱をスルーしていいんだろうかみたいな気持ちがしました。
さらに気づいてみたら、日本経済の失われた20年が、いつの間にか失われた30年になっていたんですね。かなりうっかりしていたんですけど、それぐらい自分は竜宮城状態で一つの劇団にいた。

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