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まもなく実験開始

城崎国際アートセンターで、実験室を作っています。
観客の皆さんを、パフォーマーとして一つの作品を作る実験室です。

人間の感覚や知覚とは違う感覚でこの世界と交信している植物やバクテリアの感覚の世界を人間が追体験できるのか、人間から離れてそこに接近できるのか、人間を描いた演劇をそういった尺度の中で捉え直すとどうなるかについて、私はこの1年ほど、日本や海外の俳優やダンサーたちとリサーチをしてきました。
そこから美しい瞬間や面白い動きが生まれましたが、それよりも私が興味を惹かれたのは、問いをシェアして、それぞれが考えたり試してみる過程でした。
結果として生まれる表現の面白さ以上に、私はそれぞれの想像の過程に面白さがあると思いました。

だから、観客がその過程を体験することを作品化する方法を探すことにしました。
私は自然の多い農村の出身だったこともあり、こういったことを考えてみるのに役立つのは裸足でふかふかの土を踏んだり、浅瀬のぬるぬるする石の上を素足で歩き回ったりすることだと思うのですが、東京で会社員生活をしていた頃を思い返すと、この社会で生活をしている多くの人々が、人間以外の生物の感じている世界を想像できる場所や時間を容易に持てるとは思えないのです。私自身、都市の生活の中では、身近にひしめき合うたくさんの人間たちの感情や事情を察知することで手一杯でした。
そこで、都市でもどこでも短時間で、人間以外の世界にアクセスできるシステムを作りたいと思いました。

自分の作るものの中で「たくさんの人にとって面白く」というのが私にとって大事な要素です。
知的好奇心や向学心は素敵なものですが、それは誰もが持てるわけではない贅沢品の側面があります。
私は、色々な苦労をして生きるたくさんの人々が、農村に住んでいた過去の私やその周りの人々が、満員電車に詰め込まれて気の重い日々の仕事に運ばれていった過去の私やその周りの人々が、直感的に面白い、美しいと感じるものを作りたいです。


今回は、誰もが参加できる実験室を作りたいと思っていますが、そのために、贅沢すぎるほどの研究員が結集してくれました。

ドイツからこのために来てくれているmiuさんには、コンセプトを考える根幹の作業から関わっていただきサウンド作りやストリーミングシステムを担ってもらっていますが、miuさんは普段はヨーロッパで自身の作品しか手掛けていなくて他のクリエイターとコラボレーションすることがないそうで、日本でこうしてmiuさんの音の世界に触れられることは幸運な機会です。今回の私の無謀な挑戦が面白いと、例外中の例外で助力をしてくれることになりました。
竹中香子さんがテキストを読んでくれると、書かれていることが衝撃的なほど鮮明に伝わるのは、竹中さんが最高の技術を持つ俳優であるだけでなく、並外れた文筆家だからだと思います。私はふだん自分のテキストにこだわりが強くて他の人が書いたものには違和感があるのですが、竹中さんには、コンセプトだけ共有してあとは彼女が言語化してくれたほうが自分が書くよりいいと思うことがほとんどです。
太田信吾さんは、特別な身体と声の存在感を放つ俳優ですが、同時に国際的に活躍する映画監督でもあり、今回は、俳優としては浮遊する潜水夫になって、映像作家としてはパフォーマーとなった観客をカメラという目で観察しながら漂い、ライブでプロジェクションしてくれます。太田さんのアーティスティックな映像をこういった短期間の実験作で使わせていただけることは事件です。
川村美紀子さんは、きっとだれもが一度見たら忘れられないダンサーであり俳優ですが、一見、人間としてのリミッターを外した天才肌のパフォーマーかと思いきや、どんなこんがらがった複雑な説明もすーっと深く理解して優しくアウトプットしてくれる、理性と天才性が奇跡的に共存している芸術家です。
フランスから参加している俳優のGaël  Sall(ガエル・サル)さんは、彼が今まで協働してきた国際的な演出家たちに比べたら私は未知で無名の存在のはずですが、どんな状況も相手もありのままに受け入れてその場に安心して存在させてくれるような、オープンで温かい観察者です。彼は作品中で、「人間」の役を担って観客たちを観察します。同時に、このプロジェクトを文化を超えて共有できるよう進化させるための相談相手でもあります。
表層的にならず内容に入り込んだ上で提案をしてくださる美術家の中村友美さん、バイオリサーチャーとして城崎周辺の自然環境を調査してくださった津田和俊さん、フランス語通訳の仕事だけでなくコンセプトも洞察して意見をくれる平野暁人さん、超敏腕な制作の関下景子さんといった方々も研究員です。さらに城崎国際アートセンターの橋本麻希さんにサポートいただいて、短期間の滞在ながら超特急で作業が進んでいます。

これら研究員たちと、城崎に来てはじめに打ち合わせをしたとき「実験室を訪ねてくる観客の人々は、こちらの実験の材料なのか?それとも一緒に実験にとりくむ研究員なのか?」という議論がありました。
私たちの結論は、訪れてくる人々も、その時間は一緒に研究をする一員になる実験室を作ろうというものでした。
そのためにどうすればいいか、それぞれが何をできるのか、役割や演出を皆で試行錯誤しています。

国際アートセンターの大ホールが、わくわくする面白い空間にどんどん進化しています。
参加のお申し込みをすでにたくさんいただいております。
当初は実験参加者と、観覧のみの方を分ける予定にして、実験参加可能な人数を制限していたのですが、それを超える多くの実験参加希望をいただいたので、その二つの区分をわけるのをやめて、当日にその空間にいるうちに参加したくなればゆるゆると参加もしていけるし、観覧だけのつもりでもやはりパフォーマンスの構成要素ともいえるような、皆がなるべく心のままに行動できるような作りに変えることにしました。

すでにたくさんご来場を予定くださっている方々がいますが、直前までお申し込みが可能です。

日常を離れて、未知の空間と時間を感じるために、あるいは結集した研究員たちのそれぞれのアートを体験するために、あるいは訪れた全員でパフォーマンスの時間を生み出すという実験を楽しむために、ぜひ城崎へお越しください!

【追記】
今回、舞台美術として茶室「帰庵」のアイデアをお借りし、骨組みだけの部屋を作りました。
帰庵は、京都で数寄屋建築を手掛ける山中工務店の稲井田将行さんが設計された、竹のみを留め具を使わず組み上げる茶室です。壁がなく、ただ結界としての竹の境界があるだけで自然は外部化されず、風雨から守られることもなく、中に入ると、不思議と自身とこの世界との関係を意識化させられます。
私はパリで、スキーバッグに入れた帰庵を携えてこられた稲井田さんがデモンストレーションをされているのを拝見し、それを造ろうと思われた経緯を伺ってとても印象に残りました。
今回の私のクリエーションでは帰庵のコンセプトをどうしてもお借りしたく、お願いをして、ご厚意で帰庵のアイデアを拝借することを許可いただきました。
美術の中村友美さんが京都を訪ね、稲井田さんに帰庵の仕様を指導いただきました。その時、友美さんの娘のななちゃんも一緒に鴨川河川敷で帰庵に入ってみたのだそうです。ななちゃんは虫が大嫌いなのに、帰庵にはどんどん蟻が入ってきます。嫌がるななちゃんに稲井田さんは「こいつらも生きてるんやで」と言い、ななちゃんは帰庵で蟻を克服したそうです。恐るべし、帰庵。
この場を借りて、稲井田将行さんに感謝いたします。

帰庵と中村友美さん親娘














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