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しばいばなしvol.2 「星逢一夜」【望海風斗ゲストトーク】 後編

シラスチャンネルでは、上田久美子の現在・未来の作品についてシェアするとともに過去の上田作品についても語っています。
過去編のなかでは9月に「星逢一夜」を特集し、源太役の望海風斗さんをゲストに、当時の演技について振り返るとともに、女優としての現在地をじっくり伺いました。
後編は、退団後のキャリアをめぐってお話しています。望海さん憧れのあの人のお話から、あくなき限界へのチャレンジを伺い、退団後も相変わらずのぶっちぎりの求道精神に触れられて、面白く、嬉しかったです。
ムーラン・ルージュの再演も拝見でき、その感動も末尾に綴っています。だいもんさん、ありがとう!

上田久美子
女性の役を演じるようになり、いわば俳優としてのセカンドキャリアを歩んで来られた3年間で、演技について何か新しく開眼されたこととか、身につけたこととかありますか?

望海風斗
出会ってきた演出家の方だったりとか、共演者の方から教えてもらったことは大きかったです。
あとはやっぱり、なんて言ったらいいんでしょうね? 宝塚とは違って共演相手がリアルな男性の方で、私のほうは半分男みたいだから、「相手がやりにくい状況になっちゃいけないな」ってどこかですごく思ってて。「どうやったら女性として素敵になれるだろう」みたいなことばかり意識してたんだと思うんですよね。
『ムーラン・ルージュ!』という作品のオーディションを退団早々に受けたので、「自分を改革していかなきゃいけない、男役を脱ぎ捨てなきゃいけない」って、とにかく女性にならなきゃって考えてたんです。その気持ちが強過ぎて、自分は芝居をしているようでしていなかったのかもしれないなって思ったのが、去年のムーラン・ルージュの再演中のことで…… なんか、「今までどうやってたんだっけ?」って。
あとはやっぱり、見ている人から「隙がない」ってすごく言われる。それは確かにその通りで、今まで宝塚で(トップとして)やってきたから、舞台に立つと「何があっても私は大丈夫!」っていう、独りで芝居を成立させようとするスイッチが入っちゃうんですよね。それで毎回終わるごとに、「今日も演技が強かったかもしれないな」って考えて。どうしたらいいのか分からないけど、でもこれって誰かに相談して解決できる問題でもないし、共演している井上芳雄さんに「私ってどうですか?」って聞くような問題でもないし、すごく悩んでて。
それが去年の『ムーラン・ルージュ!』の最終日に、芳雄さんとの最後のシーンで、急になにか心の扉が「バーン!」って開いたんですよ。役としてではなくて、芳雄さんにお世話になってきた記憶が走馬灯のように流れて…

上田
舞台上で?

望海
舞台上で! 
私は今にも死にそうなときに芳雄さんの腕の中で歌わなきゃいけないんですけど、その瞬間なにか急に、若いときの自分たちの姿から色々な記憶がばあっと出てきて、「私はこの方にこんなに導いてもらってきたのに、なんで素直になれないんだろう?」「でも今やっと、初めて素直になれる」って感じられたんです。びっくりするような瞬間でした。
そしたら芳雄さんも「今日は今まで自分がやってきたことの全てを肯定してもらったような気分になった」と仰っていて、え、すごい!通じるんだ!と思って。
そのとき、自分のずっと開けなかった扉がやっと開いたと実感できて、「それを絶対忘れたくない、来年はこの状態のまま『ムーラン・ルージュ!』をスタートさせたい」って思ったんです。
そしたら今年はもう稽古中からすごくやりやすくなって、宝塚時代に感じていた自分の中から出てくるエネルギーをまた感じられるようになったんですよ。

上田
3年かかって?

望海
3年かかりました!
「私ってこうだった!」っていうのを取り戻した感覚がすごくあって。

上田
なるほど〜。きっと女性として演じるという不自由さというか、型のようなものにも気を取られるし、それだけじゃなくて責任感というか真面目さというか、「もういいや」って投げ出すほうに行ききらない部分があったってことですよね。

望海
これまでは「『この瞬間が全て』という思いで舞台をやってきた宝塚時代の私はどこに行っちゃったんだろう?」みたいな感じだったのが、今年は違うんです。

上田
そうなんですね! この対談はおそらく9月に放映すると思うんですけども、『ムーラン・ルージュ!』は9月の半ば…何日からでしたっけ?

望海
15日が初日です。

上田
ですよね、梅田芸術劇場で再演。私はまだ日本にいますので、ぜひそれを見に行こうと思っております。
だってそこまで言われたらもう、めっちゃ気になるじゃないですか!

望海
え〜! なんで言っちゃったんだろう?(笑)

上田
「本当に扉は開いてるかな〜?」って(笑)
でも、そう、だいもんさんの「その瞬間を生き切る」というか、ぶっちぎって演じられるみたいな話ね。いま共演されている井上芳雄さんがお好きだというのは在団中から聞いていたし、それにフィギュアスケートの羽生結弦さんのファンであることも有名だったじゃないですか? 楽屋行ったら羽生結弦の試合を観てるとか(笑)

望海
観てたし、ポスター貼ってたし、スポーツ新聞買ってたし(笑)

上田
重い芝居のダメ出しに行ったら羽生結弦の中継に夢中とか!「あ、そういうテンションでやってるんなら大丈夫だ」みたいな(笑)
あと井上芳雄さんって、リミッターを振り切ってタガを外せるところが舞台人としてすごくパワフルでかっこいいじゃないですか。私は羽生結弦さんにもそういうとこがあると思っていて。しかもそこには「戦う俺ってカッコいい」っていうストイックな陶酔もあって、「怪我をして血が流れても滑ります」みたいな…

望海
ありましたね!

上田
だいもんさんはそういうものが好きっていうイメージが私にはあって、なんでだろうと思ってたんですけど、それがだいもんさんの舞台姿と共通性があるからなのかなって。羽生選手が好きなのは「私もそうだから」みたいな共感できる感じ?

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