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しばいばなしvol.4 「fffーフォルティッシッシモー」【望海風斗ゲストトーク】 前編
シラスチャンネルでは12月に、第九でフィナーレを飾るこの作品『fffーフォルティッシッシモー歓喜に歌え!』を特集し、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン役の望海風斗さんをゲストにお迎えしました。
前編では、本作の創作過程を振り返って、爆笑秘話から、コロナ禍中のサヨナラ公演となった上演当時の率直な思いまで、たくさんの話題をお届けします。舞台を思い、仲間の舞台人たちを思う望海さんの言葉に、上田も背筋の伸びる思いがしました。ぜひいろんな方に知っていただきたいお話です。
対談は、まるでベートーヴェンのように決して逆境に屈しない望海さんの人生哲学と笑いに溢れていて、上田も見習って前進していきたいと(?)いつもながら斜め上を行くエネルギーをいただきました!
どうぞ最後までお読みください。
上田
『上田久美子の演劇理想ロン』ゲストコーナー、本日は望海風斗さんに来て頂いています。
望海さんが主演された『fff(フォルティッシッシモ)』のお話と、それから私達が最近観ているお芝居などの演劇談義をしていきたいなと思っております。
望海さんの経歴は前回もご紹介しましたので、今回は簡単に振り返りたいと思います。
望海さんは2003年に宝塚歌劇団に入団され、2017年に雪組トップスターに就任されました。その後2021年に私が作・演出を務めた『fff』にて退団されております。以降は様々なミュージカル作品で主役を務められ、菊田一夫演劇賞など大きな賞を受賞されています。
本日はよろしくお願いします!
望海風斗
よろしくお願いします!
上田
さて、まずはこれをご覧ください。(『fff』のポスターを出す)
私はこれは会心のポスターではないかと思っております。この時の撮影はほんとに、楽しかった記憶しかないですね!
望海
ほんと、楽しかったですよね!
上田
だいもんさん(望海の愛称)が「じゃあ、ちょっとやってみますね」ってベートーヴェンになって指揮をやってくれた時の入り込みっぷりが、格好良いし凄いんだけど、なんかみんな爆笑の嵐で(笑)
望海
なんか「すごいです!」って言われながらもめっちゃ笑われてて(笑)、こっちは「ベートーヴェンにならなきゃ」と思って必死で指揮してたんですけど。
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上田
腹立たないんですか?
眉間にすごい皺を寄せて必死にやってるのに、周りは「すごい!」って言いながらも吹き出してて…(笑)
望海
楽しんで貰ってるぶんには良かったなって。もし「もっとこうしてくれ」っていうのがあったら言うじゃないですか? でも笑ってるってことは、笑うぐらい躍動感があるものが撮れてるのかなって(笑)
上田
(笑)
望海
その前の衣装合わせの時点で、どういうポスターを撮るかって話をしたときには真彩希帆ちゃんが居なくて、彩風咲奈ちゃんと私だけだったんです。でもポスターは3人で撮るから、構図を決めるためにくーみんが真彩ちゃんの役の「謎の女」になり切って、3人でポーズを決めたの。覚えてないですか?
上田
覚えてないです!(笑)
望海
じゃあ写真送りますね(笑)
上田
ちょっと待ってください、私がそこに入って試し撮りしてたってこと?
望海
試し撮りしました。大砲の上に乗って、ここにベートーヴェン、ここにナポレオン、ここに謎の女… って一生懸命決めて、ポーズをキメて(笑)
上田
…(笑)
すみません。相手役の座をね、自ら務めたかったんでしょうね、きっとね…。
望海
その時点からもう、すごく笑いに溢れてて!
前回お話しした『星逢一夜』の時のあのピリッとした上田久美子はどこに行っちゃったんだろうっていうくらい、ポスター撮影の時点で大爆笑してたから。
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上田
何だったんでしょうね? でも私の中では確かに、いい意味で気楽に余裕を持って出来た記憶があります。なんか大船に乗った気持ちで。
『星逢』のときは和物で衣装も着物で、しかもカツラもその時代じゃないもので、「これで大丈夫かな、あれで大丈夫かな?」って神経質に心配してたんですけど、これに関しては「はい、だいもんさん+ベートーヴェン… 成立!」みたいな、「後はだいもんが何とかしてくれるでしょ、あはは〜」ぐらいの気持ちでポスター撮影に臨んだ記憶です。かなり他力本願で(笑)
望海
(笑)
上田
実際すごいショットがいくらでも飛び出して、面白すぎて音楽家の甲斐先生に写真を何枚も送りつけて。これを見たら音楽家も曲を思いつくかも知れないって思うぐらい、お宝のような素晴らしいショットがいっぱい撮れたんですよね。
そういう思い出の作品ではありますが、だいもんさんはどうですか?
望海
私の退団公演をどの演出家にお願いするか決める頃に、すでにその前の作品として『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』という映画のミュージカル版をやらせてもらえることが決まってたんです。それがスーツもので、ロバートデニーロが演じた哀愁漂う役だったから、それを男役の集大成とするとしたら、退団公演はそれとは違ったものにしたいと思ったんです。とんでもないものをやりたいなって思ったから「上田久美子先生で!」って(笑)お願いしたんですよ。
でも『星逢』のイメージがすごく強かったから、「悲劇にだけはしないでください」ともお願いしたんです。
上田
なに、そのトラウマ体験!(笑)
望海
一応ほら、退団公演だから! しかも私はトップになってから悲劇が結構多かったので。
上田
確かに! いつも死ぬとか処刑されるとか。
望海
そう! だから悲劇ではない作品にしてほしいですとだけお願いして、「何が来るんだろう?」ってワクワクしてたんですよ。
上田
私はプロデューサーを通じて、何故か「ハッピーエンドの作品にしてほしい」って聞いちゃったから、ハッピーエンド??って思いながら、結果この作品になりました。
観たことのない方々のためにご説明すると、この『fff』はベートーヴェンを主人公にした作品です。通説として挙げられる彼の恋の相手のなかで、一番の絆で結ばれた人物は誰だったのかを描いているのですが、作中ではその女性を真彩希帆さんが演じてくださった正体不明の「謎の女」として、彼女との二人三脚の話を書きました。
実際には出会っていないけれど、ベートーヴェンが一時憧れていたナポレオンを二番手の彩風咲奈さんが演じ、そこに両者と面識のあった文豪ゲーテ(彩凪翔さん)も交わって、当時のヨーロッパの歴史・文化史上の三巨頭が揃い踏みするミュージカル作品となっています。
だいもんさんが卒業されるタイミングで、さらにハッピーエンドというお題を頂いて書いたんですが、実はこの『fff』のお話をいただく前にはそれより早く退団することを決めていて、劇団にもそう伝えたんですけど、そこに「上田さん待って、だいもんさんがこう言ってんねんけど」って言われまして。
望海
え〜? 危な〜!(笑)
上田
私は「辞めるならちょっとでも若い方がいいから」って決意も固かったんですけど、だいもんさんなら、って思い止まったんです。
私が宝塚でやりたいなと密かに思っていた作品に、ベートーヴェンの情熱的な生き方を見せるミュージカルがあったんです。でも、なかなかその機会がなくて、ベートヴェンが似合う人もあまり見当たらなかったから、心の中で「だいもんさんが一番似合うのになあ」って思ってたんです、ずっと。だから退団公演のお話を頂いた時にはだいもんさんが希望してくれたことも嬉しかったし、「このまま辞めたらベートーヴェンは一生できへんな」って思って、退団を延期したんです。
なので、(機会をくれて)本当にありがとうございました。
望海
こちらこそありがとうございました。思い止まってくれて。
…あ、だから毎日楽しそうだったんだ!?
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