海外進出日系企業が求める「日本人化」していない外国人留学生(JETROの報告書を踏まえて)
日本企業における外国人留学生の採用が進む中、「外国人留学生を日本人化する」(日本人と同じように行動すること、思考すること)ことが、大学や支援機関で求められているように感じることがあります。留学生自身もそのような意識が植え付けられているからか、実際に話していても「日本人のようになりたいのになれない」と嘆くのもよく聞きます。従来、日本企業での採用は、既存の日本人社員と「調和」して仕事をする能力が重視され、留学生にも同様の適応が求められてきました。しかし、これは日本国内でのビジネス環境に特化した考え方であり、留学生が持っている異なる視点やスキルが企業にとっても貴重な資源であることを見落としてしまうことがあります。
日本国内だけをターゲットとしたビジネスと、グローバルな市場を目指す企業では、求める人材像が大きく異なる可能性があります。実際、国際展開を進める企業や国外と強く結びついた産業では、顧客の多くが日本人以外であり、その対象国も年々変化しています。本記事では、「日本人化する留学生」と「国際的な留学生(ここでは日本語力をあまり持たない「英語トラック」の学生を対象)」の違いを掘り下げ、JETROの海外進出日系企業の現状をまとめた報告書をもとに、国際的な競争環境における外国人留学生の価値について考察します。
報告書の概要
本報告書は、日本貿易振興機構(JETRO)が2024年に実施した「海外進出日系企業実態調査」に基づき、日本企業が海外市場で直面する現状と課題、そしてそれに伴う事業展開の方向性を示しています。調査対象は、世界83カ国・地域に進出している日系企業18,186社で、有効回答率は40.7%(7,410社)です。以下の主要ポイントが挙げられています。
ターゲット地域の変化
特に南西アジア、中東、アフリカ(などの”グローバルサウス”と呼ばれる地域)では黒字企業の割合が過去最高を記録しており、これら地域への注目が高まっています。
事業拡大意欲と新興市場の台頭
今後1~2年で事業を「拡大」と回答した企業は全体の45.2%で、インドでは80%以上の企業が拡大意欲を示しています。
一方で、中国やタイでは事業拡大の意欲が低下し、これらの市場での成長鈍化や競争激化が懸念されています。
競争環境の変化
新興市場では競争相手が多様化しており、特に地場企業や中国企業の影響力が増加しています。
日本企業は熾烈なコスト競争に直面しており、ブランド力や営業力の強化、多角化が課題とされています。
事業拡大の重点分野
医療機器や食品、人材サービスなど、高付加価値分野での事業拡大が目立っています。
現地市場のニーズ拡大に対応した販売や高付加価値品の生産機能の強化が重視されています。
日本企業における英語人材(英語トラック学生)の活用
太字で強調した個所からもわかるように、世界的な競争が激化する中、日本企業は「国際的な営業力」を求めています。JETROの調査でも、特に新興市場においては、現地市場に適応した販売戦略や顧客との関係構築が重要であることが示されています。このような環境では、日本文化とは一線を画している英語トラックの留学生が持つ「国際感覚」は、日本人社員にはない独特の強みとなります。
英語トラックの学生の特徴
1. 英語という世界共通言語を主言語とする強み
英語は国際ビジネスの共通言語であり、このスキルはグローバルな舞台でのコミュニケーションを可能にします。英語が母語と同じくらいのレベルで使いこなせる語学力は、国際市場において非常に大きな価値を持ちます。
2. 高いグローバルコミュニケーション能力
特に現在注目されている「グローバルサウス」のような国では、日本とは全く違う価値観、宗教観を持っている国も多数存在します。既成概念にとらわれない、柔軟な対応が求めらます。アフリカ、中東、南米等の出身者など、これまでの日本語教育にはあまり見られなかった国籍が多いのも英語トラックの特徴です。自国とは全く違う文化圏に飛び込んできた彼らにはそれだけですでに「柔軟性」は証明されているといっていいでしょう。
3. 忖度がなく、発言することに意義を感じる姿勢
「言うべきことを言う」姿勢を持つ彼らは、特に上下関係が厳しい日本企業に新しい風を吹き込み、よりオープンで建設的な議論が可能になるでしょう。時には上司と意見を戦わせることさえあるかもしれませんが、これこそが国際ビジネスでの交渉力の本質です。海外の取引先やパートナーと対等に交渉し、互いに納得のいく解決策を見つける能力がなければ、競争に勝つことはできません。
留学生支援、人材活用の新たな方向性
以上のことを踏まえると、大学や支援機関では、留学生をどのように育成するかが問われます。「日本人化する留学生」と「国際的な留学生」が今後2極化する未来もあるかもしれません。それぞれ、進むべき方向が異なるため、それぞれに適した知識や態度を大学時代に身につけさせることが重要です。特に、後者のような「国際的な」学生を国際的な企業に送り出すためには、日本国内の大学で以下のような取り組みが必要になるでしょう。
大学においてグローバル対応力を養う授業の導入
異文化理解や国際交渉スキルを磨くプログラムなど学生のうちから国際的な企業で働き方を学ぶ(長期インターンシップなど)
自己選択の機会の提供
自分にとってどちらの方向性が向いているのか、学生自身が選択できる仕組みが必要です。企業と大学の連携
企業が求める人材像を明確にし、情勢の変化を大学と共有することで、教育とビジネスの連携がよりスムーズになるかもしれません。
また、企業側も学生に語学力ではなく、能力にもとづいた選考ができるよう、採用体制を整える必要があるかもしれません。
最後に
英語トラックの留学生は、その国際感覚や独自の強みを通じて、日本企業がグローバルな舞台で成功するための重要な戦力となります。「日本人化」ではなく、彼らの価値を尊重し最大限に活用することこそが、日本企業、さらには日本全体の国際的な競争力を高める鍵となります。こうした認識を企業、支援者、大学関係者、そして留学生本人が共通して持ち、それぞれが適切なアクションを起こしていけるような未来を作りたいと思います。