カウンセリングを外国語で行う必要性(クライアント編)
キャリアコンサルティングの現場では、クライアントが安心して相談できる環境を提供することが重要です。そのために「外国語」を使用することは、特に外国籍のクライアントに対して多くのメリットをもたらします。一方で、「これから日本企業で働こうと思っているなら、どんなに下手でもいいから日本語で自分の状況を話させる方がいい」という意見もあります。確かに、日本語でのコミュニケーション能力は日本の職場で重要視されるスキルです。しかし、カウンセリングの場では、それだけが全てではありません。以下では、外国語を使用することの具体的な利点について説明します。
① 日本語能力が十分でなくても話ができる
日本語を母語としないクライアントの場合、日常会話程度の日本語は話せても、専門的な相談の場で自分の考えや感情を的確に伝えることは難しいことがあります。特に、難民や技能実習生・特定技能で来日した方、または就労者の家族など、日本語を学ぶ時間や機会が限られている方々にとって、母語や得意な外国語での相談は大きな助けになります。
② 対等な立場になれる
母語や外国語で話すことで、支援する側・される側という立場の区別が薄れ、相談者がよりフラットな感覚で話しやすくなります。特に、社会的に弱い立場に置かれがちな方にとって、対等なコミュニケーションは自尊心を守り、相談内容を深める助けとなります。
③ 気持ち・感情が伝えやすい
言語は文化や価値観を反映します。特に感情表現はその人の価値観や考え方を理解するための重要な手がかりとなります。相談者が自分の気持ちや感情をスムーズに伝えられる言語を選ぶことで、問題の本質に近づくことが可能になります。
私の経験では、日本語能力試験(JLPT)のN3~N2程度の日本語力を持ち、日常会話や基本的な相談には日本語で問題なく対応できる方でも、カウンセリングが進むにつれて特定の場面で言語が切り替わることがあります。
特に、相談が佳境に入り、感情が高ぶったとき、「怒り」や「悲しみ」といった深い感情を表現する際には、日本語から母語や得意な外国語(たとえば英語)に切り替わることが少なくありません。このような状況では、クライアント自身が感情を適切に表現するために、最も話しやすい言語を自然に選択しているのです。
こうした瞬間に、カウンセラーが重要視すべきは、話の流れを止めないことです。たとえ言語が切り替わったとしても、クライアントの感情を否定せず、そのまま受け止める姿勢が求められます。これは、感情の表出そのものがクライアントにとって非常に重要なプロセスだからです。
④ 情報を正確に受け取ることができる
言語的な理解があいまいな場合、相談者が受け取る情報も不完全になりがちです。その結果、行動に移すのが難しくなることがあります。相談者が完全に理解できる言語で情報を伝えることで、より確実に行動に結びつけることができます。
例えば、留学生と就職活動について話す際に、「合同企業説明会」が非常に重要なイベントであると説明することがあります。これは、日本の就職活動において企業との初めての接点となることが多く、業界や企業の理解を深めるための貴重な機会です。しかし、多くの留学生にとって、「合同企業説明会」と聞いてもその具体的なイメージがわかないことが少なくありません。その結果、興味があっても参加に躊躇する留学生も多いのです。
このようなケースでは、単にイベントの概要を伝えるだけでは不十分です。
たとえば、以下のような情報を丁寧に伝えることで、参加への心理的ハードルを大幅に下げることができます:
意味と目的:企業説明会が就職活動でどのような役割を果たすのか。
活用方法:どのような準備をして臨むべきか。企業ブースで何を質問するのが効果的か。
具体的な行動案:開催場所へのアクセスや事前登録の方法、服装のポイントなど。
「日本語でも外国語でも大丈夫」と伝える重要性
もちろん、クライアントが「日本語で話したい」と希望する場合にはその意向を尊重すべきです。しかし、「どちらを話しても大丈夫」という選択肢があることを伝えるだけで、クライアントに安心感を与えることができます。この柔軟性が、相談者の心を開く大きな鍵となります。
まとめ
キャリアコンサルタントが外国語を使用することは、ただの言語の選択に留まりません。それは、相談者に寄り添い、彼らの背景や状況に応じた支援を行うための手段です。言葉の壁を取り除き、安心感を与えることで、クライアントが自分らしく話せる環境を提供する。それが、相談を成功に導く大きな一歩になるのです。