PBLで問題解決をはかるときの3つの視点ー「個人」「組織」「国」
PBLの授業で見えてくる課題
最近、日本語教育の現場でPBL(Project Based Learning)を取り入れる学校が増えています。日本語学校や大学で採用されることが多く、学習者が自ら問題を発見し、解決策を探る中で日本語力も向上させることができる実践的な学習方法です。私も大学で、PBLを取り入れた授業を担当しています。テーマは、留学生が日本で就職する際に直面する問題や、日本企業が外国人を雇用する際に抱える課題についてです。
学生たちは、それぞれの視点で問題を考え、解決策を提案しますが、その中でよく感じるのは、目の前にある「実現可能な解決策」ばかりに目を向けがちだということです。もちろん、それも重要ですが、私はあえて「実現可能性」にはこだわらず、「個人」「組織」「国」という3つの視点で考えること自体に重きを置いています。このプロセスが、より広い視野を養い、将来に生かせる学びになるからです。
3つの視点で考える重要性
問題解決を考えるとき、最も身近で考えやすいのは「個人」の視点です。しかし、個人の力ではできることが限られる場合も多いです。そこで、「企業や学校などの組織」や「国(政府)」といったより大きな単位の視点も取り入れることが重要だと考えています。
例えば、「外国人社員の日本語能力に課題を感じる企業」の例を考えてみましょう。「個人」の視点では、日本社会に積極的に貢献する意識を持つことや、日本人社員とのコミュニケーション機会を増やすことが挙げられます。また、日本語能力試験(JLPT)のN1取得を目指すなど、自身のスキルアップに注力するというアイデアも考えられます。これ自体は悪くないですが、実現が個人のやる気にゆだねられてしまうこともあり、実現の可能性の確実性は欠ける印象があります。
次に「組織」の視点では、より実現可能で効果的な案が出てきます。例えば、日本語研修の導入や、N1を取得した社員に奨励金を出す仕組みの整備などが考えられます。さらに、発展させると、日本人社員が異文化を体験できる留学制度の導入といった取り組みも挙げられるでしょう。これらは、実際に企業に入社後にアイデアを求められる場面が出てくるかもしれません。一般的なPBLでも、このレベルの課題解決案が出てくることが多いと思います。しかし、これらの「実現可能」なアイデアである一方で、必ずしも「問題解決」にまで至らないこともあります。例えば、研修制度や奨励金制度を導入しても、それが根本的な問題を解消するわけではない場合があります。そのため、単なる「実現可能性」だけでなく、問題の本質にどれだけ迫るかが重要です。
そして「国」の視点では、より抜本的な問題解決が可能になります。また、各分野の専門家を一堂に集めて協力しながら問題に取り組むことができるようになります。例えば、(実際に行われている事例として)日本語教師の質を向上させるために資格制度を根本的に見直したり、「日本語教育の推進に関する法律」などのように、国が法的措置を講じることで、政策に強制力を持たせ、問題解決を迅速かつ効果的に進めることができます。このように、企業単独では資金や人手の面で実現が難しいことでも、国家レベルでの取り組みによって、より広範囲での実現が可能となるケースが増えてきます。
なぜ学生に広い視点を求めるのか
学生にとって「個人の視点」で考えることは、最も身近で理解しやすいですが、私はその範囲にとどまらず、「組織」や「国」という大きな視点を持ってほしいと考えています。なぜなら、自分一人の力では解決できない問題に対して、仲間や組織、さらには政府に働きかけることで解決策を見出すことができることを学んでほしいからです。このような考え方は、学生が社会に出たときに、組織での役割を担い、より大きな問題に対処するための力となります。大学生活で身につけた知識やスキルを、実際に社会に役立てるためには、視野を広げ、個人の枠を超えて、より広いスケールで物事を考えることが不可欠だと感じています。