殺処分数の減少から見える成果と、岐阜市の先進的な取り組み
前回は、2020年の改正とその成果を振りをお話しをしました。
動物福祉への関心が全国的に高まる中、2020年の動物愛護管理法の改正は、その動きをさらに後押ししました。
この改正をきっかけに、殺処分数が減少するなど、動物福祉の面で大きな成果が生まれていますが、この成果は法律だけで実現したものではありません。地方自治体や地域の団体が、それぞれの現場で地道に進めてきた取り組みが、大きな役割を果たしています。
私の住む岐阜市では、2020年の法改正よりも前から動物福祉に力を入れてきました。
2017年には「市民と動物の共生社会の推進に関する条例」を制定し、地域の特性に合った活動を進めることで成果を上げています。
全国に先駆けた岐阜市の取り組みが、どのように殺処分数の減少につながったのか。殺処分数の推移を振り返りながら、その背景にある岐阜市の努力と成功の秘訣を探っていきます。
全国の殺処分数の推移(2020年~2024年)
2020年の動物愛護管理法の改正をきっかけに、日本全国で動物福祉への関心がぐっと高まりました。この改正では、動物虐待への罰則強化や、繁殖業者に対する数値規制が導入され、殺処分数の減少に大きく貢献しています。
たとえば、環境省の統計によると、2020年度には全国で約23,764頭の犬や猫が殺処分されていましたが、その数は着実に減少を続け、2024年には16,500頭以下になると予測されています。このように、法律の改正が動物福祉を進める大きな一歩となり、全国で成果を上げています。
全国的にも殺処分数は年々減少しており、具体的な数値としては以下のような推移が見られます。
年度 犬の殺処分数 猫の殺処分数
2020 5,635 27,108
2021 4,388 24,948
2022 3,181 22,789
2023 2,045 19,654
2024 1,200 16,500
注: 2024年の数値は速報値。最終的な統計は環境省からの公式発表を待つ必要があります。
岐阜市の察処分数の変化
岐阜市でも、全国的な傾向と同じく、殺処分数が大きく減少しています。2014年度から犬の殺処分がゼロとなり、その状態を今も保ち続けています。
また、猫の殺処分数についても大幅に減少しており、2020年度には約214匹だった数が、2024年度には15匹以下にまで減ると見込まれています。
この成果は、地域のさまざまな取り組みが積み重なった結果だと言えるでしょう。
岐阜市が見せているこの前向きな変化は、動物と人が共に暮らすための地域の努力の象徴と言えるのではないでしょうか。
年度 犬の殺処分数(岐阜市) 猫の殺処分数(岐阜市)
2020 0 214
2021 0 84
2022 0 50
2023 0 30
2024 0 15
注: 岐阜市保健所の報告に基づいています。
参考
環境省 動物愛護管理行政に関する統計
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/
岐阜県 犬猫の引取り数等に関するデータ(令和3年度)
https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/325155.pdf
岐阜県 犬猫の引取り数等に関するデータ(令和4年度)
https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/361616.pdf
過去の犬猫の殺処分数(平成23年度)
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/h23_dog-cat2.pdf
都道府県別の犬猫殺処分数・率の推移
https://noranecolumn.com/cullingtransition
岐阜市が犬猫の殺処分数を減少させることができた理由
岐阜市が犬猫の殺処分数を減少させることができた理由は、以下のような取り組みが大きく寄与しています。
1. 地域猫活動の推進
岐阜市では、地域猫活動を通じて野良猫問題の解決に取り組んでいます。地域猫活動とは、野良猫を捕獲して不妊・去勢手術を行い、その後、元の地域に戻して適切に管理する取り組みです。この活動により、無責任な繁殖を防ぎ、野良猫の数を減らすことに成功しています。
2. 譲渡会の活発化
市内や周辺地域で、保護された犬猫に新しい飼い主を見つけるための動物譲渡会が積極的に開催されています。動物愛護団体主体となり、保護動物の譲渡を推進しています。これにより、譲渡率の向上につながっています。
3. 動物福祉に関する市民啓発
動物を迎える責任や命の大切さについて、市民への啓発活動を実施しています。特に、以下のような方法で意識向上を図っています:
学校や地域イベントでの動物福祉に関する講演やセミナー
広報誌での情報発信
動物の適切な飼育方法や不妊・去勢手術の必要性についての普及活動
4. 不妊・去勢手術費用の助成
岐阜市では、一部の地域で野良猫の不妊・去勢手術の費用を助成する制度を設けています。この助成制度により、住民が地域猫活動に参加しやすくなり、野良猫の繁殖が抑制されています。
5. 保護動物の適切な管理
市内の保健所では、保護された犬猫を適切にケアし、譲渡に向けた健康管理や社会化トレーニングを行っています。このような取り組みによって、保護された動物が新しい飼い主に引き渡される機会が増えています。
6. 地域住民との協力
地域住民や動物愛護団体との連携を強化し、地域ごとの課題に応じた取り組みを進めています。たとえば、多頭飼育崩壊を未然に防ぐための相談窓口を設けるなど、個別対応にも力を入れています。
これらの取り組みにより、岐阜市は犬の殺処分ゼロを達成し、猫の殺処分数も大幅に減少させることに成功しています。
この成功例は、他の自治体が参考にするモデルとなっています。
岐阜市の「市民と動物の共生社会の推進に関する条例」とは?
岐阜市では、2017年に「市民と動物の共生社会の推進に関する条例」を制定し、人と動物が共に暮らしやすい環境を整える取り組みを進めています。
この条例は、命を尊重し、動物福祉を高めるための道しるべとなっています。
以下では、条例のポイントやこれまでの成果をわかりやすくまとめてみました。
1. 条例の目的
この条例は、動物が命ある存在として大切に扱われ、人と動物が安心して暮らせる社会を目指すために作られました。
主な目的は次の3つです:
動物の福祉を守り、権利を尊重すること
動物を飼う市民の責任を明確にすること
地域全体で動物と共生できる仕組みをつくること
2. 条例の具体的な内容
(1) 動物の適正飼育を推進
飼い主が、動物にとって適切な住環境や健康管理を整えることを求めています。
不妊・去勢手術や終生飼育を行う責任も強調されています。
(2) 野良猫問題への取り組み
「地域猫活動」を支援し、不妊・去勢手術の促進や野良猫の適切な管理を進めています。
地域住民、行政、動物愛護団体が協力して活動する体制づくりも進めています。
(3) 動物虐待の防止
動物虐待の通報窓口を整え、市民が気軽に相談できる仕組みを用意しています。
虐待や遺棄への厳しい対応と、意識啓発を進めています。
(4) 市民への啓発活動
命の大切さや動物福祉の重要性を伝える教育プログラムを学校や地域で実施しています。
動物の適切な飼い方や不妊・去勢手術の重要性を広める講座やイベントも行っています。
3. 成果と課題
主な成果
殺処分の大幅な減少: 地域猫活動が進み、犬の殺処分ゼロを維持し、猫の殺処分も大幅に減少しています。
市民意識の向上: 動物福祉に対する理解が広がり、適正飼育や譲渡活動が活発になっています。
全国のモデルケースに: 地域猫活動の取り組みが全国の参考例となっています。
現在の課題
啓発の浸透不足: 一部の市民には動物飼育に関する意識の格差があるため、さらなる普及が必要です。
違法繁殖や販売の問題: 繁殖業者や無登録販売者への対応が今後の課題となっています。
4. 今後の展望
岐阜市では以下のような新たな取り組みが期待されています
動物虐待防止のための監視体制の強化
高齢者や子育て世代が動物と暮らしやすい環境づくり
近隣自治体と連携した広域的な動物福祉の推進
岐阜市の「市民と動物の共生社会の推進に関する条例」は、動物と人が安心して暮らせる社会をつくるための重要な指針となっています。
市民一人ひとりの協力を得ながら、さらに豊かな共生社会を築いていくことが期待されています。
次回は、この条例がどのように具体的な成果を生み出しているのか、岐阜市の取り組みをさらに掘り下げてお伝えします。