ファッションとスポーツと音楽
ここ数年、90年代のテイストがファッションの世界では流行っていますね。色使いやサイズ、デザインなど懐かしいものばかりです。
例えばナイキのラスタカラーを基調としたエアレイドやそれに準ずるウェア、エアマックス95。リーバイスからはシルバー、レッドなどなど。僕からしたら定番しかないのですが、大学生くらいの人たちには「何これ?ヤバくない?」って映るのでしょう。
しかし、僕はここに業界のなんとも陳腐な戦略といいますか、残念な側面を見てしまいます。もっと正確には、ナイキやリーバイスなどの大元ではなく、取り上げるショップやセレショの稚拙さ浅はかさです。とにかく残念ですね。
90年代といえば、映画、音楽、スポーツ、などなど文化や社会問題とリンクしてファッションがあった。バルセロナオリンピックで狂気的強さを見せたドリームチーム。そのためにデザインされたジョーダン7やエアフォース180のオリンピックカラーはバスケ小僧だけではなく数多の人を魅了しました。
アメリカでは文化闘争があった時代です。スパイク・リーの『マルコムX』による「X」Tシャツやキャップなどの流行、その流れの中でラスタカラーを基調としたド派手なバスケットシューズ、エアレイド。しかも、アウトドアコート、スリーオンスリー用。ストリートとファッションがまさにリンクしていた時代です。
ノースフェイスのヌプシの流行もとてつもなく残念でした。久々に買おうと思ったら流行しすぎて買えない…定番が買えない悲しさといったら。それだけじゃない。やはりそのにはカルチャーとのリンクはないのです。
ニューヨークのブルックリンやクイーンズ出身のラッパーがPVで着てるダウンの多くがノースフェイス。当然ヌプシを着ていたりする。まだ当時は、アーティストがブランド立ち上げてアピールするという手法はそれほどメジャーではなかった。撮影用に用意したとしても、やっぱりストリートの意向や嗜好が反映されていたのです。
バスケットシューズやジーンズ、ダウンなどどれも僕は全てカルチャーとリンクしていたし、社会問題とも密に絡んでいました。それを当時の僕なりにしっかりと勉強して身につけていた記憶があります。
ですが残念なことに、今はほとんどの人がそれを理解していない。「ファッションとはそういうものだ」という声が聞こえてきそうですが、僕がアメリカントラッドのスーツに身を纏う時、当然アイビーは何か、そもそもなんだったのかなど歴史は知っているつもりです。何も知らないでアメトラ、アイビーですなどといえないはず。
90年代の時代背景とファッションのリンクについて知識ないヒトから「いいでしょ90年代!」って言われても、「は?」としかならないではないですか。
中身スカスカで口だけで宣伝されてもなんですよ。特に90年代は。単に青春時代だったからじゃないです。昔からアメリカはいろんなことが社会問題としてあった。もちろん80〜90年代のアメリカでもです。つい最近の話でしょ。コートでは英雄扱いされる人がいる一方、社会全体では差別される。音楽で大ヒットしても、マイノリティに分類される。そして同士人種、民族間での抗争など、複雑極まりない。そんな時代と社会と密に絡んだファッションを簡単に「いいでしょ?」という人々がわんさかいるこの国が、情けなくとてつもなく恥ずかしくてたまらないのです。
社会問題などと密に絡んだファッションなんてもう、おそらく出てこない。だからこそ、今の90年代の流行は、単なる流行で終わらせてはいけない。流行に乗った人は、死ぬほど過去について学ぶ責務があると思うのです。