毎日連載する小説「青のかなた」 第51回
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「うーん。どう話したらいいかなあ」
思南はあごのあたりに手を置き、考える顔になった。やがて、言葉がまとまったのか、すっきりとした笑顔で光を見る。
「光、僕はこれまでの人生の中で、今が一番幸せだよ。こんなに自然のきれいな国に住んで、大好きな料理を作る仕事ができる。おうちに帰れば風花っていう最高のハウスメイトがいて、レイっていう最高の友達もいる。そして、トモっていう素晴らしいパートナーに恵まれた。すごくしあわせだし、これからももっとしあわせになる感じしかしない。そういう『流れ』みたいなものを感じるよ。目には見えない流れ」
「流れ……」
「そう。その流れに乗っているときに、光っていう子が日本から来るよってトミオさんに聞いた。今のこの時期に新しく出会うってことは、きっと素敵な人に違いないと思った。いい友達になれるって。そういうの、なんて言うんだっけ。チョクチョウ?」
「『直感』だな。『直腸』はうんこを蓄える場所」
朝之が言う。「直腸」から「直感」という言葉をすぐに導き出せるなんて、さすがパートナーだ。思南は「ああ、そっかー」と笑い、レイと風花はあきれている。
「とにかく、その直感は間違ってなかったよ。思っていたよりずっと、光は素敵な人」
そう話す思南の笑顔があまりにもにこにこと屈託がないので、光の方がふしぎになってしまう。どうして、こんなにためらいなく人を信じられるんだろう。人を好きになれるんだろう。光だったら、一週間も一緒に過ごしていないような相手のことなんて、とても信じられない。心を許すことができないのだ。
でも、思南のこの感じは「危機感がない」というのとは少し違うような気がした。心の中に安全基地みたいなものがしっかり作られていて、だからゆったりと心穏やかでいられる。自分の内面が安定しているから、外の現象に惑わされない。光のことだって、嫌なところはいくつもあるはずなのに、それを探すことはしないで「素敵な人」だと言ってくれる。
その、芯がしっかりとしている感じはどこからやってくるんだろう。その疑問を口にしてみたら、思南は「光もそうなれるよー」とあっさり言った。
「そうなりたいと思ったときが、最初の一歩だよ。スポーツと同じ。選手になれると思ってサッカーの練習したらなれるけど、最初から『自分なんか選手になれない』って思いながら練習したら本当になれないよ」
「そういうもの?」
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