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弾けた白濁液(1)
「萩原くん、ちょっと」
篠田部長の声が聞こえて、進藤正人はデスクから顔をあげた。
斜め後ろの席から誰かが立ち上がって、窓際の部長の 元へと向かう気配がする。
正人の後ろを通る時に、何ともいえないいい匂いがふわりと香った。さりげなさを装いながら、 斜め後ろに視線を走らせると、見事なプロポーションの後ろ姿が見えた。
萩原麗子。この春から正人が勤める商社に来た派遣社員である。24歳。
ぴったりとしたタイトスカートを通して、ヒップの形の良さが手に取るようにわかる。相変わらずいいケツしてやがるなぁ……。
正人は一人ごちながら、彼女を初めて目にした日のことを思い出していた。
あれは今年の春のことだった。
出社途中に、麗子と会ったのだった。いや、会ったというのは正しくない。都心のJR駅から会社へ向かう途中、正人は麗子を見初めたのである。
びんと背筋を伸ばして歩く姿がとても凛々しかった。くたびれたビジネス街の通勤風景の中で彼女一人浮き上がっているようだった。
それでいて、女らしい柔らかさも備えている。 つんと上を向いて張りのある尻肉が、歩を進めるたびにぷりんぶりんと弾んでいた。
「こういう女に限って、前から見るとブスだったりするんだよなあ。パックシャンってやつで」
そんなことを考えながら、少し急ぎ足になり、追い越しさまに横目で彼女の顔を盗み見て、正人は思わず息を呑んだ。
ものすごい美人だったのだ。シャープな頬のライン、きりっとした眉、細くてよく筋が通った鼻、それに小さ目の唇。
見事な造形だった。
それも、かわいらしさと優雅さを併せ持った男好きのするタイプである。
黒目の大きな瞳が、くりっとしていて何とも愛らしい。ショートカットの髪はムースでもつけているのだろう、しっとりと濡れて見事にスタイリングされ、シルクのオープンシャツの襟を立て、大きく開いた胸にはさりげなくスカーフを垂らしている。
高そうな女だなぁ。モデルかなんかかな。あんな女と付き 合ってみたいもんだなぁ。
そう思いながら、正人は溜息をついた。
どうせ俺には高嶺の花。知り合うチャンスすらないよ。
そんな自嘲気味の気分だった。
ところが、それからわずか数十分後、正人は再び息を呑むことになる。
「今日からうちで働いてくれる萩原さんだ」
朝礼で部長がそう紹介したのが、なんとさっきの美女だったのだ。
回りの男子社員たちがポカーンと口を開けて見とれているのが目に入った。
馬鹿面してやがる。俺はおまえらよりも先に彼女に会ってるんだぜ。
別に口を利いたわけでもないのに、正人はちょっとした優越感に浸っていた。気持ちが華やいでくるような気がした。
もしかしたら、これは何かの縁かも……。
頭の中にドラマチックな夢想が広がっていった。
もちろん、現実は残酷である。劇的な出会いなどめった訪れはしない。
1週間経っても、2週間経っても、彼と彼女との間に当然何も起きなかった。同じ部署で働いているといっても麗子と親しく口をきくことすらなく、たまに事務的な話をすることがあっても、どきどきするばかりだった。
それでも美貌の彼女を毎日盗み見ることができるだけで、会社に行くのが楽しくなった。そして時折彼女との情事を夢想して、一人楽しむようになった。
正人の想像の中の麗子は見事な肢体を惜しげもなく晒してくれた。Dカップはありそうなバストは形がよく真ん丸で、その中心の蕾はとても敏感で、正人が口づけると、くうぅーんと甘えるように鳴いて、身をくねらせるのだった。
滑らかな肌を伝って指を這わせていくと、そこには熱い泉が湧いている。そっと指先を差し入れると糸を引くように透明な粘りが絡んでくる。内側をこねるように動かすと、全身を震わせながら、正人にしがみついてくる。
小ぶりで上品な唇は正人のペニスをしゃぶったせいで、口紅が滲んでしまっている。その唇に吸いつきながら、正人は何度も何度も麗子の秘部にペニスを突き立てるのだった。
声を抑えようと必死で耐えていた麗子の口から、控え目な、それでいて艶っぽいあえぎが漏れ始める……。
「進藤くん、こっちへ来てくれ」と。
妄想にふけっていた正人は、はっと正気に戻った。
さっきから萩原麗子と何やら話し込んでいた篠田部長が彼を呼んでいた。慌てて部長のデスクへ向かう。
さっきの妄想のせいで顔が少し紅潮している。心臓もドキドキしていた。何よりもそこには篠田部長だけでなく、麗子が待っている。
「実は例の経費の再精算の件なんだがね。君一人では大変だろうから、萩原くんに手伝ってもらうことにした。大体のことは僕から説明しておいたから、あとは君の方で指示して一緒にやってくれ」
「えっ、萩原さんとですか?」
思いがけないことに、正人は聞き返してしまった。
「そうだよ。萩原くんじゃ不満かい? 派遣社員とはいっても彼女はなかなか有能なんだけどな」
「いえいえ、不満なんて……。そうじゃなくて、えっと……」
しどろもどろだった。
「じゃ、まあそういうことで後はよろしく。萩原くん、頼むよ」
「はい、わかりました。進藤さん、よろしくお願いします」
麗子の笑顔がすぐ目の前にあった。「あっ、いや、こちらこ そ」と正人は何とも頼りない返事をしながら、目を伏せた。
優雅な匂いがぷーんと香った。
それから夢のような日々が始まった。
何せ毎日、麗子と一緒の仕事である。二人きりで会議室にこもることもあれば、 残業をすることもあった。
先月終わったばかりのプロジェクトの経費を再チェックする作業は細かい部分も多い。不明な点をみつけるたびに麗子は「篠田さん、すみません、ここなんですけど……」と領収書と帳簿を手に、顔が接するほど近づいてきた。
何よりも嬉しかったのは、徐々に麗子が正人になついてくるように感じられることだった。仕事の合間や、残業後の帰り道に、彼女はプライベートな話をするようになった。
それは学生時代の友達の話だったり、海に遊びに行った時の失敗談だったりと、大抵はたわいもない雑談だったが、それでも憧れの麗子がどんどん身近になってくるようで、正人の心は弾んだ。
いよいよ作業も終わりという晩、いつものように二人で残業を終えた後、麗子が「篠田さん、お腹空きませんか? ごはんでも食べに行きましょうよ」と無邪気に誘ってきた。
これだけ二人で共同作業をしていながら、それまで正人は彼女と連れ立って退社したことすらなかった。せっかく親しくなれたのに、図々しい行動に出て、嫌われるのが怖かったのである。
ところが、今日は彼女の方から誘ってくれたのだ。断る理由などあるはずもない。
「そうだな。長い間頑張ってくれたから、今日は俺のおごりだ」
飛び上がらんばかりの歓びを隠して、正人は先輩風を吹かせるように冷静に言った。
「えーっ、本当ですかぁ? 嬉しい!私、行きたいレストランがあったんです」
麗子が飛びついてきた。思わず抱きとめた身体はしなやかで、柔らかかった。
頭がくらっとした。
レストランは副都心の公園に面した高級ホテルの最上階にあった。眼下には宝石を散らしたような眩い夜景が広がっている。
麗子は「わーっ、きれい!」と愛くるしい瞳を輝かせた。
「こんなところで食事できるなんて……進藤さんのおかげです。それにお料理もすっごくおいしい。なんか夢のようです。ありがとう、進藤さん」
正人こそ夢のようだった。彼だって、こんな高級なレストランで食事をしたことなど、これまでただの一度もない。おまけに麗子ほどの美女と二人きりである。
周りの男性客がちらちらと彼女に視線を向けているのがわかる。そのたびに正人は鼻が高かった。
自分まで高級な男になったような気がした。
もっとも高級レストランだけに、金額の方もかなりのものだった。
あ~あ、これで今月はオケラだぜ……と食事の後、現実に引き戻されている正人に麗子が弾んだ声をかけた。
「もし、よろしかったら、バーで少し飲んでいきません?」
一瞬、おいおい、もう金がないよ……と思った正人だったが、すぐに「オッケー。じゃあ軽く飲んで行くか」と平静を装って答えた。
見栄を張っちゃったな、でも、麗子と一緒に飲めるんだし、もしかしたら酔った勢いで……。
そんな下心が正人を誘惑した。