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あの男性は一体何を待っていたのだろう?

小さな田舎町の駅。夕方の薄暗いホームには、いつも人影が少ない。通勤客が帰りの電車に揺られていく時間帯、私ホームをゆっくり歩いていた。

ふいに、古びたコートを着た中年の男性がベンチに座っているのが目に入った。彼は少し寂しげな表情で、時折時計を見つめている。電車が来る時間はまだ少し先だ。それなのに、彼はじっと何かを待っているようだった。

「電車を待ってるんですか?」と、思わず声をかけてしまった。彼は驚いたように顔を上げ、微笑んだ。「ああ、そうだ。もうすぐ来るんだ、待ち合わせなんだよ。」

私はそれ以上追及することもなく、ホームを歩き続けた。しかし、気になって振り返ると、ベンチに座っていたはずの男性の姿は消えていた。

不思議に思い、駅員に尋ねると、彼は首をかしげた。「この駅に待ち合わせの人なんてほとんど来ないんですよ。それに、そんな男性は見かけませんでしたが…」

あの男性は一体何を待っていたのだろう?心の中に小さな疑問が残ったまま、私は電車に乗り込んだ。


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