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「消えた足跡」ショートショート

雪がしんしんと降り積もる夜、森の中に佇む古びた屋敷は、静かに時を止めたかのようだった。主人公である探偵の山本は、異様な緊張感を感じながら、屋敷の玄関前に立っていた。

「おかしい…」

住人の依頼で訪れたこの屋敷では、夜な夜な不気味な現象が続いているという。そして今、雪の上に鮮明に残る足跡が目の前にある。だが、その足跡は玄関の扉の前で途切れていた。屋敷の中には誰もおらず、雪が積もるこの状況で、他に誰かが出入りした形跡もない。

山本は一瞬戸惑ったが、玄関のドアを開けて中に入った。屋敷の中は古めかしい家具や装飾で満たされていたが、静寂が全てを支配している。不気味なほどだ。

「一体、どうやって消えた…?」

彼はゆっくりと歩きながら、目を凝らして屋敷内を調べ始めた。住人が話していた怪奇現象――足音や物音が頻繁に聞こえると言っていたが、それも全てが不気味な「演出」に思えてくる。だが、犯人がどこにいるのか、どうやって足跡を消したのか、まだ手がかりは見つからない。

しばらくすると、山本は壁の一部に奇妙な擦れた跡を発見した。手で触れてみると、どうやら壁は動かせるようだ。彼は慎重に力を入れてその壁を押してみた。

ガタン――

小さな音を立てて、壁の一部が開いた。そこには、隠し通路があったのだ。古びた階段が地下へと続いている。山本はランプを手に、その階段を降りていった。

地下室は驚くほど広く、埃が積もった家具や箱が乱雑に置かれていた。そしてその奥には、もう一つの出口があった。そこは屋敷の裏庭へと通じていた。

「なるほど…こういうことか。」

山本は犯人のトリックを理解した。犯人はこの隠し通路を使い、外から屋敷に足跡を残しながら、実際には別の経路で屋敷を出入りしていたのだ。雪の中に続く足跡を演出し、まるで屋敷の中に入ったように見せかけていた。しかしその後、通路を通じて姿を消し、まるで幽霊が消えたかのような現象を作り出していたのだ。

数日後、警察の調査により、犯人がついに捕まった。犯人はかつてこの屋敷に住んでいた元住人で、隠された財宝を求めて再び屋敷を訪れていたのだ。しかし、今の住人に邪魔され、屋敷に自由に入れないことから、不気味な現象を起こして追い出そうと企んでいた。

だが、彼が求めていた「財宝」は、屋敷のどこにも見つからなかった。それは、本当に存在していたのか、それとも単なる噂だったのか。謎は深まるばかりだった。

山本は屋敷の外に立ち、再び降り積もる雪を見上げた。

「消えた足跡…結局、何が消えたのは、犯人の欲望かもしれないな。」

そう呟きながら、彼は静かに屋敷を後にした。雪が全てを包み込み、足跡もまた、すぐに消えていった。



子供用のお話も作りました。


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