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「真夜中のラジオメッセージ」ショートショート
冬の夜、時計が0時を指す頃、志乃(しの)は一人きりの部屋で古いラジオを調整していた。数日前、実家の押し入れから偶然見つけた昭和風のアンティークラジオ。それはどこか懐かしくも不気味な魅力を放っていた。
「こんな古いもの、動くのかな?」と半信半疑でダイヤルを回すと、不意にザーッというノイズの合間に低い声が聞こえた。
『……聞こえているか……志乃……』
突然の出来事に志乃は息を飲んだ。名前を呼ばれた? 自分の勘違いだろうか。しかし耳を澄ますと、再びラジオから声が響いてくる。
『お願いだ、助けてくれ……井戸の底に……』
井戸? 志乃の頭に思い浮かんだのは、子供の頃に遊んでいた公園にある古い井戸だった。何度か覗き込んだ記憶はあるが、いつも深い暗闇が広がっていただけで、底は見えなかった。だが、あのラジオがどうして自分の名前を知っているのか? そして、この声の主は誰なのか?
恐怖を感じながらも、志乃は翌日その井戸を訪れることにした。
翌朝、公園の井戸の前に立った志乃は、思ったよりも強い寒さに震えながら、中を覗き込んだ。井戸の縁には古びた木製の蓋がしてあるが、簡単に外せそうだった。
蓋を取ると、井戸の奥から何かが反射するような光が一瞬見えた。「何かある……?」志乃は慎重にスマホのライトを照らしてみる。しかし、暗闇は深く、何も見えない。諦めかけたその時だった。
『志乃……助けて……』
再び昨夜の声が、今度ははっきりと聞こえた。反射的に志乃は後ずさり、背後でざわめく風の音に耳を傾けた。だが振り向いた瞬間、地面が突然崩れ、志乃はそのまま井戸の中へ落下した――。
目を覚ました志乃は、自分が井戸の底にいることを知った。あたりは真っ暗で、冷たく湿った空気が漂っている。ふと手を伸ばすと、何か硬くて冷たいものが当たった。スマホのライトを点けると、そこには白骨化した手が見えた。
「……誰……?」
壁に彫られた文字に目を凝らすと、こう書いてあった。
「志乃、ようこそ」
その瞬間、ラジオの声が頭の中でこだました。
『これで……君もここに……』
志乃が声をあげる暇もなく、闇が彼女を飲み込んでいった。
おにぎりが活躍する楽しいお話です!