消えた郵便配達員
あるところに、名もない小さな村がありました。その村には一つだけの古びた郵便局があり、そこでは一人の郵便配達員が働いていました。彼の名前はタクヤといい、村の皆から愛されていました。
タクヤは毎日、村中の家々を回って手紙を届けていましたが、ある日、不思議な手紙を見つけました。宛名も差出人も書かれておらず、ただ「開けてはいけない」とだけ書かれていました。興味を引かれたタクヤは、どうしてもその手紙の中身が気になり、少しずつ封を開けてしまいました。
中には小さなメモが一枚だけ入っていました。それには「この手紙を開けた者には、世界のすべての秘密が明かされる」と書かれていました。タクヤは驚きながらも、次のページをめくろうとしましたが、その瞬間、目の前が真っ暗になりました。
タクヤが気がつくと、そこは広大な図書館の中でした。無数の本棚が天井まで並び、その一つ一つが世界中の秘密を記した本で埋め尽くされていました。タクヤは驚きと興奮に包まれ、本を一冊手に取ろうとしましたが、その瞬間、全ての本が消え去りました。
「あなたは全ての秘密を知ることができる。しかし、代償としてあなたの存在は歴史から消える」と、突然声が響きました。タクヤは迷いましたが、知識への欲望が勝り、消えた本を呼び戻しました。
すると、村の生活が全く変わってしまいました。タクヤの家も、彼の友人も、彼が配った手紙の記憶さえも、村からすべて消え去っていました。彼の存在は、誰の記憶にも、記録にも、残されていなかったのです。
村の郵便局も廃墟と化し、そこにあったはずの「開けてはいけない」手紙も消えていました。ただ、一人の見知らぬ男が、ある日廃墟を訪れ、古びた手紙を拾い上げました。その男がタクヤであったことに、誰も気づくことはありませんでした。
彼は世界の全ての秘密を知ったが、自分自身を失うことで、その代償を払ったのでした。
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