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「透明な心」ショートショート


公園のベンチに座る男の子は、特別な力を持っていた。それは、他人の心を透かして見ることができる力。けれど、その力が彼を困らせることが多かった。

ある日、彼はいつものように公園で遊んでいると、一人の女性がベンチに座った。女性の心は彼にとって特別だった。透けて見える心は、まるで空のように澄んでいて、何も隠されていなかったのだ。

「君、何をしているの?」と女性が尋ねる。

「人の心を見ているんだ」と男の子は正直に答えた。

女性は少し驚いたようだったが、笑顔で言った。「じゃあ、私の心はどう見える?」

男の子は答えた。「あなたの心は透明で、何も隠していない。けれど、それがかえって寂しい。」

女性は少し考えた後、静かに言った。「透明だからこそ、君には何でも見せてあげることができるの。でも、隠し事がないと、他の人には見えない部分があるかもしれないね。」

男の子は黙って考えた。彼がこれまで見てきた心は、いつもどこかに傷があり、何かを隠していた。だが、この女性の心には何もなかった。純粋すぎて、逆にその中に何も見えないのだ。

「僕は、透明な心がどういうものか、まだわからない。でも、きっとあなたは他の人とは違う特別な存在なんだと思う。」

女性は微笑み、男の子の頭を優しく撫でた。「君も特別だよ。その力を大切にね。」

その日、男の子は初めて心の中に何も見えない相手と出会った。透明な心を持つ彼女は、自分の心をさらけ出し、何も隠すことなく生きていた。彼は彼女との出会いを通じて、自分の力の意味を少しだけ理解した気がした。

そして、彼はそっとつぶやいた。「透明な心って、隠す必要がないくらい強いんだね。」

それからも、男の子は公園に通い続けた。しかし、その日以来、彼は他人の心を覗くことを少し控えるようになった。透明な心を持つ女性に出会ったことで、彼自身の心も少しずつ透明になっていく気がしたからだ。


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