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【短編小説】Rojiネコ〜昭和の街かど愚連隊〜

 第1章 Rojiネコ同盟

 作&画/Boubon Samu50.5


【まえがき】
巷にはネコがあふれている。街角にたたずんでいようが、コタツで丸くなっていようが、だれも追い払ったり、いじめたりする奴はいない。優雅なもんだ。キャラクターもすごい種類だ。確かに人気はある、それは認める。勝ち組ってことだな。

一方、ネズミって違うよね。ミッキィーマウス、トム&ジェリー、マイティーマウス。一世風靡したキャラは多かったけど、ちょっと今は厳しい時代になっちゃったな…えっ!ミッキィーは人気があるって?ああ確かにそうだな、間違いない、失礼しました。ディズニーって言うか、ネズミーランドでいまだに人気があるね。あの青いダックも人気だな。

ところでネズミって何だろうね?動きが早いし、ダークブラック、ダークグレー そして、ちょっとインキャラ?普段の生活の中で、ネコみたいに一緒に人間様と写ってる事はまず無い。どちらかと言うと隠れてる存在だ。活躍の場は間違い無く「夜」だしね。台所にネコが居ても可愛いね〜って言われるが、ネズミが居たら間違いなく追い出されるよ。

「きゃーっ こわい!
 気持ち悪い!」ってね
何なんだこの差は

時代が変わったのか?それともメディアが作ったストーリーだったのか!人間と生活を共にしている生き物も、その都度、人間の嗜好が変わるので大変だ、辛いところだよ。そう言えば昔、ノラクロって漫画あったな。昭和初期の漫画で、黒い野良猫って意味だな。ノラクロか〜面白いな〜。

えっ!ひらがな?
「のらくろ」だったのか!そして犬だったのか!
大変失礼しました(涙)

それにしても、のらくろ軍曹、のらくろ二等兵、当時は人気の漫画だったらしいぞ。いつしか消えてしまった漫画だけど、当時は戦争モノが多かったからね、何となくうっすら憶えてるよ。

まあ、俺たちRojiネコ🐈‍⬛は、一応「ネコ」だから心配無い。ちょっとだけ「ひねくれたネコ様」だと思ってくれればいい。気持ちの中では日陰の部分もあるけど、悪い奴じゃ無いんだよね。一時期、日陰が好きになって、Rojiuraネズミのように振る舞ってた事があったから、いつしかそんな風に呼ばれるようになったけど、でも野良猫じゃ無いぜ、Rojiネコだぜ。それなりに生きてるからな。

そんな事で俺たちの
「Rojiネコ🐈‍⬛」始まるよ
まあよろしくね🤗


【登場人物】※ネコたち
◎ヨシオさん
◎マコト
◎タクジ
◎マサさん
◎ミノル
◎コピちゃん
◎チューやん
◎サダちゃん
※リク(特別ゲスト)

【場  所】
とある東京下町の一角


【時代背景】
昭和の初期 (1930年〜1950年)


【第一話 ドル箱】

ここはいい街だ、活気に満ちてる。
駅前なんかとくに騒がしくてザワザワしてるな。人間の動きがいいね。イキイキしてるよ。

ここは町屋の駅裏通り。とあるパチンコ屋と金物屋の隙間。ヨシオさんは雨をしのぎながら思った。ヨシオさんって誰?ヨシオさんってこの人。
いや、このネコだよ。

ヨシオさんyoshio

ホントに人間って不思議だ。変な生き物だよ。
こんなジャラジャラ音がしているガラス板の前に座って、何時間も玉の行方を追っているヤツら、飽きもせずに、それもこんなにいるとは。雨の日は特に多いかって うーん、いやそんな事はないな いつも一緒だな。ひたすら硬貨を注ぎ込んでは、銀の玉を入れている。次から次へと入れ続ける。銀の玉はバネに弾かれて、下の穴へと消えて行く。さようならって感じだ。ヨシオさんが見ている時にも、また玉は消えていった。何してるんだか、俺にはわからない。理解できないな。

「やった はいった!」
「やっぱニュートーキョー 最高だよ」

1人の男が立ち上がって興奮してる。

「おーお やりましたね コーノさん」

同僚らしき男も興奮してる。彼は部下のようだけど コーノとか言う男を完全に見下している感じにみえる。

「いゃ〜 時間かかった〜」
「3,000円注ぎ込んじゃったよ」

コーノ興奮冷めやらず。
相変わらずタバコの灰が落ちそうだ。

「調子のいいヤツだな」
ヨシオも同じ思いだった。

「コーノさん!やりましたね、
 一発台って幾らになるでしょうね?」

部下はとっくに持ち玉切れで、となりのイスに座っていた。結構時間を持て余しているようだった。しかし、ヨイショしつつも、心の中は全く違う事を思っていた。

〜早く会社に戻らないと課長代理に怒られるよ
 何してんだよコーノさんよ〜

部下は4時を過ぎた辺りからマジメに焦っていた。

「そろそろ行かないとヤバいっすよ」

部下はコーノさんのカバンを持って、銀の玉で一杯になった「ドル箱」を見ていた。

「大丈夫だよ かりの話〜 これで5,000円くらいかなあ〜」

コーノは完全ハイになっていて、もうこのまま居座る気満々だった。

「あっそうだ! 自分は〜 課長に直帰するからって、さっき連絡入れてあるからさ」

「えっ!マジっすか」
「えっ俺は?」

「かりの話〜 そのくらい自分で考えてよ」
コーノのタバコの灰が地面に落ちた。

いつもの事だった。いい加減な男の代表格。部下は店の外に出て、公衆電話まで走っていった。

「ひどい!いつもこれだよ、酷過ぎるよ〜」

「うーん…彼っ かわいそ〜だな」

ずーっと見ていたヨシオさんは気の毒に思っていた。

「5,000円って…あの銀玉はお金なのか?」

なるほど!昼メシ食って、今の今までパチンコして、そうか金稼いでいたのか。これも仕事なのか、半分納得した様なしない様な、不思議な感覚に陥った。


Rojiネコのヨシオさんは人間のする事が理解出来なかった。朝早くから夜遅くまで忙しく動いて、何しているんだろう。朝は立ち食いソバを一瞬で食らって、昼も立って牛丼食う。夜になれば再び立って飲んでいる。俺たちなんか、まあ気分良くボーッとしている毎日だけどね。


ヨシオさんは町屋から浅草方面に歩き始めた。
雨も小降りになってきた様だ。


〜明日晴れるといいなあ〜


【第二話 ハレヤ横丁】

この時代、角打ちは多かった。
角打ちって何かって?


立ち飲み屋の事だよ。


そこは当時、下町サロンの様な雰囲気を出していた。まあ、椅子なんか無いけどね。座敷に上がったり、綺麗なテーブルで一杯やるヤツは あまりいなかった。気楽な立ち飲み屋に軍配が上がってたよ。サラリーマンだって、工場勤務のヤツだって みんなここに集まって来た。カウンターも満席、立ちテーブルも満席、入りきれないヤツらは無理矢理割り込んで来てたよ。いわゆるダークダックスってヤツだ。そう呼んでいるオッサン達は なぜか嬉しそうだった。

ダークダックスって何?

って聞きたいだろうが、その辺は考えない方がいいだろう。とにもかくにも観ている我々も参加したいくらい、仕事終わっての酒盛りってのは楽しそうだった。


俺はマコト。そう、ちょっと一風変わったネコさ。この小説の中では主人公という事になってる。格好はこの時代に合わせているけど本当は違うんだぜ。でも事情があって1940年の東京に来てるわけさ。

マコトmakoto

毎日毎日、みんなせわしく動いてる。本当なら辛くて投げ出したいだろうけど、何故かみんな楽しそうだ。何かいい事が訪れるんじゃないかって…そう思ってるような時代かもしれない。

しばらくして、角打ちにあれだけ群がっていた面々は、一斉に帰って行った。まあ時間からすれば一瞬なのかもしれないな、そんな気がした。再び暗い闇が訪れる前に、マコトは上野のネグラへと戻って行った。

〜上野の森もようやく眠りについたようだ〜


朝が来る前に、マコトはすでに移動していた。あのヨシオさんが先に歩いている。そう、ヨシオさんとは浅草で会って以来、一緒に行動している。彼は下町が好きだ。ここは上野と御徒町の真ん中にある横丁、通称ハレ横っていうところだ。

「こっちは人が多いな」
ヨシオさんは驚いていた。

そしてハレ横は色々な物資が集まる市場のような場所。鮮度がいいんだろうね、そして売り方も荒い。一気に山積みの魚が無くなっていくよ。1皿で千円が、2皿で千円になるのにそんなに時間はかからない。買う方も買う方だ、当たり前のように値切ってる。まあ、こんなやり取りが好きなんでしょうね。マコトはヨシオさんに気付かれないように、その光景を青い目に焼き付けるため、気付かれないようにシャッターを押していた。マコトはゆっくりとコメカミから手を離した。

「御徒町の方に行ってみようか?」
ヨシオさんは拝借したチクワを食べながら言った。

「ああ そうですね、行きましょう」
俺に選択肢は無かった。ひたすらこの時代の時間に合わせるのがルールだからね…  一瞬!

「八百屋の陰に 誰かいる!」
思わず叫んだ!

確かにいた。ちょっと小太りのネコだ。ヨシオさんも気付いた。気になるので取り敢えず追いかけることにした。小太りネコは一目散に逃げ出した。何かヤバいことでもしてたようだ。それとも我々を?

「意外と早いな、アイツ」
ヨシオさんが振り向きざまに言った。

「ひとりか? 仲間居るのかな?」
俺も心の中でつぶやいた。

なぜか不思議とスタスタ逃げてるヤツを追いかけてるうちに、妙な親近感が湧いてきた。

〜ヤツも仲間か!そう心の中で思った〜

しかし奴はシマを熟知している、この辺にいるヤツだな。完全に離されてしまったらしい。もつ焼き「副大統領」の前までは見えていたが、裏手に回ったところで消えた。

「やめよう、キリがない」
ヨシオさんはブロック塀の上から言った。

あたりには、「もつ焼き」の香ばしい香りが充満していた。この匂いはたまらないな!ヨシオとマコトは御徒町の終わりの方まで移動して行った。

この辺りは魚も良いね。本当にこの辺は、新潟からも千葉からも良い魚が入ってくる。行商のお母さんたちの朝は早い。我々も掻き入れ時には邪魔になっている。


「明日はアジの干物でも戴きますか!」


ヨシオさんはどうやら、この雑踏の中が好きなようだ。そうでなければこんなに一体化してるオーラは出ていないしな。

「明日になればヤツは現れるよ」
ヨシオさんはポツリと言った。俺もそんな気がした。まあ人が多い街で生きて行くのも、いいもんだな。細々とした狭い空間に押し込められた世界、感情がぶつかり合う商人の街。

〜マコトはいい予感がして来た〜


【第三話 未来型ネコ】

〜俺はマコト〜ロボットです。

2040年の世界から来た。100年後の東京だ。未来から来る場合、ほとんどが時代干渉なしの偵察部隊という事になる。人間も来ているが、普通は分からないだろうね。そもそも見えないから。

この時代が良かったって思う人、結構いるらしい。この時代を懐かしむ人たちが、かなりいる事があとでわかった。何か参考になるものがあるのかも知れない、という事で時空を超えてやってきたわけである。

マコトはネコ型ロボット。ドラえもんじゃないからね。いわゆるアバターである。自分の主人は2040年の世界で、少し弱った脚をかばいながら、マコトを使って、100年前の東京に意識を同通させている。カタコトの日本語で奥さんと会話をしながら、マコトの右眼球に埋め込まれた電脳カメラを操作していた。アバターの言語は全て適応してるので安心だ。私はその間は寝ているようだ。



マコトの目は青い。そしてカメラを通して、そっくりデータを送信出来るようになっている。送信データ量は1テラまでは1秒掛からない。とにかく気付かれないようにしなくてはならない。次元を超えての送信という事なので、タイムトラベラーとしても極秘事項だ。すでに数万枚のデータは送信済みだ。2040年に生きてる人類の事は伏せたい。2025年に起きた未曾有の天変地異から逃れた人々だからだ。誰もが記憶から消したい時代だったからだ。

それでも東京は不滅だった。

2019年頃から世界の有能な科学者、政治家による大改革騒動が始まった。そのターゲットは日本。そしてこの「レトロ東京」であった。従順な人たち、物言わぬ人たち、なぜか背骨を抜き取られてしまったような人たちは、その見えない騒動に気付いていない。まさかその実行部隊が、恫喝された政府だったとは未だ信じられない。さらに100年近く前、この国は巧みに仕掛けられた罠にまんまと引っかかった。国民総動員で見えない影と戦った。戦っていたのは自国に仕掛けられた罠だった。そもそも政府が騙されたので、色々な作り話、特殊映像があたかも真実のように宣伝された。我々は最後の攻撃を受けるまで、何が起きてるか実は知らなかった。

色々な舞台演出をしたのは、長らく世界を金融、権威、恐怖で支配してきた組織だ。最初は優しく英国紳士のような出立ちで話しかけてくるが、そのあと牙を剥いてくる。資源を何しろ独り占めする事が趣味らしい。アフリカ含め、全ての大陸で実行された。しかし騙された事に気付き、立ち上がった国からその呪縛は解かれていった。日本は遅かった。世界のラストだった。

日本は、そしてレトロ東京は、さらに数年間見えない影と戦い続けた。それは自国民との戦いでもあった。植え付けられた常識は、全く変化を見せなかった。覚醒を抑え続けられた80年近くの歳月は岩盤のようだった。



ある時キッカケが訪れた。
何の変哲のない、たわいの無い言葉の中にあった。



それは…



【第四話 緑眼のリク】

リクも同時代に送り込まれたネコ型ロボットだ。
リクの目は緑色、とても綺麗だ。次章で詳しく話すが、この猫は最強のアバターを被ってる。会話をほとんどしないし、表情も全方位で出すことはまず無い。ただ主人(飼い主)とは心が通っている。また彼は人間の心を読む事が出来る。外見を見ると戦闘型アバターをまとっているのが重々しいが、慣れて来れば問題無い。

リクriku

15年前から突然昏睡状態に陥ってしまったリク。愛情を自分の子供以上にそそいでいた飼い主はひどく悲しみ、当時最高の技術を施し、アバターを用いて肉体以外の精神部分を呼び出す事に成功した。アバター的には多少ぎこちなくなったリクだが、精神に関しては生前のままだった。特に眼はそのままだった。その深遠な緑色の瞳は、人の心以上に未来を見通す能力も備えている様だった。


マコトはリクのことを知らない。知らなくてもいいことになってる。なぜならマコトを監視する役目を持って、タイムトラベルしたからだ。ある面恐ろしい世界が出現する予感さえ感じさせる。この辺の話は後にしよう。


それぞれ違う場所、違う年代から送り込まれた2人。何かの異常が無い限り、確実に指令を実行して帰還するアバターたち。


タイムトラベラー庁に届けを出して、監視員の許可の下、厳重に行動を監視されるアバターネコたち。実際この世界に自由はあるのか、飼い主の精神レベルによって、全て異なる世界に従順に生きていかなければならない事はわかっている。

いずれにしても、ネコは人間のペット。人間様に使えるロボットのようなものだ。普通は亡くなったらそれまでだ。

ただリクは違った。生まれた時から精神的エネルギー量が、通常値を遥かに超えていた。ほぼ人間と同じレベルと考えてもいい。昏睡状態から肉体だけ入れ替わった特殊な例だ。任務が終われば、晴れて主人ともとの生活に戻れる…

しかし難しい時代を生きることになったものだ。

リクの主人は46歳。10社を経営する事業家だ。今や売上は400億円に達する。平成から令和と激動の時代を生き抜いた、マーケティングのエキスパート。メイン事業はコンサルティングだが、全国に展開してる会員制BARは静かな拡がりを見せている。運営は上手と言えよう。

実際、自分は前面に出ないが、細かい指示は鋭く隅々まで届いている。元々とどまることが出来ない性格。次から次へと、事業は変化を見せるが失敗も多い。得るものより失うものも多かった。奥さんを大切にしてる反面、仕事は非常に厳しい所がある切れ者だ。友達もかなり多い。夜出歩く頻度は異常値を示している。それが主人のいいところかもしれないけどね。自分の部屋はマジ散らかってる。お世辞でも綺麗とはいえない。やはり人間ってスキもあるからね。それが本人は安心するようだ。


リクが昏睡状態になってから永遠の時間が流れた。


まさに眠り猫。ぬいぐるみが置いてあるようなものだった。それにしても15年は長かった。子供たちが大きくなっても、リクは静かに眠ったまま。長男には少し記憶が残ってると思うけど、ほとんど声も出さず、眼も開かずのリクは家族にとって静物の一つにすぎなかった。


〜しかし〜


たまに精神的反応がみられた。午後の不定期な時間に、主人の心の中にリクから通信が入ってくるのだ。最初の頃は、1秒程度のモールス信号のようだった。

〜ビッ〜

次第に時が経つに従って、かつて意思疎通していた内容まで到達していた。

〜リクは生きてる〜

確信を得て何とかならないかと、主人は大学時代の友人に連絡した。


〜アバターに移行するってのもありだな〜


唐突に言ってきた友人に面食らったのも束の間、政府主導で進めてきたムーンショット計画が頭に浮かんだ。政府の計画に関しては、仕事上ついて行くしかなかったが、抵抗する気持ちは持ち続けていた。アバターの事も知っていたが、まさか自分が実行するとは思わなかった…


新しいアバターは、申請してから約1ヶ月で顧客のもとに届く。本来、神の領域に入る事になるので、かなりの制限付きだ。それもそのはず3次元的肉体から離脱するわけだからね。人間の欲望の果て、不老不死の行き着く所。転生輪廻をサイボーグで代行するわけだから。慎重にならざるを得ない。


しかし人間まで行き渡る事は無かった。


途中で時間軸に狂いが生じてきたからだ。逆にペットをアバターに移行させるのは公では無いが、水面下で進んでいた。


二ヶ月が経った。ベンガレンシスの葉が青さを増す頃、昏睡前と同じ姿では無いが、リクは台所のシンクの上に上がっていた。


〜リク そこは危ないよ〜


懐かしいセリフが出た。ボディが戦闘用アバターをまとっているので、軽くぶつかっても破壊されてしまうのがちょっと難点だった。


それでも…目頭を軽く押さえた主人に…


15年前の記憶が蘇っていた。


【第五話 金貸小屋の3人】

「ハレ横」は相変わらずにぎわっていた。ハレってハレヤ横丁の略だよ。晴の日横丁とハレルヤ横丁が合体した名前だ。アメ横もアメ屋横丁と、アメリカ横丁の合作らしい。まあ分かりやすい事はいい事だな。


ヨシオさんとマコトは生鮮市場の裏で、人間様が食べ切れそうもない食物を、敬礼しながら頂戴していた。毎日入荷するモノがあふれてた。その場で売れたけど少し余るもんだよ。


何しろ活気があって楽しかった。特に魚は鮮度が良くて、遠方より人間様が買いに来ていた。人間様は気分良く我々に分け与えてくれた。本当に良い奴らだよ人間って。


「ハレ横は市場だ。その日に売り切る事が課題だな!」

そんな納得出来る横丁がヨシオは好きだった。


裏手に回ると宝石を売っていたり、衣料品雑貨を売っている店がひしめき合っていた。そんな中、金貸業を営むお店の前に3匹のネコがたむろしていた。


マコトは静かに映像におさめた。


ヨシオさんはその中の一匹をどこかで見た事があった。
そう、あの時…鮮明に残っていた 記憶…
そう、あのネコだ。


◯魚屋のタクジ
「タクジ」はハレ横屈指の魚屋の飼い猫…そして真面目で良い猫…だったが、売り物をくすねたと疑われ、追い出されたネコと言うことになってる。

タクジtakuji

真意は違ったんだけど店主に誤解され、その日のうちに蹴飛ばされ、追い出された気の毒なネコだ。タクジの不信感はバリバリで、おかげで目つきが変わってしまった。全ての人間が俺様の事を疑ってるんじゃないかと、思うようになってしまった。時が経ちタクジは立派なグレネコになっていた。その町内を知っているだけにタクジは辛かった。辛辣な言葉は数知れず、表を歩く事が嫌になった。


疑われて生きる事の辛さが、嫌というほどわかったタクジ。キラキラした瞳は小さくなり、伏し目がちな風体になってきた。横丁屈指の魚屋のネコといえば、やはり威張っている感じはあった。他のネコにも、アゴで雑魚を分けてあげてたようだった。しかし人間もそうだけど、いい事は長くは続かないな、反対に悪い事も続かないけどね(笑)


魚屋と距離を置かざるを得なくなったタクジは、当然だが放浪の旅に出た。とは言っても、町を離れるわけではない。むしろ大通りから、ごちゃごちゃした裏通りに隠れて行った感じだ。でもすれ違うネコたちは真相を知る訳でもなく、昔のタクジとして見ていた。


タクジは店先で、何となく面白く無さそうな顔してる太ってるネコに声を掛けた。みんなからマサさんって呼ばれている占いネコだ。暫く2匹は話していたが、時たま嬉しそうな鳴き声も聞こえて来た。気持ちが通じ合ったのかも知れない。特にマサさんの方は、自分の店先なんで何となく落ち着かない様子だった。


ちょうど店一軒隔てた所から
1匹のネコがこっちを見ている…


◯泥棒ネコのミノル

ミノルはいつも怯えていた。

怒られっぱなしだからだ。

ミノルminoru

泥棒猫の親といつも一緒に走りまくってた幼い頃。親に命じられ意味も分からず乾物や干物を盗んでいた毎日。水をかけられ、罵倒され、挙げ句の果てに蹴り飛ばされる日々が、ミノルを作り上げていった。いいことなど一度も無かった。常に周囲を気にしている。



しばらく経って親とはぐれた。というより捨てられたって感じだ。ミノルに少しだけ自由が訪れた。命令される苦しみから解放された瞬間だった。自由を得たものの、拠り所のないミノル。今まで勝手によそ様の食べ物をかっぱらっては、ガツガツ食っていたミノル。早く食って次の仕事に行かなければ怒られるからだ。


「もうしなくていいんだ」


生まれてこのかた、ゆっくり寝た事すらなかったよ。ちょうどいい感じのネグラが見つかった。ゴミ箱の裏だった。


ミノルは眠りについた。


ちょうどその時、ヨシオさんとマコトが前を通った。立ち止まってヨシオさんは、毛並みの汚いそのネコをジーッと見ていた。



「このネコってまさか?」



〜深い眠りについたミノル〜

「コラ 何してるんだ!」
「早く 逃げるんだよ!」

ミノルは怒鳴られた。食べ残しの干物は残念だけど、現場を目撃されたんじゃ逃げるしかない…

「まったくドジなんだから、
 お前のおかげで見つかったじゃないか」

自分の母親にこっ酷く怒られたミノルは、いつもの事とはいえ情けなくなっていた。でもこんな事何でするんだって、いつも心の中で思っていたが、生まれてこれしかして来なかったので選択肢は無かった…

ミノルは目が醒めた。
寝ていたようだ。



「なんだ夢か!」

夢までおびえて怒鳴られてたよ。1人きりになっていることを実感したミノルは歩き始めた。視線を感じていたが、いつもの射抜くようなものは無かった。

しばらく歩くと、いつもの横丁に入った。体が覚えてしまっているのはありがたいやら、情けないやら、困ったもんだよ。目の前に昔お世話になったタクジさんがいた。


「タクジさんなんでこんな所にいるんだろう?」


お互いどちらともなく寄って行った。


◯占いのマサさん
マサさんってドシっとしているね!落ち着いてるよ。みんな会う度に言ってくる。金貸業を営む御主人はハレヤ横丁の古株番頭。いつも頭を撫でて貰いながら、マサは客の善し悪しを判断していた。マサが軽やかな声で鳴く時は良い客。普通の商いのルールを知ってる上等なお客、必ず約束を守り金を返しに来る。反対に低く唸り声をあげる時、それはヤバい客と思っていい。人を騙す時の人間って、何とも言えない妖気が漂っているらしい。マサは主人に可愛がられ食べ物で困った事は一度も無い。


マサさんmasa

マサの人生?いや猫生か?

生まれた時から今の主人に頭を撫でられて生きて来た。食事は好きな物を好きなだけ食べてきた。今さらだけど、良い時代&良い場所に生まれたって感じだ。


悩み無きマサに備わった能力なのか、実は定かでは無いのだけれど、人の良い悪いを当てられるって事で、重宝されて来たらしい。まあそう思ってくれたのは御主人様なので何とも言えないけどね。


〜実は違った〜


単純に「臭いヤツ」か、そうでないヤツかだけで8割近い確率だったようだ。マサさんは鼻が効いた。別に神がかっていたわけでは無かった。むしろごく普通のその辺にいるネコだった。でも人間もそうだけど、祭り上げられる時ってそんなもんだよ。マサさんにも夕陽が忍び寄って来た。


「潮時かな…」


そんなマサの周りに、グレたタクジと、怯えたミノルが寄って来たわけです。栄光と挫折、束縛から脱出、どっちもまだまだ長い道のりが待ってそうだ。



【第六話 街かど愚連隊】

コピちゃんは、おかみさんの店に戻った。


「アプナイ アプナイ
 捕まったら大変よ」


コピちゃんは青いレーザービームを使うネコを瞬時に見抜いたようだ。マコトの右眼から一瞬放たれた光線のことだ。我々とはまったく違うネコだ。



「そういえば緑色の眼をしたネコもいたな」「ヤツはinvisible(インビジブル)の世界から観ている」
「あれは特に要注意だ」


お隣の韓国から来たコピちゃんは、漬物屋のおかみさんの所で飼われている小太りのネコだ。毎日が横丁観察の日々。何かあるとすぐ韓国から来たネコたちと連絡を取り合ってる。危機管理能力が高いネコと言える。

コピちゃんcopi

キムチが良く売れるハレヤ横丁。上野近くの大通り沿いには、我々の仲間が多く住んでいるので特に安心だ。

おかみさんは隣の八百屋から大根やら白菜を仕入れては手際良く漬物にしていく。いわゆる朝鮮漬けだ。この時代なぜか多くの韓国人が日本に渡った。何かを察してか自国を捨ててまで、日本の東京に来たらしい。まあその辺は色々事情がおありでしょうから言及しないが、同じアジア人としてすんなり文化融合が出来て、まあいい感じだよ。キムチも美味しいしね!


あの時、マコトに見つかったのは
そう、この小太りネコだった。


近くの電気街で色々と電子情報を貰っていたので、ちょっと異変を感じる事はお手のものだった。マコトのシャッター音が青いビームと同時に聴こえていたコピちゃんは、危機感を感じて、決して映らない様に身を隠していた。もしかしたら街角テレビの見過ぎか?


「そんなところにいないで
 遊んでらっしゃい!」


おかみさんにお尻を引っ叩かれたコピちゃんは、慌てて店の外に飛び出した。普段から美味しいものを食べているので、見た目は太っているが、俊敏さはお手のものだった。


その時、マコトの視界にコピちゃんが入った。ヨシオさんには見えて無かったようだが、マコトの右眼は確実に捕らえていた。


結構逃げのびて、上手くいったと思ったのに、あ〜あ、おかみさんの所へ帰ったら、なんとヨシオさんとマコトが、韓国料理のおこぼれを貰っていたのを見て、ガックリと肩を落とした。


「コピちゃんもこっちいらっしゃい」


おかみさんはコピちゃんの分も持ってきた。

ヨシオさんとマコトは…


「アッあの時の!」


コピちゃんは…
「あの〜その〜という事でね」

マコトは右手を右眼脇に当てて、ブルーレンズを通して撮影した。しっかりコピちゃんにはレーザー光線らしき青色が照射されていた。カシャ!


「結局こうなっちゃうわけか!」


コピちゃんは諦め顔で二人を見つめた。


おかみさんは忙しそうだった。

ヨシオさんは察した。お礼と言ってはなんですが、仕事の邪魔にならない様にコピちゃんを連れ出そうと考えた。夕方は特に忙しくなるから居ない方がいいからね。


〜ネコ同士の会話が始まった〜


しばらくして3匹のネコは、神田の問屋街に向かった。今でこそパソコンオタクの聖地になってしまったが、当時は多くの食品問屋が軒を並べていたのであった。あと駅の一角に細々とラジオ部品を売っている店があって、それなりに繁盛していた。コピちゃんはなぜかその周辺が好きだった。


食品問屋は青物がメインだった。それに加え削り節から昆布、カンピョウ、海苔、缶詰等の乾物類。珍しいモノは何でも売っていた。木の台車を引く音が、朝早くから昼まで市場中に響いていた。ここも時間との勝負、ノロノロしていると怒鳴られた。


3人は食品問屋の裏手に回った。当然表に居ると邪魔になるからだ。裏手はダンボールが山積みになってる所もあって、意外と隠れる所があるようだ。


見るとここにもネコがいた。


〜見た目おじいさんネコだな〜 


「ダンボールが積み上がってる裏って静かでいいんじゃよ」

サダちゃんsada


「サダちゃん」って呼ばれているネコは、ダンボールの合間から頭を出してこっちに向かっていきなり話してきた。


「この辺はたまに乾物の返品とか、
 不良品がゴミで出るのでありがたいんじゃ」


「俺も鮫洲の方から来たからよくわかるんじゃよ」


「まさかゴミ漁りじゃないだろうな」


ヨシオさんは風貌で判断してしまった。ちょっと変わったネコだな。オモロイ系だろうけど、こんな所で生きているのか?南の方から誰かと一緒に来たんだろうね。まあネコっていうのはそんなもんだからね。しかし毎日毎日ゴミの中で生活してちゃ辛くないかね〜。


マコトは撮影に集中していた。


確かにこの時代、全国から東京に物資が集まって来ていた。コピちゃんはヨシオさんの事が、何となく気に入ってきたようだ。


【第七話 Rojiネコ同盟】

「そうだ!仲間がいるんじゃよ」


さだちゃんは屋根を指さしながら言った。
昔からのダチでチューやんっていうんだよ。
この際だから紹介しておくよ。


「おーい!チューやん降りて来いや?」


屋根裏から降りて来たネコは、なんかネズミのような雰囲気をかもし出していた。まさかネズミじゃないだろうなぁ!

チューやんChu



「コイツら横丁の方から来たらしいよ」


チューやんはその風貌さながらに、キョロキョロしながら3人を見ていた。


「横丁から来たんか?」

「オイッ、ミノルって知ってるか?」


ミノル?誰だそいつ。
ヨシオさんはまったくわからなかった。


「お前に似てるヤツだよ!会わなかったか?」


「金貸小屋の前でたむろしていた一人じゃないですか?」


マコトが自分の記憶媒体からデータを探して、ヨシオさんに言った。


えっ!アイツか!
あの薄汚れたヤツか!

まさか俺に似ている?なぜだ?
ヨシオさんは動揺していた。


確かにヤツを見ていると、
不思議な感情が湧いた事は事実だ。


チューやんは流れて来たネコ、向島、両国、浅草橋経由でここに来た。卸問屋のオーナーに可愛がられて、売上げの大きなこの市場に来たわけである。ここは公設市場なので、2階の駐車場が広く取ってあった。雨はしのげるし、裏でご飯を貰える食堂も充実してるし、良いところ尽くめだった。


オーナーが高齢で亡くなると、後継ぎはおらず、そのまま次を待ってるお店に引き継がれた。当然自分は追い出される事になり、屋根裏ネコになったわけだ。まあしょうがないけどな。


ヨシオさんは動揺していたが、マコトはなぜか市場裏に生きてる猫たちを見て、得体の知れない躍動感を感じた。



〜いいじゃ無いの、夢があるなら〜


そう、この時代は夢があった。どん底に生きているようだったのに、夢が誰かしらを支えていた。この後どんな時代が待っているのだろう。ネズミのように毎日毎日駆けずり回って、どつかれて、蹴っ飛ばされても、どこかに自分を支えてくれる何かがあった時代だ。そう感じている。

偶然知り合ったネコどうし、お互い知らんぷりするのもどうかと思うぜ。まあ変わり者どうし仲良くやっていこうや!そんな気持ちがそれぞれに湧いていた。


Rojiネコ同盟。


そんな言葉、似合いそうな雰囲気もあった。
まあすぐ変な名前付けたがるのはよそう。
何が起こるかわからないからね。


Rojiネコ同盟は誰がリーダーって事は無い。お互い思いやりが通じれば気楽に集まってくる。人が集まるには理由がある。ネコが集まる理由もちゃんとある。東京の下町を舞台に生きたネコと、その100年後の世界からアバターになっても、ネコが一堂に会したわけだ。


ネコでも人間でもアバターでも、みんな楽しく生きていこうじゃありませんか!



【あとがき】
この時代を懐かしむ人は多い。この時代の底力を知る事は、その後の日本の歴史をする上で大いに参考になるかも知れません。路地裏は素敵だ。何でこんなところに人が集まるのか?たぶん夢が溢れているからでしょう。ネコも同様だ。1930年〜1950年代 東京下町で出逢ったネコ達は幸せだったに違いない。ネコが見る世の中は、人間が見る世界と同じだったかも知れない。昭和初期 激動の時代に生きた人間たち。そして苦楽を共にしたネコたち、物語はまだまだ始まったばかりだ。

このあと舞台は4号線を南に下り
新橋、有楽町へと移動します。
緑眼のリク 今回は触りだけでしたが
次回新たな展開を見せてくれるでしょう。

またお会い出来る日を楽しみにしています。
そして皆様に大いなる幸せが訪れますように。

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