子育ては「チーム」でやるもの―それは遺伝子に刻み込まれた人類の選択だった
本日、母親アップデートコミュニティ(HUC)のLIVEイベントで、生命科学研究者でジーンクエスト代表取締役の高橋祥子さんのお話を聞いた。
事前に、高橋さんの「生命科学的思考」の読書会がコミュニティで開催されたのだが、いろいろな社会の問題や、人々の悩みなどを、生命科学的な視点で解いていく、という独特のアプローチですごく面白かった。
本の内容は、このHUC代表のなつみっくすもまとめてくれているが、私としても、まったく新しい視点による、「情熱は後天的に獲得可能」だとか、「生命は失敗許容主義」とか、「人類全員少数派」といった主張にとても感銘を受けた。何より彼女の言葉は、余分なものがそぎ落とされ、事実に根差しているので、とても清々しい。
そんな高橋祥子さんが、実は1年前に出産されたとのことで、この度、母親アップデートコミュニティで、話をしてくれることになり、母親になった高橋祥子さんのお話が聞けるのをすごく楽しみにしていた。
人類の選択:赤ちゃんを未熟なまま産むということ
赤ちゃんは、かなり未熟な状態で、自ら栄養を取ることさえできない状態で生まれてくる。馬は生まれてすぐ走ることができるのに、人間の赤ちゃんは、歩くようになるまでにさえ1年もかかる。ほっといたら死んでしまう赤ちゃん。
なぜ、こんな状態で生まれるのか?
やはり、そこには、人間を人間たらしめている「脳」の発達のため、という点があるとのこと。
脳の発達のため、とはいえ、一人で生きることができない未熟な状態で生まれるというのは、種の保存という意味で明らかにリスクである。
それなのに、それを選択した人類。
高橋さんいわく、それは、このリスクは人間は許容できるとしたからではないかと。未熟で産んでも、チームで赤ちゃんをサポートできるからだ。
そして、実際、人類はそうやって、未熟な赤ん坊をみんなで育ててこれまで繁栄を続けてきた。
母親が産後に孤独を感じやすい理由
母親は妊娠後、女性ホルモンの値がどんどん増え、それが出産と共に一気に低下する。それによって、産後は精神的に不安定になることが多く、多くの女性が産後鬱を経験している。(実際、産後ママの死因トップは自殺、という悲しい事実もある。)
高橋さんは、これは、大変な子育てというものを母親だけにやらせず、チームでやるための機能ではないか、とおっしゃった。
子育てを経験した方ならわかるが、産後のボロボロの身体(全治1か月)とホルモンの状態で、母親だけで育児をやるなんて完全に自然の摂理に反している。
だから、女性が、自分で子育てしなきゃ、とか、しっかりできていなくて落ち込んだりする必要は全くない、とおっしゃった。
脳の発達のため、人間は子育てが大変になることと引き換えに子供を未熟なまま産むという選択をした。一方、そこは、チームで子育てすることでカバーしてきた。その、生命科学的事実を多くの人は忘れていないか?
実際、産後のホルモンについても熟知していた高橋さんでさえ、出産が大変だったこともあいまって、産後は気分的に落ちこんだという。
ただし、「これは私のせいではない。これは、遺伝子に刻み込まれた作用である。」という視点を持てていたからこそ、自責することなく、やりすごすことができたという。
生命の原則を理解し、思考し、抗うことで進化する
高橋祥子さんは、遺伝子に刻み込まれた運命を受け入れろ、と言っているのではない。生命原則を理解することによって、主観的な意志を活かして行動し、生物学的な本能に従うよりもよりよい未来に進むことができるのではないか、と主張する。
今回の話でいえば、子育ては、もともと大家族やコミュニティでやってきた歴史があったが、現代でそれをそのまま実現するのは、特に東京のような都会においては無理だろう。
であれば、現代にみあった、子育てチームを作っていけばいいのだ。
夫、拡大家族、近所、保育園、その他、様々な公共&民間サービス。
どんな環境で子供を産んでも、母親が一人にならず、チームによる子育てで子供が健やかに育つ社会。
そんな社会にできれば、間違いなく、それは人類の進化ではないだろうか。
(追記:このトークLIVEのアーカイブはYouTubeでご覧いただけます。)
https://www.youtube.com/embed/F7AI9LBxcF8