02|それは2022年6月のある晴れた日のことで、その時僕はちょうど鼻歌交じりに陰毛を剃っていた
旧号
前説
前号の最後で僕は「コメントが3つに達したら次の記事を公開する」と泣く子もどん引くぐらいの大見得を切った。今現在(当然のことながら)コメントは0だ。ただ、スキはちらほら押されていた。それになんとフォローしてくれる方まで現れた。まったく物好きもいたもんだ。まさに世も末涼子とでも言うべき事態。
今、あなたはふとこう思ったかもしれない。「それなのになんでこいつは悪びれた様子もなくこんなにも堂々と公開しちゃってんの?」と。正論過ぎてぐぅの音も出ない。と言いつつさっきからお腹はぐぅぐぅ鳴りっぱなしなんだけども。恐縮です。
これほどの正論を振りかざすことができるのは、あなたかヤハウェぐらいのものだろう。まったく見事というほかない。「一体どういうことなんですか?」と僕の頭の中の東海林のり子たちも、先ほどからハイエナのようにしつこく問い詰めてきている。
その問いに答えるために一つなぞかけをしよう。
えー記事のフライング公開とかけまして不倫常習犯の人妻しげこと解きます。その心は「だって寂しかったんだもん」
寂しいなら俺んちでファイナルファイトでもやろうぜと言えるような、そんな心のイケメンでありたいものです。
あなたの気持ちを代弁してくれる素敵な画像を見つけたので一応貼っておく。今日のところはどうかこれで勘弁して欲しい。
そして、僕の気持ちを代弁してくれる素敵な曲も一応貼っておく。今日のところはこれで勘弁しといてやろう。
本編
ところで、僕は毎年夏前になると陰毛を剃る。卵のようにすっかりツルンツルンとなったたまきんを掌で転がして悦に浸るとき「ああ、今年もいよいよ夏がやって来るんだな」と実感する。つまり、あなたにとっての冷やし中華のようなものだ。
そうして今年も何気なくたまきんをいじいじしていたらふと「この快感はたまきん側と掌側どちらによるものなのだろう」という疑念が湧き起こった。師に問えば「紛れもなく、それはたまきん側である」とお答えになるだろう。
僕「それならば師よ、ペコちゃんのほっぺ(シュークリームみたいなお菓子)をつんつんしたときのあの気持ち良さはただの幻覚に過ぎず、実はペコちゃん側のみが快感を得ていたということでしょうか?」
師「無論だ。しげことて例外ではない」
僕「あいやー」
師「さて、そろそろ本題に入ったらどうかな?」
僕「ニフラム」
**
僕が鼻歌混じりに陰毛を剃っている頃、そのメッセージはこっそりと僕の元へと届けられていた。これが熊野市役所の移住担当・濱田大先生からのファーストコンタクト、のちの濱田神示である。僕はきっとこれから先、タイタンズと同じぐらい「2022年6月13日11時49分」のことも忘れはしないだろう。
右手をたまきんからマウスに持ち替えて、岡本天明のような心持で早速そのメッセージを開封した。するとそこには興味あるボタンに対するお礼、残念ながらその募集にはマッチしないこと、自己紹介文に対する感想、ぜひ一度熊野へといったことが懇切丁寧にしたためてあった。
その文章が僕という一人の人間に向けて書かれていたことは明らかだった。当時の僕は社会的に見ればもう空気も同然で、だからこそこんなふうに一人の人間として扱ってくれたことが何よりも嬉しかった。人生史上最も喜びのハードルが低い時期だったとも言えよう。とりあえず一度熊野に行ってみようと思った。
せっかくなのでそのときの自己紹介文も載せておく。
今現在に至るまでの間にパソコン教室の先生をやったり、建設会社の事務員をやったりと多少紆余曲折はあったものの、その辺は面倒だったので省いた。それでもこの文量。なかなかに業が深い。
こんな負のオーラまみれの醜文を最後まで読み切った濱田氏の慈悲深さに最大限の敬意を示しつつ、あえてこう呼ばせていただきたい。変態と。
それから僕はグーグルマップで熊野市を歩いてみることにした。5分後、僕はパソコン画面に釘付けになった。それこそもうムフフな動画のフィニッシュ場面ぐらいの真剣さで。僕をそれほどまでに魅了した風景がこれだ。
あなたの今の心境はさしづめ、ただのジャンプシュートを決めた桜木花道とそれに驚愕する周囲を冷めた目で見つめる岸本といったところだろうか。
ただの海。されども海。その海は僕の記憶の中にあるそれと寸分の狂いもなく見事に一致していた。僕はこの一度も訪れたことのない海をなぜだかもうすでに知っていた。別にスピリチュアルでも何でもない。言ってしまえばただのデジャブ。されどもこうかはばつぐんだった。
クマノ・コーリング。僕の頭の中の東海林のりこがそう語りかけてきた。それから右手でおもむろに髪の毛を掴むと思いっきり天に向かって引っ張り上げた。僕はそこにジョー・ストラマーを見た。その後ろで別の東海林のり子がベースを床に叩きつけているのが見えた。
師が傍らで「紛れもなく、あれはポール・シムノンである」とそう一言囁いた。その瞬間、僕の視界は暗い闇で覆われた。次に気付いたときには教会の中で、目の前にはドレッドの牧師が立っていた。おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない。その牧師は、どこかで聞き覚えのあるそんな台詞をそっと僕につぶやいてから、小さな貝殻を一つ手渡した。
次号へ続く。
後記
ここまで読んでくれた変態のみなさま、どうもブタ野郎。前号よりも多少は真面目に書けたと自負している。
実は前号を公開した後に母からメールがあった。まさか読まれてしまったかと思いながら、恐る恐る開いてみるとそこにはこう書かれてあった。
「オッス!元気にしてっかー?」
完全なる拍子抜け。まるで悟空のようなそのテンションに力なく笑った。
●読後のデザートBGM
次号はこちら。