批評会用

批評中習者の感想⑤(丹宗あや『曖昧に笑うのはもうやめた』評)

第1回透明批評会11月度 丹宗あやさんの『曖昧に笑うのはもうやめた』評を致します。

※どうでもよい余談ですが、前回まで名乗っていた「初心者」はもう違うという意見がありましたので、今回から中習者に変えました。


この作品は、ファンタジーや歴史、あるいは私がやっている旅のことなど、ついつい「非日常」空間を取り上げがちな小説の題材に対して、日常の社会生活が舞台という事で、その事に少し斬新さを感じたのと、その日常でもうまく世界感が体に入る凄さを感じました。

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さて本題ですが、主人公は、小さな子供を持つママさんで、そのママさんの世界のヒエラルキーの様なものが解りやすく説明されています。

必ず声を掛ける丸メガネとそのグループを仕切るとおもわれるヤンママの存在、恐らくこのヤンママに従う大多数のママ、主人公も本音はともかく表向きは従っているようなシーンが続きます。

よく、公園デビューを迷う親御さんとかが最も気にする内容そのものなので、今の私は立場は違うものの、恐らく当事者にとってはより内容が響きそうな、このあたりのやり取りはむしろ恐怖に感じるかもしれません。

また、「雨」という行動範囲が限られた中での10分というのが良いです。行動範囲が限られているので、嫌でもこのグループに近くにいざるを得ない。その10分は実時間よりも数倍長いのでしょうか? 聞きたくもない話まで聞かされるなど。

ハヤト君のお母さんというこの場に登場しない人物を話題にするグループ、この人はグループになじめなくて来れなくなったのでしょうか?

その後、子供が帰ってからのことは、「平行世界」が見事に表現されているというところで、個人的にはこの作品で一番の見せ所と思いました。この主人公は非常に頭が良い人(でも良過ぎない)だと推測します。自問自答で、虐待が可愛そうと言いながら、妊娠問題は無関心について悩む姿。

恐らく目先の事には深く考えても、その奥底には目を向けない。というよりそもそも理解力がない。そこを主人公が鋭く突いたことに、仕切り屋のヤンママが不快に思ったのか、「あいつは勝手なことをしている」ということが気にくわぬと、メンバーを利用して結果的に主人公を攻撃するように仕向けた。結果的に虐待が可愛そうといいながら、事実上の虐待に近いことをする。人間の弱さ、「自分自身が一番かわいい」というのを如実に表しています。

さらに、その自問自答で子供による掛け声「ママー」が世界に割って入る。自問自答の別の世界と子供のいる現実世界が見事に表現されてるのがすごいと思いました。3度目の「ママー」で思わず、感情的になり、その世界が一つになったタイミングも、「仏の顔も三度まで」みたいで、ちょうど良いです。

その後、結局自らも感情的に子供を驚かせてしまった。ヤンママが不快に思った「自分自身が可愛い」という人間の弱さの露呈、ただ主人公はかわいい子供という事もあるからかすぐに抱きしめた。これはあの連中らとは違うという強い意志の表れでしょうか?

過去の自分自身の体験もあり、ついに主人公は決断をし、グループとの距離を置くことを決めます。頭が良くても良過ぎない主人公というがわかります。頭が良過ぎれば丸メガネのようにうまく立ちまわるのでしょうけれど、主人公にはそこまでは考えない、むしろそういう生き方に疑問を投げかけたということ、それがこの小説の本筋だから。

最後にスマホを握りしめる主人公、彼女はこの時に何を思ったのか、それは読者に問いかけているのでしょうか?

ハヤト君のお母さんはこの日も来なかった事が、グループに疎外されたであろう事実と、そして主人公自らもその道に進むことになったが、では今後どうなるのか、同じように登園をやめるのか、それともグループにどう思われようともこの登園を続けるのか、この後の想像も余韻として楽しめました。

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さて、もし私がここでこの作品を書くならという事をいつものように考えてみました。

もし付け加えるとすれば恐らく、主人公に対抗しているグループをもっとインパクトを強くさせそうな気がします。丸メガネとヤンママだけは登場しますが、それ以外のママをもう少し出して、恐らくこのグループはヤンママがボスなので、何でもかんでも同調しそうなママの存在をわざと出して、このヤンママのパワーアップを図ったら面白いとかそんなことを考えました。

あとは、ハヤト君のお母さんという人物との接点をもう少し強めるかもしれません。恐らくこのお母さんを気に留めている主人公なので、もう少し気にしたような表現があれば、よりこのグループとの対立が深まり、「もう私は、このグループと決別し、ハヤト母さん同様に自分の道に」みたいなニュアンスを入れたかもしれません。(いつもながら私の考えですけど)

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追記:本筋とは違いますが、もしこの主人公の実際の立場に自らがなっていたらどうしたであろうとか考えてみました。恐らく主人公同様グループからは訣別の立場を取ったであろうと思います。無理に気を使いながら生きるのは辛いですから。


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