夏の想い出から
「これが、伊勢志摩の海か、天気が良いから空も海も澄んだブルーがすがすがしい」男は空を見上げながら頭の中で考えを巡らせる。本当は伊勢志摩には用事はなかった。だが予定が目まぐるしく変わり、予定よりも半日早く手前の松坂に着いてしまった。だから暇つぶしに来ただけである。クリスチャンである彼は伊勢神宮には全く興味がない、松坂牛のホルモンを食べる、グルメオフ会のためにわざわざ名古屋からくるような男だから、伊勢志摩の新鮮な魚介類にもあまり興味がない、結局近鉄電車の終点賢島(かしこじま)に来てしまい、なんとなく歩いていたら突然見えた光景だったのだ。「こんなにゆっくりと空を見たことなかった。空など日本のどこでも同じなのに、今日は違う気がする。気のせいだろうけど」そんなことを思いつつ男は数分間その場にいるかと思うとすぐに駅に戻り、松坂に戻った。なんともぜいたくな時間を使ったものか。