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【解説】標準型電子カルテと電カル買い替え時期について

本記事に記載されている内容は、筆者個人の意見に基づくものであり、特定の専門家の意見や公式な見解を代弁するものではありません。

オンライン資格確認・電子処方箋の普及や紙の保険証の廃止など医療DXは着々と進んでいます。一方で国が主導で開発する「標準型電子カルテ」の動向については見通しが不透明であり、情報があまり整理されていないと感じています。

「現在紙カルテだが電子カルテ化したい」「今の電子カルテが古くなっていてそろそろ買い替えなければいけない」そんな医療機関にとっては、標準型電子カルテの動向は気になるポイントではないでしょうか。

そこで、現状の動向を踏まえたうえで、「いつ電子カルテを買い替えるべきか」「ベンダー・機種選定にあたってどのような点を注意しなければいけないか」について解説していきたいと思います。
(本稿は主に診療所を対象に説明しています。)



【結論】電子カルテの買い替えは2025年4月以降まで様子見したほうがよい!

電子カルテの買い替えは暫く様子見をしたほうが良い、というのが私の意見です。なぜならば、標準型電子カルテや各ベンダー内での対応について未確定な部分が現状とても多いためです。

今回の医療DX政策は電子カルテ業界を大きく揺るがす施策であり、現状利用している / 販売されている電子カルテ機種であっても【国の規格に対応できない場合がある】と考えられます。これらの動向が把握できないまま導入を進めると、せっかく導入した電子カルテが後々再度システム改修しなければいけない、といった不利益が生じる可能性があるのです。

それでは、医療機関側は電子カルテの入替・導入にあたってどのような点に気を付けなければならないか、順を追って説明していきます。

「標準型電子カルテ」の開発目的は「医療データの共有」だ

説明を進めるにあたって、そもそもなぜ国は「標準型電子カルテ」の開発をしたいのかを確認します。細かい説明は抜きにして、「医療データの共有」最終的な目的であると私は思います。

これまで、日本において医療情報の伝達は各医療機関で紹介状による紙ベースの情報伝達、電話やFAXなどによる連絡など、とても非効率でアナログな方法で伝達されていました。また、共有される医療情報についても統一されたルールが厳格に決められていませんでした。

これに対して、国でデータを整備し医療データを他の医療機関等にデジタル形式で共有できるようにすることで「業務の効率化」「患者状況の把握・国民の健康を維持」等が期待されます。

また、医療従事者以外においても様々なメリットが期待されます。

このように医療データを共有することは、日本の医療システムの質と効率を大きく向上させる可能性があると考えられますね。

では医療データを共有するにはどうしたらよいでしょうか。データを共有するだけであれば、わざわざ国が電子カルテを開発する必要はないように思えます。医療機関ごとに利用している電子カルテを改修し、国のシステムに情報共有できるようになれば解決する話です。

しかしそれが簡単にできない理由があります。

その背景について解説していきます。


「電子カルテの情報共有」を阻む壁

電子カルテの情報を他医療機関等に共有するにあたって、大きな2つの壁があります。

①電子カルテデータのフォーマットは統一されていない

日本において、電子カルテ上に記録するデータのフォーマットは厳密に決められていません。これは情報共有システムにとっては致命的です。

例えば、A病院の電子カルテでは「アレルギー情報」を詳細に記録しているにも関わらず、B病院の電子カルテではその記載欄がないといったケースが考えられます。この場合、医療機関ごとに提供されるデータの内容や質に隔たりがあり、重要な患者情報が適切に共有できないことで、患者に危害を及ぼす可能性が発生します。

このように、各システムや医療機関間でデータのフォーマットが異なると、データを共有した際に混乱を招く危険性が高くなります。残念ながら日本において電子カルテ上に記録するフォーマットは統一されておらず、現状各電子カルテベンダーはそれぞれ異なったフォーマットでデータを管理しています。

②電子カルテの普及率が低い

もう一つの壁として、電子カルテ自体の普及率が低いことが挙げられます。電子カルテのデータを共有するということは、医療機関側が電子カルテを利用していることが前提の発想です。しかしながら、電子カルテの普及率は低く、一般の診療所においての電子カルテ導入率は50%程度に留まっています。

国策として医療データを共有できるようにするには、各医療機関に電子カルテを導入してもらわなければならないのですが、電子カルテ導入にあたっては相当な費用負担や導入負担が発生するため、電子カルテの導入自体がそもそも上手く進まない可能性が高いのです。


国は、これらの問題点を解決策として「電子カルテ情報共有サービス」および「標準型電子カルテ」の構築を進めています。


「電子カルテ情報共有サービス」の概要と進捗

概要

まず、電子カルテベンダー間でデータが標準化されていないという問題に対して、データをどのような形で保管・通信するか。何のデータを共有するかを取り決めました。その基盤を「電子カルテ情報共有サービス」と呼びます。

詳細

電子カルテ情報共有サービスは、下記の4つについて、情報共有やサービス提供することが予定されています。


スケジュール

電子カルテ情報共有サービスのスケジュール(画像赤枠)です。

2024年2月にベンダー向けに技術解説書が公開されました。
2025年4月からの実際の運用開始に向けて、各ベンダー・医療機関で現在改修の準備が進められています。


補助金について

既存の電子カルテについては、これらの規格に対応が出来るようにシステム改修をする必要があります。これらのシステム改修費用についての補助金は、「20床以上の病院」を対象に2024年3月から申請受付が開始しています。補助額については、病院規模や健診部門システムの有無によって異なります。

注意点としては、「現状は補助金は20床以上の病院に限定されており、診療所で直接の補助金は予定されていない」という点です。実際に検討会においての資料内には、

社会保障審議会・医療部会内資料より抜粋(2024/7/12)

診療所において、電子カルテ未導入、または「電子カルテ情報共有サービス」に準拠しないオンプレ型の電子カルテを導入している医療機関は、買い替えによる補助金ではなく、標準型電子カルテへの移行を促すことが記載されております。

IT導入補助金について
上図においては、標準規格に対応する電子カルテの導入にあたって、IT導入補助金の活用についても言及されていますが、IT導入補助金は必ず採択されるというものではなく、事業計画等の資料を提出したうえでの審査が発生するものです。

各ベンダーの動向

市場に流通している民間の電子カルテは、これらの仕様に対応ができるようシステム改修をすることが必要になります。一方で、診療所向け電子カルテベンダーの対応状況は不透明です。2024年11月24日時点においては、インターネット上では対応状況が確認できませんでした。

「電子カルテ情報共有サービス」の利用にあたっては、その性質上「診療所外へのアクセス」が必要となりますが、市場流通している電子カルテにおいてはこの仕様に対応ができるかどうかは不透明であり、対応が難しいベンダーや機種が出てくることが想定されます。


「標準型電子カルテ」の概要と進捗

概要

電子カルテの普及率が低いという問題に対しては、安価なクラウド型電子カルテ(標準型電子カルテ)を国主導で開発して電子カルテ導入自体を促進する事業が計画され、進められています。

標準型電子カルテの開発にあたっては、様々な課題が見込まれています。そのため、一度に開発するのではなく試作品(α版)開発・検証・改修を繰り返して正式なリリースをする段取りが計画されています。

α版とは
IT業界において開発初期段階における試作版・評価版のソフトウェアを指します。

α版の開発にあたって、対象とする医療機関が限定されています。
具体的には、「無床診療所」および「外来診療」が対象となる見込みです。


スケジュール

2024年4月から試作品(α版)の開発が開始しており、
2025年頃から試作品の医療機関での検証や再改修が計画されています。
尚、実際に完成版がリリースされるのは2026年以降になるとされています。

なお、試作品(α版)の開発にあたってデジタル省は「標準型電子カルテシステムのα版の設計・開発業務」について公募を行い、株式会社FIXER(フィクサー)が当該業務を受託することが決定しております。


課題

標準型電子カルテの開発にあたっては課題が山積しています。この課題はα版の開発・検証を繰り返す中で検討することが示されていますが、いくつかピックアップします。

①運営・サポートをどうするのか
電子カルテは、機器類の設置や講習、ネットワーク環境の構築など、導入にあたって非常に多くのサポートを必要とするシステムです。また、導入後の保守やサポートも診療運営上非常に重要です。しかしながら、これらの運営・サポートについて誰が、どのような運営形態にしていくかについては、未決定です。

②システム連携はどうするのか
電子カルテは通常、非常に多くのシステムとの連携をします。通常、電子カルテベンダーと、各連携ベンダー同士が独自の規格で連携することが多いですが、これらの連携についてもどこまで、どの程度可能かについては未決定です。「規格統一してAPI連携を実装すべく検討中」となっておりますが、民間事業者が提供するシステム群は非常に多いため構築に向けてα版の開発・検証を通じて決定していくようです。開発初期においては、限定された連携機能であることが予想されます。

③レセコンとの連携はどうなるのか
また、標準型電子カルテ(α版)においてはレセコンの開発は含まれておらず、民間のレセコンベンダーと連携することが想定されているようです。

第2回 標準型電子カルテ検討技術作業班に関する アンケート調査説明資料より抜粋・修正

民間ベンダーと連携するとなると、民間ベンダーのレセコン自体の改修も必要です。実際の本番版の提供の際は、国で開発予定されている共通算定モジュールおよび、標準型レセコンと連携することも言及されていますが、こちらも提供時期は不透明です。(2025年にα版提供、2026年にリリース予定?)

標準型電子カルテと連携するシステム構成


まとめ:電子カルテ選定にあたって気を付けるポイント

さて、ここまで国が進める医療DX政策の中でも「電子カルテ情報共有サービス」や「標準型電子カルテ」について説明してきました。これらは、発展途上で現状不明確な点が多いと感じますが、「医療データの共有」を目的とした「電子カルテ情報共有サービス」への対応は長期的に義務化されていくだろうと予想します。

それを踏まえ、電子カルテ選定にあたっての注意点を2つ、結論として挙げます。

「電子カルテ情報共有サービス」については、対応不可なベンダーや機種が一定数出てくると考えられます。その中で、

既に電子カルテを導入済みの医療機関は、自院の電子カルテが「電子カルテ情報共有サービス」に対応可能かをベンダーに都度確認されることを推奨します。実際にサービスが開始するのは2025年4月以降になりますので、各ベンダーの状況が判明するのはその頃となりそうです。

また、電子カルテの入替を検討している医療機関は、入替予定の電子カルテが「電子カルテ情報共有サービス」に対応予定があるのかしっかり確認されてください。一方で、補助金については診療所向けの電子カルテについては現状予定されていませんので、IT導入補助金等の活用を検討されるのも良いと思います。

「標準型電子カルテ」については、リリースが2026年以降になる見込みです。α版の開発状況や民間ベンダーの動向も含め中長期的に様子見をしていく必要があるでしょう。

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