後悔した先でもう一度… 後編
7月になったある日。
その日〇〇くんを見かけなかった。
ひ:(今日は休みなのかな…)
下駄箱にも靴ない。教室に入ってみても〇〇くんの席には誰もいない。
ひ:(やっぱり〇〇くんいない…)
少し落胆しながら自分の席に着く。
その日の朝のHRで〇〇くんがいない理由が分かった。
先生:えぇーと、〇〇なんだけど親の都合で急遽、転校することになった。急だったからみんなに直接転校することを言えなくて〇〇も悲しんでると思うからLINEとかで連絡してやれーじゃあこれでHR終わりー
〇〇くんが転校したことを告げられた時、時が止まったようにその場から動けなかった。
〜〜〜
〇〇くんが転校して2週間が経った頃。クラスの人たちも誰も〇〇くんの話題を出さなくなった。私一人だけが〇〇くんのことを覚えてるんだろうな。
〇〇くんのいない教室は寂しい。〇〇くんのいない日々は悲しい。私はずっと心がぽっかり空いたような感じで日々を過ごしていた。
〇〇くんに連絡を取ろうとメッセージを送っても返事が返ってくることはなかった。
保:ひぃちゃん!今日カラオケ行かない?
同じクラスで親友の保乃ちゃんがカラオケに誘ってきた。
ひ:うーん…やめとこうかな…
保:そうかぁ…
ひ:ごめんね…
保:謝ることやないよ!…やっぱり〇〇の事まだ引きずっとる…?
ひ:まぁ…ね…
保:〇〇もなんで何も言わんでどっか行っちゃうねん!ひぃちゃんの気持ちも考えんで!
ひ:〇〇くんは悪くないよ…!
保:ひぃちゃん…
ひ:私は〇〇くんのことを信じてる…
〇〇くんがいなくなる前に私の気持ちを伝えていれば何か変わったかな…。このまま、〇〇くんにもう会えなかったら…。
〜〜〜
数年が経ち、大学生になった私は上京を理由に一人暮らしを始めていた。
まだ、〇〇くんへの気持ちを忘れられないまま。
ひ:(やっぱ都会の大学はいろんな人がいるなぁ…)
地元が田舎の方だったため、都会の雰囲気にまだ慣れなかった。
ひ:(早く教室向かお…)
広いキャンパス内を歩きながら教室の場所を探す。
ひ:(広すぎて迷う…)
困り果てて周りを見渡しながら歩く。誰かに道を聞こうかなと思っていると、なぜか懐かしい雰囲気のする後ろ姿を見つけた。
ひ:(〇〇くんっ!)
〇〇くんじゃないかもしれない。でも、〇〇くんだったら…。もしも〇〇くんが同じ大学に進学してたら…。少しだけの希望でも〇〇くんと再会できるならと私は迷う事なくその人の後を追った。
ひ:あ、足…早っ……はぁ…はぁ…
男の人の歩幅に背の低い自分が間に合うわけもなく〇〇くんらしき人とすぐ逸れてしまった。
ひ:やっと見つけたのにっ…
追いつけなかった虚しさに胸がいっぱいになる。もしも追いついてたなら。もしも声をかけていたら。たくさんの『もしも』が頭の中をいっぱいにする。
ひ:(でも、また会えるよね…?〇〇くん……いや、会ってみせる)
私は見えなくなった〇〇くんの後ろ姿を思い出しながら教室に向かった。
〜〜〜
その日以降、〇〇くんらしき人物を探すため、大学にいる間はキャンパス内を散歩するようになった。
けど、なかなか〇〇くんは見当たらない。
ひ:(あれから全然〇〇くんに会えない…)
あれ以来〇〇くんに出会えていなかった私は少し焦っていた。このまま会えないのではないかという不安で。
ひ:(今日はいつも行かない場所に行ってみようっ!)
ネガティブに考えてもしょうがないからポジティブに考えるように切り替えて〇〇くん探しを再開した。
ひ:う〜ん…〇〇くんいない…
やっぱり〇〇くんには出会えず諦めていた時、自分が来た反対の道の方に懐かしい感じのする人影が見えた。
ひ:〇〇くんっ!
私は見かけた瞬間、一生懸命に走った。これを逃したらもう一度会えることはないと思ったから。
運がいいことに〇〇くんは学食で食券を買っていた。
ひ:(やっと追いついた…)
これまで以上に〇〇くんを近くから見ることができ、より〇〇くんの面影を感じた。
ひ:(やっぱり…〇〇くんだ…///)
もうすぐに〇〇くんのところに行きたかったけど大学では人が多くて少し恥ずかしいかったのでもう少し人がいない所に行くまで尾行しようと思う。
〇〇くんは、食事を終えるとキャンパスを出た。
ひ:(もう授業ないのかなぁ…)
〇〇くんは電車に乗ってどこかに向かっているようだった。
ひ:(バイトとか?〇〇くんどんなところで働いてるんだろう…)
電車に揺られること数十分。〇〇くんはある駅で降りた。
ひ:(ここ行ったことない所だ…)
始めて降りる土地に少しワクワクしていた。
〇〇くんが降りた所は都心から少し離れた住宅街が並ぶ静かな場所だった。
ひ:(なんか昔を思い出すなぁ…)
〇〇くんと私が住んでいたところも住宅街が並ぶ所だったから懐かしさを感じていた。
〇〇くんは駅から少し歩いたところで建物に入って行った。それは一軒家だった。
ひ:(ここって〇〇くんの家?)
家の表札を見ると『〇〇』と書いてあった。
ひ:(〇〇くんの苗字だ!)
〇〇くんと同じ苗字だとわかるとさっきの人が〇〇くんであるという希望が強くなった。
ひ:(やっと会えた…けど…)
いざ、再会できるかもとなると緊張して動けなかった。
ひ:(どうしよう…)
結局、この日は〇〇くんに再会できなかった。
〜〜〜
それから数日後。私はこの日、この前見つけた家の前に来ている。
あれからやっと勇気を出して会いに行こうと思えたから。
ピンポーン
?:はーい、どちら様?
インターフォン越しから年上の女性の声が聞こえてきた。
ひ:あ、あのっ!も、森田…ひかるです…〇〇くんのお宅ですか?
?:えっ!!!ひかるちゃん!?
インターホンの中から驚く声が聞こえてきた。
?:今行くからちょっと待っててね!
言われた通り、数分待っていると玄関の扉が開いた。
?:ひかるちゃーん!久しぶりね!
昔と変わらない〇〇くんのお母さんだった。
ひ:お久しぶりです!
〇母:ここじゃなんだから中に入って!
ひ:ありがとうございますペコリ お邪魔します
〜〜〜
〇〇くんの家に入るとリビングで〇〇のお母さんと少しお話をした。〇〇くんが引っ越した後の話とか昔の思い出とか。
〇母:ひかるちゃんもこっち来ていたのね〜
ひ:はい
〇母:ひかるちゃんはどこの大学なの?
ひ:櫻ノ坂大学です
〇母:あらっ!〇〇と一緒じゃない〜
ひ:ですよねっ!あっ…すみません…大学で〇〇くんを見かけてついてきたらここまできたんです…
〇母:そうだったのね〜〇〇ったらひかるちゃんとも連絡とってなかったのね〜もうほんとにあの子は〜…
ひ:〇〇くんは元気にしてましたか?
〇母:元気だったわよ〜…けどね〜元気そうでそうでないような…無理してる感じなのよね〜…あの子昔から心配かけたくないのか隠す癖があってね…隠せれてないけどね(笑)
ひ:そうなんですね…
〇〇くんは多分、何かを隠している。そして、ずっとそれを抱え込んでいる。〇〇くんが今までずっと苦しんでいたならなんとかしてあげたい…。幼馴染として…。いや、〇〇くんのことが好きだから…。
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〇:ただいま〜
〇母:あら〇〇帰ってきたみたい
〇〇のお母さんと話していたらタイミングよく〇〇くんが帰ってきたみたい。
〇:靴増えてたけど誰か来てるn……え?
〇〇くんは私の顔を見ると驚いた顔で止まっていた。まるで幻でも見てるみたいな。
ひ:ひ、久しぶり…〇〇くん…
〇:ひ、ひかるちゃ…ん?
ひ:そうだよ…
〇:はぁ…はぁ…なんでっ…ここにっ…
〇〇くんは息を荒げている。
ひ:大丈夫!?
〇〇くんのところに駆け寄ると〇〇くんは腕を振り解く。
ひ:っ!
〇:ごめんっ…ひかるちゃん…
〇〇くんはリビングを出て行こうとする。ここで〇〇くんを止めないと2度と話せない気がした。そう思ったら咄嗟に〇〇くんの腕を掴んでいた。
ひ:〇〇くんお願いっ!私の話を聞いてっ!
〇〇くんの腕を両手で掴み、必死の抵抗で〇〇くんは落ち着いたのか逃げる様子は無くなった。
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まさか僕の家にひかるちゃんがいるなんて思いもしなかった。何年も会ってないけどひかるちゃんって分かってしまう自分に呆れてしまう。僕からひかるちゃんの元を去ったのに。
〇:ごめんっ…ひかるちゃん…
もしかしたら今、話し合えばひかるちゃんと昔のように関われるかもしれない。けど、ここでも僕は逃げようとした。こんな僕がひかるちゃんと釣り合うわけがないという気持ちが胸を埋め尽くそうとしたから。
ひ:〇〇くんお願いっ!私の話を聞いてっ!
その言葉に逃げようとした僕の体は止まる。ひかるちゃんに掴まれた腕に意識が向く。ひかるちゃんの必死な顔を見ているとずっと数年間も押さえていたひかるちゃんへの想いが溢れ出てきそうになった。
ひ:〇〇くんと二人で少しお話ししてきてもいいですか?
ひかるちゃんはお母さんに言う。
〇母:いいわよ、久しぶりに二人で話してきなさい…ふふっ
こういう時の母親ってすごく勘がいいんだな。
こうして僕たちは2階の僕の部屋に向かった。
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〇〇くんの部屋には初めて入ったけど懐かしい感じがした。数年ぶりの二人っきり。ずっと会いたかった、話したかった〇〇くんとやっと会えたことに涙が出そうだった。いや、もう目には涙が溜まっているだろう。
二人で面と向かって座る。少しだけの沈黙。その沈黙は気まずいものではなくなんか暖かかった。
ひ:ねぇ…どうして〇〇くんは何も言わずにいなくなったの…?
〇〇くんは私から目を逸らし、下を向いたまま何も喋らない。
ひ:私の話からしていい?
〇〇くんは顔を上げない。ずっと下を向いたまま。
ひ:〇〇くんがいなくなったあの日からずっと寂しかった…クラスのみんなは〇〇くんのことはすぐ忘れていた…でも私だけはずっと忘れなかったんだよ…?忘れられないよ…〇〇くんと一緒にいた時は私にとって宝物だからっ……
ひ:私はっ…〇〇くんのことがっ…好きっ…ですっ…
涙を止めようとしてもどんどん溢れてくる。〇〇くんへの想いと同じように。
ひ:だからっ…どれだけかかってもっ…もし会えなくてもっ…〇〇くんのことをっ…信じてたっ…ずっとっ…信じてたっ…
涙で顔はぐちゃぐちゃだろう。けど、そんなこと考えてる暇もないくらい〇〇くんへの想いは止まらなかった。涙が溢れてきて止めようと必死に拭った。けど、涙は止まらない。その瞬間、〇〇くんに抱きしめられた。
ひ:うっ…ぐすんっ…うぅっ…
〇〇くんの温もりが伝わってきてさらに涙が溢れてきた。
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ひかるちゃんが涙でぐちゃぐちゃになりながら想いを伝えてくれた時、僕はなんて間違いをしたんだろうって思った。あの時、正直に話していたら、ちゃんと伝えていたら、勝手にひかるちゃんの事を他のやつに任せようとしてひかるちゃんお幸せを勝手に決めようとして…それは全部自分に自信がなかった僕が起こしてしまった間違いではないか。だったら、もう逃げることはやめよう。正直に全部話そう。あの時の間違いも。ひかるちゃんへの想いも…。
思い立った時にはもう体は動いていて、ひかるちゃんを抱きしめていた。
〇:ひかるちゃんっ…ごめんっ…僕が間違っていたっ……僕だってっ…ずっとずっと…ひかるちゃんの事が好きだったのにっ…うぅっ……ひかるちゃんの前からいなくなって………転校していなくなる僕よりもっ…他にもっ…ひかるちゃんに相応しいやつがっ…いるって…ぐすっ……勝手に決めつけちゃってっ…本当はずっとっ…ずっとっ…ひかるちゃんといたかったっ…ひかるちゃんを幸せにするのはっ…僕だってっ…言いたかったっ…
ひかるちゃんに負けないくらい僕も涙が溢れて止まらなかった。
〇:僕もっ…ひかるちゃんのことが好きっ…ですっ…大好き…です
その言葉を言った瞬間、ひかるちゃんの抱きしめる力が強くなった。
僕たちは今まで会えない時間を埋めるかのようにお互い大泣きしながら強く抱きしめ合った。
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〇:ひかる〜準備できた〜?
玄関で靴を履きながら部屋で準備しているであろうひかるに声をかける。
ひ:うんっ!ばっちり!!
部屋から来たひかるは綺麗なワンピース姿で耳元にはイヤリングが光っていた。
〇:よし!行こう!
ひ:おー!
ひかると一緒に家を出る。家を出てから離れたくないのかひかるは手をすぐに繋いできた。ひかるの想いに応えるように手を握り返す。
あれから僕たちは付き合った。今までずっと離れていたこともあり、僕から提案して今は同棲している。
これまで離れていた分も悲しませてしまっていた分も寂しい思いをしていた分も全部取り戻せるように。2度とひかるの元からいなくならないように。『ひかるとずっと一緒にいる』とあの時、心に決めたから。
end.