見出し画像

憂鬱な雨の日も君となら

雨の日は憂鬱になる。けど、そんな日こそ外に出て雨の日を楽しもうってのを自分なりに決めていた。

梅雨に入り、今日も雨。予報では明日も雨。雨が少し小雨になったのを見計らって俺は家を出た。

傘を指してイヤホンで音楽を聴きながら家の近くの公園を歩く。雨の時期になると紫陽花がここら辺はたくさん咲くのでそれを見るのが最近のお気に入りの時間だ。

ドンッ

紫陽花を見るのに夢中で目の前を歩いていた人に気づかずぶつかってしまった。

〇:すみませんっ!

?:こちらこそっ!すみませんっ!

ぶつかったのは女性だった。彼女は急いでいるのか僕にお辞儀をすると走って行ってしまった。

大変そうだなぁと他人行儀に見ていると足元に何か落ちているのに気づいた。

〇:ん?なんだろ?

拾ってみると可愛いポケモンのキーホルダーだった。

〇:さっきの人のかな…

さっきぶつかった人のかもしれないと走って行った方を見たけどもういなくなっていた。

〇:足早いなぁ…それより…これどうしよう…

そのままにしておくわけにもいかず家に持ち帰ることにした。

〜〜〜

家に持ち帰り、まずキーホルダーを綺麗にすることにした。ぬいぐるみ系だったので洗濯洗剤で洗って干して乾くまで待った。(ちゃんと柔軟剤も使った。)

数日してキーホルダーは綺麗になったが…。

〇:どうやって渡そう…

机の上に置いてあるキーホルダーを眺めながら考えていた。

彼女がどこの誰かなんて知らないし、次、出会えるかと言われたら無理な気がして途方に暮れていた。

〇:また…あの公園に行ったら会えるとか?…いや、無いか(笑)

〜〜〜

〇:いや、会えるのかよ…

次の日、あの公園に行くとあの日ぶつかった女性が公園のベンチに座っているのを見かけた。

安直な考えだなと思っていたが、それが解決の糸口になるとは。

〇:すみません

?:はい…?

ベンチに座って読書をしていた女性は読んでいた本を一旦閉じると怪訝そうな顔でこちらを見てきた。

前髪を下ろしていてメガネを掛けている。少し陰を感じる風貌だった。

〇:先週そこでぶつかった者でして…

?:あっ!あの時はすみません!急いでたので…

彼女はベンチからスッと立ち上がるとお辞儀をしてきた。

〇:あっいや…謝ってほしいわけじゃなくて!…あの時これ落としましたよ

彼女の目の前にキーホルダーが入った袋を渡す。

?:もしかしてっ!

思い当たる節があるのか袋を急いで開ける。

?:やっぱり!!無くしたと思ってたんです!ありがとうございます!!

さっきまでとは違い、明るい表情を彼女は見せた。彼女と目が合ってドキッとしながらも平然を装う。

〇:大切な物だったならよかったです

?:本当にありがとうございます!

その女性はとても深いお辞儀をする。

〇:もう大丈夫ですから!顔あげてください!

?:拾ってくれて多分洗濯してくれたんですよね?それに丁寧に梱包してもらちゃって…

〇:洗濯したってバレました…?(笑)地面に落ちて汚れてたので…

?:やっぱり(笑)柔軟剤のいい匂いがしたので…(笑)

にこっと笑う彼女にまたドキッとした。

?:あの…お礼をしたいんですけど…

〇:そんなっ!大丈夫ですよ!

?:いや!私がお礼したいんです!

彼女の圧が少し強く押されてしまう。

〇:じゃあ…

?:まず連絡先交換しません?

〇:いいですよ

彼女に流されるように連絡先を交換する。LINEに追加すると『ひかる』と書かれていた。

〇:ひかるさんって呼べばいいですか?

ひ:はいっ!〇〇さんでいいですか?

〇:大丈夫ですよ…ん?誕生日7月10日なんですか?

ひ:はいっ!でもなんで???

〇:僕のプロフィール見てください(笑)

ひ:えっ!!!〇〇さんも誕生日一緒なんですか!?

〇:はい(笑)

ひ:なんかすごい奇跡ですね(笑)

〇:ですね(笑)

なんやかんやでひかるさんと仲良くなり、お礼は後日ということになりました。

〜〜〜

ひかるさんとはそれから毎日くらいの頻度で連絡を取っていた。そして、お礼をしてくれる日になった。あ、やましいことは何も無いからねっ!ご飯を食べに行くだけだからっ!ほっっとになんもやましいことないからっ!!!

ということで待ち合わせの場所でひかるさんを待っていると俺を見つけたのか駆け足で向かってきた。

ひ:すみませんっ!待ちました?

〇:いえいえ大丈夫ですよ(笑)

ひかるさんはほっとした顔で肩を撫で下ろしていた。

ひ:じゃあ行きましょうか

〇:はい

そして、ひかるさんにご馳走してもらいとっても美味しい夕食を食べました。

〇:おいしかったですね〜ご馳走様です

ひ:いえいえっ!……あの〜またお礼してもいいですか?

〇:えっ???今回ので俺は十分ですけど…

ひ:なんかもっとお礼したくなって(笑)

〇:そこまで言うなら…(笑)

正直、ひかるさんと関係が続くならいいかなぁくらいに思っていた。

ひ:じゃあ今度は…〇〇さん気になってる映画があるって言ってたじゃないですか!それ一緒に見に行きません?

〇:いいですね〜行きましょ!

こうして2回目のお礼の日が決まった。

〜〜〜

そして、2回目のお礼の映画を見終わった後、ひかるさんはまたこんなことを言った。

ひ:もっとお礼してもいいですか?

〇:え???もう十分ですけど…(笑)

ひ:やっぱり足りない気がするんですっ!

〇:そうですか??

ひ:そうです!

なんか圧がすごい…。

〇:ひかるさんがそういうなら…

ひ:じゃあ次は…〇〇さんが好きな辛いもの食べに行きましょっ!

〇:あれ?ひかるさん辛いもの苦手じゃないでしたか?

ひ:私は辛いもの食べませんっ!〇〇さんが辛いもの食べてるところを見てます(笑)

〇:それ…楽しいですか???(笑)

ひ:楽しいですよ(笑)

そんなこんなで3回目のお礼が決まった。

3回目で終わると思ったでしょ??俺も思ってた。

ひかるさんの『お礼』はこれでは終わらなかった。辛いものを食べ終わった後には…『もっとお礼がしたいです!〇〇さんが最近読んでいる本の続編が出たので買いに行きましょ!』と。

そして、その本を買いに行った時には『〇〇さんこのバンド好きでしたよね?チケットもらったので一緒に行きません?この前のお礼に…』と。

バンドのライブを見終わった後には『〇〇さんカフェ巡りが好きなんですよね?話題のカフェがあるのでお礼に一緒に行きません?』と。

お礼が全然終わらない!このままではお礼されすぎて申し訳なさすぎる…。ということで、俺からもお礼をすることにした。

〇:あのっ!

ひ:うん?どうしました???

ココアを飲んでいたひかるさんはカップを置いて俺の顔を見つめる。

〇:このままではお礼されすぎてるので俺からもこれまでのお礼をさせてください!

ひ:…じゃあ…来週の水曜日…一緒にお出かけしませんか…?

〇:いいですよ!来週ですね!

やっとひかるさんにお返しができると思ってこの時は何も考えずに快く返事をした。

家に帰り、手帳に予定を入れようとカレンダーを開いた時、ひかるさんの言ったその日は奇しくも俺とひかるさんの誕生日だったことに気づいた。

________________________

当日。その日は雨だった。雨の日は憂鬱になる。けど、この日は憂鬱にはならないだろう。

ひかるさんが行きたいと言ったのは水族館だった。雨の日でも楽しめるので今日にぴったりだった。

ひかるさんは終始楽しそうに動物たちを見ていた。

〇:ひかるさんっ…早いですって!(笑)

ひ:すみませんっ!!楽しすぎて…(笑)

〇:全然大丈夫です(笑)

ひ:じゃあ…逸れないように…///

ひかるさんはそう言うと俺の手を握った。

〇:あっ…えっ…と…///

ひ:さっ!…いきましょ…///

俺は胸のドキドキで平常心が保てそうになかった。ひかるさんも平常心でいようとしてるけど、耳の先まで真っ赤になっている。

この後も手を繋ぎながら二人で水族館を楽しみ、お昼時になったので水族館のレストランでランチを食べた。

〇:食った食った〜

ひ:めっちゃ食べてたよね(笑)

〇:朝からなんも食べてなかったからね(笑)

ひ:もうっ…がっつきすぎててwww…お、面白かったっ!www

〇:笑いすぎだよ…(笑)

ひかるさんはさっきの俺の食べっぷりを思い出しながら大笑いしていた。

ひ:はぁ…はぁ…あははっ!www

〇:笑いすぎっ!!(笑)

ひ:ふっwww…ごめんっ!…あはははっ!www

ひかるさんは相当なゲラだとこの時痛感した。

〜〜〜

ひ:次どこ行こうかな〜

ひかるさんは水族館のマップを見ながら次見たいものを選んでいた。

そういえば、楽しすぎて気にしてなかったけどなぜひかるさんはあんなにもお礼をしたかったんだろうと目の前でウキウキしながら館内マップを見ているひかるさんを見て思い出した。

ひ:うん?どうしたの?

凝視しすぎてひかるさんに不思議がられた。

〇:あっ…いやぁ…

ひ:???

ひかるさんは不思議そうな顔で俺を見つめる。

〇:なんでこんなにお礼してくれたんだろうなぁっとちょっと気になって…

ひかるさん急に黙り込んでしまう。

〇:あっ…言いにくかったらr

ひ:それは〇〇さんのことが好きだからです…///

ひかるさんは真剣な顔で答えた。

ひ:こうでもしないと〇〇さんにもう会えなくなると思ったから…

〇:だったら俺も同じですっ!ひかるさんにまた、いや、何度も会いたかった…俺もひかるさんの事が…好きだから

ひ:っ!…///

ひかるさんは俺の回答を予測していなかったのかとっても驚いた顔を見せた後に照れながら笑った。

ひ:んふふっ…両想いだったね…///

〇:だね…///…改めてゴホンッ…森田ひかるさん!俺と付き合ってくださいっ!

ひ:はいっ…///

ひかるさんは俺が前に差し出した手に優しく自分の手を添えた。

〜〜〜

ひかるさんと二人並んで歩きながら水族館を出る。手は恋人繋ぎをしながら。

ひ:誕生日が記念日ってなんか…素敵だね?…///

〇:だね…///

隣で笑うひかるさんに釣られれ笑顔になる。

外に出ると朝まで降っていた雨が嘘のように晴れていて、空には虹がかかっていた。

ひ:わぁ〜綺麗…

〇:ほんとだぁ

ひ:あっ!そうだ!この後時間ある?

〇:うん、あるよ〜ってかこれ以外予定入れてないから(笑)

ひ:それは…この展開を読んでたから???(笑)

〇:違うっ!違うっ!(笑)

ひ:ふふっ…なんでもいいけど(笑)このあとさ…最初に出会った公園行かない?

〇:いいよ?でもなんで…

ひ:私、あの公園の紫陽花見るの好きでさ…今日はなんか綺麗に咲いてそうだなぁって思って!…後…〇〇と見たいなぁって思ったから…///

〇:えっ…///…俺も紫陽花見るの好きなんよね…それに今…〇〇って…///

ひ:あっ!早く行かないと日が暮れちゃうっ!!…///

僕の手を引っ張りひかるさんは走り出した。

〇:いやっ!!まだそんな時間じゃないからっ!!

照れ隠しをしているひかるさんに手を引かれながら駆け足で公園に向かう。

その日見た紫陽花はいつもより綺麗に俺には映った。隣にひかるがいるからかなぁ…なんてね(笑)

end.

いいなと思ったら応援しよう!