Vol.2 ハムストリングス損傷とランニングメカニクスの理論的なメカニズムの関連性について。のCurrent opinionの論文。
ハムストリングス損傷について調べていた時に最近パブリッシュされた論文で面白そうなものを見つけたので、まとめてみたいと思います(正しくまとめられているかはわからないので、気になる方は原文を読んでみてください)
後記 ※まとめようと思ったのですが、ほぼそのまま訳しただけになってしまったのでかなり長くなりました。。。
⇩原文
題名:Exploring the Role of Sprint Biomechanics in Hamstring Strain Injuries : A Current Opinion on Existing Concepts and Evidence
直訳だと「ハムストリングス損傷におけるスプリントバイオメカニクスの役割を探る:既存の概念とエビデンスによる現在の見解」といった感じです。
1.Introduction
Hamstrings Strain Injuries(以下:HSIs)は、スプリントベースのスポーツの中でよく発生する怪我の一つである(Diemer WM et al. 2021)
全体の怪我の中で、サッカーでは24%(Ekstrand J et al. 2022)、陸上では17%(Edouard P et al. 2016)、ラグビーユニオン(15人制ラグビー)では22%(Brooks JH et al 2006)がHSIsである。
エリートレベルのサッカーでは、HSIsにより1シーズンで平均90日、15試合のプレーができなくなり(Woods C et al. 2004)、パフォーマンスや経済的な損失も大きい(Eliakim E et al. 2020)
すべてのHSIsでは、47%以上がスプリント中に発生しており(Gronwald T et al 2022)、18%が再発している(Ekstrand J et al. 2022)。
現在の予防やリハビリは、エキセントリック筋力の質の向上にフォーカスがされている。
この背景は、エキセントリックトレーニングにより、ハムストリングスの組織構造が発達し、最高速度でのランニング中にさらされるストレスに耐えるハムストリングスの能力が強化されることである。
特にノルディックハムストリングスなどのエキセントリックトレーニングによる介入は、プロトコルを守って実施する個人間ではHSIsの発生率を下げるのに有益である。
しかし、数十年の研究にもかかわらず、HSIは有意に増加しており、発生率は年間6.7%, 傷害の損失は9%増加している。
発生率の増加には、複数の要因がある。
試合数の増加、試合中の最大速度でのランニングの量が増えたことにより(以前よりも試合の強度があがってきている)HISが発生するリスクが高まる
エキセントリックトレーニングは特定の条件では効果的であることは示されているが、スポーツの需要の拡大には完全には対応できてはいない。
いくつかの研究では、エキセントリック筋力と将来のHSI, 再受傷の間に一貫した関連性は特定できていない。
また、メタ分析においても予防戦略としてのエキセントリックトレーニングの予防効果は不確実であることがまとめられている。
これは、現在の傷害予防とリハビリプログラムが、HSIや再受傷に影響を与えるすべての要因には対処しきれていないことを示している。
傷害の原因を探る生体力学モデルにおいては、筋肉の損傷は、組織のひずみに耐える能力を超えるメカニカルストレスが加わった結果であると考えられている。
したがって、損傷が発生するには組織のひずみ・ひずみ要領に影響を与える「内部要因」と「外部要因」の複雑な相互作用が必要である。
エキセントリックトレーニングは、組織の発達にはある程度の利点をもたらすが、加えられた機械的ひずみの役割を認識したり対処したりすることはできない。
HSIの大部分がスプリントでの加速や、高速から最高速度までのランニング中に発生していることを考慮すると、バイオメカニクスがメカニカルストレイン、ひいては損傷の発症に影響を与える潜在的な要因として考慮されるべきであることは論理的であるように思われる。
しかし、これまでの報告においては、スプリントのバイオメカニクスパラメーターが組織の歪みやSIにどのように影響するかいついての損傷メカニズムの理論的根拠はほとんど議論されていない。
したがって、このCurrent Opinionでは、利用可能な裏付けの証拠とともに、スプリント/ランニングメカニズムとハムストリングスのStrainの間の理論的なメカニズムの関連性について議論することを目的としている。
2. Hamstrings Biomechanics
加速と最大速度の局面でのランニングでは、ハムストリングスに大きな負荷がかかる。
加速中では、ハムストリングスには総推進力の最大15%に寄与する大きな股関節伸展トルクを生成する。
Peak Muscle Forceは、スプリント中の立脚期で体重の3~4.2倍、スイング期では体重の8倍になる。
大腿二頭筋は、立脚初期に内側ハムストリングス(半腱様筋、半膜様筋)よりも大きな活性化を示し、最終スイング中(Terminal-Swing)の活性化の大きさが立脚中に生成される水平力に寄与する。
ハムストリングスが加速パフォーマンスにおいて重要な役割を果たしているのは間違いないが、損傷の原因に関する既存の文献の大部分は,最大速度での直立姿勢でのスプリントの仕組みに焦点を当てている。
そのため、この記事では主に最大速度でのスプリントの仕組みと潜在的な怪我への影響に焦点を当てる
高速から最高速度までのスプリント中の スイング(Swing phase)と立脚初期(Early stance phase)の損傷に関して最も頻繁に研究されている。
Swing Phaseでは、股関節の急速な屈曲と進展によって、Shank(シャンク:足首と膝の間の部分)に大きな角速度が発生し、Late SwingからTerminal Swingへの移行中に膝が伸展していく(上図)
Terminal Swingでは、Peak Muscle Forceは体重の10倍に達する(半膜様筋で23.9~46N/kg, 大腿二頭筋長頭で13.2~26.4N/kg, 大腿二頭筋短頭で10.4N/kg, 半腱様筋で5.9N/kg)
筋腱の長さは、すべてのハムストリングスで約10%増加する、そしてハムストリングスでのPeak muscle activity, 伸長速度(lengthening velocities), 負の仕事(Negative Work)は、Late SwingからTerminal Swingへの移行中にすべて起こる。
ハムストリングスはSwing中にShankのドライブモーショントルクに抵抗しなければならず、立脚期には垂直方向の地面反力に寄って生成される関節トルクに抵抗しなければならない。
Ground contact後に、垂直方向の地面反力が急激に上昇すると股関節屈筋と膝伸筋の外部モーメントが発生するが、これはハムストリングスの活動によって打ち消される必要がある、
外部モーメントに対抗できないと、股関節がさらに屈曲し、膝が伸展する可能性が高く、その結果ハムストリングスにかかる活動的な負担が増加し、組織損傷に影響を与える可能性がある。
最高速度のランニング中には高いバイオメカニクス的要求があり、ハムストリングスはPhysiological capasityの上限に達する。
個人、チームスポーツの両方で要求は高まり続けており、試合での走行速度が速くなり、スプリントにさらされる頻度が増えることで受傷するリスクも増加する
ランニングスピードが上がっていくと、ハムストリングスは特に大腿二頭筋長頭において、より大きなmuscle force、興奮レベル、組織のひずみ(Tissue strain)がかかり、より高頻度な暴露や過密な日程(Fixture congestion)により組織の疲労や微細損傷の蓄積の可能性を高める。
したがって、提言されるMechanical StrainやStrain Capacityに要因を与えるわずかな変化でも損傷を引き起こす可能性は十分ある。
したがって、このリスクを軽減するために、傷害予防プログラムでは、ハムストリングスのStrain Capacityを高め(内的要因)、加えられるMecanical Strainを修正する(外的要因)方法を検討する必要がある。
3.Applied Anatomy
ハムストリングスは、膝関節と股関節の両方にまたがる二関節筋であり、それぞれで明確な役割を担っている。
近位では、大腿二頭筋長頭と半腱様筋が共同腱を構成し、坐骨結節を経由して骨盤に付着する。
半膜様筋や半腱様筋とは対照的に、大腿二頭筋長頭は仙結節靭帯へも付着部を持っており、仙腸関節へ直接つながっている。
この付着部は、大腿二頭筋長頭が骨盤と仙腸関節の安定性に寄与し、その影響を受けている可能性が示唆されている。
したがって、骨盤と仙腸関節の運動学的な変化は、大腿二頭筋長頭を回s田ひずみに影響を及ぼす可能性が高い。
遠位では、半膜様筋と半腱様筋は内側脛骨へ付着し、内側側副靭帯、半月板、鵞足と合流する。
大腿二頭筋は遠位に向かって下降し、大腿二頭筋短頭を形成して腓骨頭の外側面に入り込む、線維は外側側副靭帯、腸脛靭帯および周囲の筋膜と融合する。
この複雑な解剖学的構造は、ハムストリングスと近位部(体幹および骨盤)、膝および下肢の遠位部との間に明確なつながりをもたらしている。
したがって、ハムストリングスは股関節の伸展と屈曲という2つの役割を果たすだけでなく、膝関節の回旋および並進運動の安定性にも寄与していると考えられる。
大腿二頭筋長頭と仙結節靭帯が直接結合していることから、大腿二頭筋長頭が骨盤と仙腸関節の安定性に果たす役割も強調されている。
その結果、近位および遠位セグメントの力学は、ハムストリングスの機能と加わる力学的負荷に影響を及ぼす可能性がある。
4. Kinematic Parameters
Hamstrings Starain Injuryに対する力学的影響について、コーチや専門家は特定の「運動学的パラメータ」をハムストリングス損傷予防にとって、非常に重要である と評価しています。
そのパラメーターは、オーバーストライド走法(Overstride running pattern)、骨盤前傾(anterior pelvic tilt)、腰椎コントロール(Lumbo-pelvic control)、腰椎伸展(Lumber extension)、トレイルレッグでのバックキック(Back kicking of the trailing leg)、体幹の前傾(Trunk forward lean)などです。
しかし、これらのパラメータがハムストリングスの伸張に影響を及ぼすメカニズムについてはこれまで詳しく説明されていない。
4.1 Lumbo-pelvic Control
Lumbo-pelvic controlとは、動的活動中に腰椎と骨盤の姿勢位置を制御する能力を指し、HSIsやその他のスポーツ傷害に関与していると広く考えられている。
大腿二頭筋長頭、仙結節靭帯、骨盤の間の解剖学的なつながりに基づいて、Lumbo-pelvic controlが変化すると、体幹と骨盤間の力の伝達がうまくいかなくなり、ハムストリングスにかかる負担が増加すると提唱されている。
ハムストリングスが坐骨結節に付着していることを考えると、Lumbo-pelvic controlとハムストリングスの緊張間の力学的関連性は論理的である。
骨盤は体幹と下肢の間の機能的なレバーとして機能するため、筋力は複数のセグメントにわたって角加速度を生じさせ、対側の四肢の筋に付与されるひずみに影響を与える。
この動的連関の概念は、Chumanovらのモデリング研究でも裏付けられており、彼らは体幹と骨盤にまたがる筋肉がランニング中の大腿二頭筋長頭の伸張に及ぼす影響を調査している。
興味深いことに、対側の脚の腸腰筋が大腿二頭筋長頭の伸張を25mm以上増加させることが観察された。
これは腸腰筋が骨盤を前方回旋に加速させ、主導脚のハムストリングスの近位付着部位を長くしているためと考えられる。
対照的に、大殿筋、大内転筋、内・外腹斜筋はすべて、腸腰筋によって生じる前方回旋力に抵抗する能力により、大腿二頭筋長頭にかかる伸張を軽減することが観察された。
神経筋制御の変動(骨盤と腰椎の位置)とともに、ランニング中の四肢間の協調性の変化がハムストリングスの様々な緊張パターンを引き起こし、その結果 微小損傷とそれに続く組織の疲労不全、急性傷害を引き起こす過度のハムストリングスの緊張を引き起こす可能性がある。
実験的研究から、Lumbo-pelvic controlの変化とHSIsとの関連を報告もある。
2つの前向き研究ではHSIsを発症した人において体幹と骨盤の筋活動に変化が確認された。
Franettovich Smith et al.は、新たにHSIを負った9人のオーストラリアンフットボール選手が中殿筋の活動が高いことを発見し、Schuermansらはその後負傷したサッカー選手において、Swing局面中の大殿筋、脊柱起立筋、内・外腹斜筋の活動が低いことを報告した。
さらに東原らは、予期しない摂動課題を用いた実験において、HSIの既往歴のある人は、大殿筋と脊柱起立筋の筋活動の開始が遅れていることを同定した。
したがって、臨床的な観点から、Lumbo-pelvic controlによる影響する因子を考慮することは、論理的であり、傷害のリハビリテーションや予防プログラムにおいて正当化されるように思われる。
4.1.1 Trunk Lateral Flexion and Rotation
体幹の側屈と回旋の制御の障害は、HSIに影響を及ぼすとされているLumbo-pelvic controlに関連する運動学的特徴である。
解剖学的研究によると、体幹の過剰な回旋や側屈は、体幹筋組織の長さ-張力関係を変化させ、骨盤と仙腸関節を安定させる能力を低下させることが示唆されている。
このことは、四肢間および骨盤全体の力の伝達に悪影響を及ぼし、ハムストリングスの負担を増加させる可能性がある。
この概念を裏付けるように、いくつかの研究では体幹筋活動が仙腸関節のStiffnessに影響をし、仙腸関節のStiffnessがハムストリングスの筋トルクに影響をし、傷害感受性に影響をする可能性があることが報告されている。
前向き研究でのエビデンスでは、体幹の制御の変化とHSIとの関連をさらに裏付けている。
2つの研究において、のちにHSIを発症した人は Late Swing期において体幹の損傷肢側への屈曲が増加した。
さらに同じ著者グループによる先行研究では、HSIを発症した個体において、同じタイムポイントで腹斜筋の活動が低下していることが観察されている。
著者らによる報告はないが、過剰な体幹の側屈は体幹、特に腹斜筋のコーディネーションパターンの変化に影響されている可能性がある。
腹斜筋が脊柱と骨盤の両方に直接直接付着していることと線維の方向性により、腹斜筋は骨盤と仙腸関節に圧縮力をかけながら体幹側屈と回旋に抵抗することができ、力の閉鎖を高め、骨盤の前傾を軽減する。
腹斜筋の活動により骨盤の安定性が高まれば、ハムストリングス近位部にかかる負担が軽減され、同時に筋力生産能力が向上すると考えられる。
実際、Chumanovらの研究では、腹斜筋の収縮によって大腿二頭筋の長さが10mm以上短くなることが協調されており、その結果、大腿二頭筋長頭にかかる負荷が減少する可能性が高いことが示されている。
したがって、現在のエビデンスに基づけば、体幹および/またLumbo-pelvic controlが低下することで、ハムストリングスの緊張と機能が変化し、将来HSIになりやすくなる可能性がある。
4.1.2 Anterior Pelvic Tilt
骨盤前傾は、HSIの運動学的要因として広く上げられ、スプリント協議のアスリートに携わるコーチやセラピストから一貫して報告されている。
機能解剖学的見地から、骨盤前傾は坐骨結節の後上方への回旋を引き起こし、ハムストリングスを長くし、組織の負担を増加させる。
股関節の屈曲によりハムストリングスの近位モーメントアームが増大するため、ハムストリングスはセグメントの回旋により誘発される組織の長さの変化の影響を受けやすくなる。
したがって、股関節が屈曲しているスイング期や立脚期に骨盤前傾がコントロールされなかったり増加したりすると、ハムストリングス近位部の負担が増加し、HSIのリスクが高まる可能性が高くなる。
HSIにおける骨盤前傾の役割については3つの研究が調査している。
Shuermansらは60m英のアマチュアサッカー選手を対象とした前向きコホート研究を行い、その中で初めてハムストロングスを損傷した4名の選手は、損傷していない選手と比較して骨盤前傾が強いことが判明した。
この所見はDalyらの後ろ向き研究によっても支持された。
しかし、対照的にKenneally-Dabrowskiらの前向き研究では、ハムストリングスの損傷における骨盤前傾の役割は観察されず、HISを負ったエリートラグビー選手とそうでない選手の間に差は観察されなかった。
骨盤前傾とHSIの関連を裏付ける経験的なデータは多少混在しているように見えるが、現在のエビデンスは研究数とサンプルサイズの両方において限られていることを認めなければならない。
現在の前向き研究では、HSIを持続した参加者はわずか4名であり、これらの研究は群間差を検出するにはデータ不足である可能性が高い。
対象的に、骨盤前傾とハムストリングスの緊張に関連があることを示す証拠はある。
中村らは、ハムストリングスの受動的張力を測定するためにせん断派エラストグラフィーを利用し、骨盤前傾が半腱様筋で13%、半膜様筋で26%、大腿二頭筋で31.5%の張力を増加させることを明らかにした。さらにNagaoらは大腿二頭筋の最大筋長が骨盤前傾のピークと一致することを同定し、さらなる研究は骨盤前傾がハムストリングスの長さの変化をもたらすことを示している。
最近の研究で、スプリント走を含むダイナミックな活動中の骨盤前傾を効果的に減少させる介入が示されていることを考慮すると、骨盤前傾はHSIリスクに影響を及ぼす可能性のある修正可能な力学的要因である可能性が高い。
4.1.3 Lumber Extension
定性的な研究によると、腰椎の過度な伸展は、HSIの発達においてコーチやプラクティショナーから重要視されていることが示唆される。
HSIに対する腰椎の寄与は、症例報告などでも提唱されている。
腰椎の微妙なインピンジメントや神経根の刺激が、運動ニューロンの機能を変化させ、HSIの感受性を高める可能性があると理論化されている。
しかし、げんざいのところ、腰椎の病理とHSIの直接的な因果県警を裏付ける証拠は限られている。
腰椎の「機能障害」、神経緊張とHSIとの関連を報告する研究は存在するが、MRIの「異常」な特徴が無症状の人に頻繁にみられることは広く認められている。
そのため、腰椎の病理とHSIの因果関係を確認することはできない。
加えて、我々の知る限り、HSIにおける腰椎運動学を調査した生体力学的研究はないようである。
したがって、腰椎運動学とHSIの関連は、せいぜい理論的なものに過ぎない。むしろ、腰椎伸展と骨盤前傾の運動学的連関の結果、両者の力学的連関が生じたと考える方が妥当かもしれない。
4.2 Back-Side Mechanics
バックサイドメカニクスとは、スプリント中に重心の後方で起こる下肢の動きの程度を指します。
これは、つま先立ちでの後ろ脚の過度な伸展、スイング中の後脚の「バックキック」、大腿の大きな分離角(大腿間角とも呼ばれる)などとして現れます。
バックサイドメカニクスを最小化し、フロントサイドメカニクス(脚を重心の前で動かす動作)を最大化することがパフォーマンスに影響することが報告されている一方で、これらのパラメータはハムストリングスの負担を最小化するためにも重要な役割を果たすと考えられています。
骨盤との解剖学的な共通点から、バックサイドメカニクスは股関節屈筋の長さの変化による骨盤前傾の増加を介してハムストリングスの緊張に影響を及ぼすと考えられている。
股関節屈筋長の最大値は骨盤前傾および、対側の大腿二頭筋長のピーク値と一致するという観察結果もあり、いくつかの研究によるデータがこの概念を裏付けているようです。
前述したように、Chumanoxらのモデリング研究は、後ろ脚の腸腰筋の筋力が大腿二頭筋長頭の伸張を優位に増加させることを強調しており、バックサイドメカニクスが骨盤前傾とハムストリングスの緊張に影響を与える可能性を示している。
2つの前向き研究では、バックサイドメカニクスの指標とHSIとの関連を調査しています。
Haugenらは、競技スプリンターにおけるタッチダウン時の大腿部分離角の手足間の非対称性を調査し、Lahitらは、プロサッカー選手における多因子スクリーニングプロトコルの一環として、「キックバック」テストと名付けられたバックサイドランニングメカニクスの新しい尺度を利用しました。
しかし、どちらの研究でも、HSIを発症した人と発症していない人との間に差はみられなかった。
したがって、現在のエビデンスに基づけば、バックサイドメカニクスとHSIの間には理論的な関連性しかないように思われる。
とはいえ、今回の実験的研究の限界もみとめなければならない。
第一にHSI集団におけるバックサイドメカニクスの役割を調査した研究はほとんど存在しないこと、第二にバックサイドメカニクスの定量化は一貫性のない方法が用いられていることである。
MannとMurphyのオリジナル研究では、バックサイドメカニクスをつま先立ち時の後ろ脚の伸展、正中線より後方で起こる四肢運動の持続時間の長さ、タッチダウン時の大腿分離角の大きさなど、複数の運動学的特徴を説明する概念として提唱している。
単独の運動学的変数を測定しても、MannとMurphyのオリジナルの
概念に従ったバックサイドメカニクスの程度を完全にとらえることはできないかもしれない。
したがって、バックサイドメカニクスをどうのように評価し、HSIと関連性があるかどうかを明らかにするためにさらなる研究が必要である。
4.3 Trailing Leg Extension
しばしばトリプルエクステンションと呼ばれるつま先離地での後ろ脚の伸展は、加速時によく観察される力学的特徴である。
しかし、最大速度のスプリントでは、トリプルエクステンションはハムストリングスの伸張、ひいてはHSIに影響を及ぼす可能性のある技術的な障害であると考えられている。
ピークの地面反力は、立脚期の前半に発生するため、トリプルエクステンションは、地面反力がピークに達した後にも地面を押し続けるような非効率的な力生成戦略を示していると考えられている。
このことは、スタンス時間や飛越時間が長くなり、その後のフットコンタクトのために下肢を再配置できる時間が短くなるなど、いくつかの二次的な力学的結果につながる可能性があり、下肢の切り替えを速くする必要性が高まる。
これにより、オーバーストライド走行パターンや体幹前傾姿勢の増加、バックサイドメカニクスが生じると提唱されている。
興味深いことに、Yuらはつま先立ちでの脚伸展の増大がHSIに直接影響する可能性を提唱している。
彼らは、スプリント中の筋-腱運動学を調査し、立脚中期~後期にかけてハムストリングスの負担が増加する点を特定し、立脚後期における急激な膝伸展がハムストリングスの組織負担を増加させ、傷害リスクに影響を及ぼす可能性があると理論づけした。
つま先立ちでの伸展とHSIの関連性を調べた研究はないことは注目に値する。
最大速度ランニングにおいてトリプルエクステンションを否定する現在のエビデンスは、スプリントパフォーマンスとの関連のみに基づいているため、HSIへの影響はトリプルエクステンションそのものではなく、おそらく二次的な運動学的影響によるものである。
4.4 Maximum Hip Flexion Angle
最大股関節屈曲角(MFH)は、スイング後期における体幹と大腿の間に角度として定義され、前方への「突出」とスプリントパフォーマンスを最適化するための技術的な資質と考えられており、スプリンターと中距離ランナーを区別している。
MHFが大きいと大腿の高さが増すため、スイング中の下肢の可動域が広がり、接地前に下肢に大きな角加速度を発生させることができる。
その結果、立脚初期に大きな地面反力が生じやすくなり、スプリントパフォーマンスの重要な決定要因となる。
ClarkらとSidesの研究はこの概念を支持しており、より速いスプリンターは立脚時と遊脚時の両方で股関節の最大屈曲角度が大きく、股関節の伸展角度が小さく、大腿の伸展速度と屈曲速度が速いことが観察されている。
HSIに関しては、HSI患者のMHFを報告した後ろ向き研究は3件のみであり、相反する知見が得られている。
東原らとLeeらは、以前に損傷した肢のMHFが低いと報告し、DalyらはMHFが大きいと報告した。
興味深いことに東原らは、大腿二頭筋のEMGの低下、Terminal Swing中の膝関節屈曲の増大、大腿二頭筋の長さの減少という同時所見を報告しており、Leeらはハムストリングスのエキセントリックピークトルクとピークトルク角の低下を報告している。
4.5 Over Straiding
オーバーストライディングの特徴は、足が重心の前方で地面に接地することである。
運動学的に、これは接触時の股関節屈曲の増大、膝の伸展、脛骨と足の傾斜角の高さ、および/またスウィングフェーズ中の大腿と足の「引き戻し」の欠如として現れる可能性がある。
オーバーストライディングがハウストリングスの緊張や損傷に影響を及ぼすメカニズムはいくつかある。
まず、オーバーストライディングはPeak BrakingForceとBraking Impulseに影響することが示されている。
ハムストリングスが重心の水平方向への加速に大きく寄与する筋群の1つであることを考慮すると、オーバーストライディングによって誘発されるBraking が大きくなると、最大速度のランニング中に重心を再加速させるために、より大きなハムストリングスの筋発揮が必要になる可能性がある。
このようなことが数回のスプリントで繰り返されると、筋疲労が早期に進行し、組織の歪みに対する内部抵抗が減少し、疲労に関連した組織損傷により組織の脆弱性が増加する。
次に、オーバーストライディングは立脚時にExternal Hip Flexorモーメントを増加させ、股関節屈曲角度が増加するとハムストリングスの筋長も増加させることが示されている。
他のすべての条件が同じであれば、この2つの組み合わせは最終的にハムストリングスが伸張した状態で大きな筋力にさらされることになり、ハムストリングスにかかる負担を増加させることになる。
現在のところ、HISの集団においてオーバーストライドの力学に関連するバイオメカニクス的変数を報告した研究は限られている。
Leeらは、ランニングの立脚相における四肢間の股関節角度やモーメントに差がないことを発見したが、DalyらのデータはHSIの既往歴があるエリートハーラーは、コントロール群と比較して立脚時に股関節屈曲角度が大きいことを示している。
しかし、彼らのデータにはKineticデータが含まれていないため、Kinematicパターンが組織の負荷や歪みに影響を与えたかどうかは憶測でしかない。
そのため、オーバーストライドのメカニクスがハムストリングス組織の緊張に寄与している可能性は高いが、この2つの関連を調査したデータは不足している。
さらに、HSI集団における立脚相の力学を包括的に報告した研究はないため、さらなる研究が推奨される。
4.6 Forward Trunk Lean
スプリント中の体幹の前傾は、KinematicsとKineticsの両方に影響を与えるため、ハムストリングスの組織の長さと力の要求に大きな影響を与える。
東原らは、最高速度でのランニング中に前傾を増やすと、立脚期全体にわたってハムストリングスの長さが大幅に増加することを観察した。組織の長さが長くなったのは、前傾試行中における骨盤前傾と股関節屈曲角度の同時増加、近位付着部の伸張、ハムストリングスの緊張の増加に起因するものと思われる。
Kineticの影響に関しては、体幹の前傾が大きくなると重心の前方変位が生じ、股関節中心と地面反力ベクトルの間の距離が増加する。
これにより、外部股関節屈筋モーメントが増加し、股関節がさらに屈曲するようになり、それによってハムストリングスの緊張が増加する。
この影響に対抗するには、より大きな股関節伸筋力を生成する必要がある。
負荷を繰り返すと、股関節伸筋への要求が増大し、ハムストリングスのMetabolicおよびMechanicalな疲労が増加するだけでなく、組織の微細損傷が徐々に増加し、損傷の発症につながる可能性がある。
さらに、重心の前方移動は、重心と足の接地位置の間の前後距離のバランスをとるために必要な代償的なオーバーストライディングを引き起こす可能性がある。
セクション4.5で述べたように、これらのオーバーストライディングのメカニズムは、最終的にハムストリングスの組織の長さの増加とその後の組織の緊張につながる可能性がある。
コーチ、セラピスト、一部の著者は、体幹前傾がHSIと関連していると逸話的に報告しているが、この2つの間の関連性を裏付ける証拠は限られている。
Schache らは、テスト中にハムストリングス損傷を負った1人の個人のケーススタディで、その後の損傷した四肢の最初の接触時に体幹の屈曲が3.3°増加することを観察する。
これは、ピーク垂直地面反力と荷重率の増加、ピーク股関節伸筋モーメントの14%の増加、Peak Positive Hip Powerの30%の増加と一致しており、これらはすべてハムストリングスの緊張と緊張率の両方を増加させる可能性が高いMechanicalパターンである。
Kerinらによるさらなる研究では、二次元ビデオ分析を使用してラグビー選手の急性HSIのメカニズムが調査された。
短距離走中に受けた8件の負傷のうち、すべてが体幹の屈曲が増大した状態であったことが観察された。
したがって、前傾した体幹の傾きがハムストリングス組織の緊張に影響を与える可能性があることはもっともらしいが、HSIの発症との関連を調査するにはさらなる研究が必要である。
5. Conclusions
機能解剖学的および生体力学的モデリング研究から得られた現在の証拠は、ハムストリングスの緊張に影響を与えるスプリントランニングメカニクスの役割を支持しているようである。
緊張(Strain)は筋損傷の主なメカニズムであり、いくつかの運動学的パラメーターはハムストリングスの緊張に直接影響を与えるようであるため、KinematicsがHSIの修正可能な危険因子である可能性は論理的であると思われる。
しかし、現在の研究では、ハムストリングス緊張の唯一の要因として特定された独立のBiomechanicalパラメータはない。
むしろ、Biomechanicalなパラメーター(動きの質や技術的特徴など)の組み合わせが頻繁に観察されており、おそらく複数のKinematic and Kineticの間の相互作用が、ハムストリングス損傷の発症につながる加えられた負担の大きさに影響を与えることが示唆されている。
個人スポーツ、チームスポーツの両方の競技の需要の継続的な増加と進化、および試合の過密な日程は、HSIの予防にとって重大な課題となっている。
スポーツの需要が増加するにつれて、Biomechanicalな需要も増加し、ハムストリングスに加わる負担も増加し、HSIの発生率がさらに増加する可能性がある。
したがって、損傷予防戦略を成功させるには、力学やひずみ容量など、組織のひずみに影響を与える両方の要因を対象とした、より多要素的で個別化されたアプローチが必要である。
しかし、現在のスプリントのBiomechanicsを評価する確立された現場での方法や、「正常」または「異常」メカニクスを定義するための明確な閾値が不足していることが、より詳細な傷害スクリーニングプロセスの開発への障壁となっている。
このような方法がなければ、対象を絞ったMechanicalな介入から恩恵を受ける可能性のある個人を確実に特定する能力は依然として限られているため、さらなる研究の焦点となるはずである。
終了。。。
訳が不十分なところもありますが、初投稿ということでご容赦ください
では、また!