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Vol.5 佐藤叔史|日々研究、時々釣り博士

1.どのような研究をしていますか?

私は、血糖値を下げる役割を持つ膵臓のβ細胞の研究をしています。血液中の糖の濃度は驚くほど巧妙に調整され、一定に保たれています。しかし、β細胞がうまく働かなくなると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが出にくくなり、血糖値のコントロールが難しくなって糖尿病が発症します。β細胞は膵島(すいとう)という独特の構造を作って膵臓内に存在しますが、膵島は単離できるものの、量が非常に少ないため解析が難しく、未だ多くのことが分かっていません。ES細胞やiPS細胞からβ細胞を作り出す試みも数多く行われていますが、β細胞を「つくる」は依然として難しい課題です。治療には、β細胞の「機能」や「数」を自在にコントロールできる知識が必要です。私は糖尿病マウスの膵島から得られた情報を基に、β細胞の機能や数をコントロールできる遺伝子や方法を探索しています。研究は、長い時間軸の中で少しずつ進みます。この10年間にも新しい概念や技術が生まれてきました。β細胞との対話から得られたデータや現象は、時に新しい発想や画期的な発見に繋がることもありますが、その多くの時間は結果に直結しない悩ましい時間です。それでもβ細胞との対話をやめないのは、そこに「知りたい何か」が次々と現れるから。歩みを止めなければ、時間がかかっても明らかにできると信じています。

左は糖尿病マウス、右はハダカデバネズミの膵臓です。
緑色の細胞が研究対象の膵臓のβ細胞、赤色はα細胞です。

2.どんな人生を経て、熊本大学に?

10代の時は、学ぶこと、知ることが好きでした。中・高は進学校だったので周りは勉強一色、帰宅部で勉学中心な生活でした。入学した理学部は、今振り返るとかなりマニアックな先生や授業が多かったように思います。しかし、独特の世界観を持った研究者が常に周りにいて、実益よりも好奇心と知の面白さに実直で、共通の興味で繋がっていく研究の魅力を感じることができたのもこの時でした。研究は、オリジナルのアイデアで、コツコツと時間をかけて作品を作り上げていく「創作活動」に近いです。このプロセスが案外自分は好きで、性格に合っていると感じました。当時は博士号を取得しても次のステップが見えない時期でしたが、根拠もない自信と、好奇心の赴くままに前に進む決意を固めた時期でした。研究が仕事となり、自分の書いた論文が誰かの論文に引用される喜びや、自分が研究者としてこの世界の歯車の一部である感覚を大事にしています。今日の研究は、1人では到底できません。共同研究者と共に、新しい技術と知恵を持ち寄ってようやく達成できる。研究とは人間関係そのもの、ヒトとの対話は欠かせません。

低酸素研究のパイオニアそしてノーベル賞受賞者。Semenza博士と。
博士課程の時に衝撃を受けた、憧れの研究者Melton博士(左)と。

3.研究以外で実は没頭していて自分にとって欠かせないものは?

“釣り”です。得意ではない早起きや前準備も全く苦になりません。もちろん魚は釣りたいですが、釣れなくても自然と対話し、無心で魚と駆け引きする時間は何物にも代えがたい癒しの時間です。あと、魚が無性に好きです。小学生の頃は、自分で庭に池を掘り、釣った魚をその池で生かして飼っていました(笑)。でも多くの場合、環境が変わってすぐに死んでしまいます。「なぜ死ぬのか?」を毎日考えていたら、魚の皮膚に白い斑点ができて弱っていることに気づいて、、、ただ当時はインターネットが今ほど普及していない時代で、解決方法を簡単に調べることができませんでした。知識がないながらも色々試して、淡水の魚の皮膚を、あろうことか大量の塩で洗ってみたのです。そうすると斑点が消えて長生きしたことを今でも鮮明に覚えています。後に知ったことですが、この白点病は寄生虫による病気で、魚を塩浴させることが効果的だということでした。無意識に魚を使って実験・治療していたのです。今思えば、このような経験を通じて、研究の目が培われていたのかもしれませんね。

釣り上げた瞬間の魚はフォルムも、色合いも格段に美しい。写真はかんぱちのこども(ねりご)。
天草の海。爆焼けハンターです笑

▼所属研究室▼

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