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Vol.22 茂木 俊伸|日本語楽しみすぎ博士

1.どのような研究をしていますか?

 私の専門は「日本語学」で、現代日本語の文法と語彙を研究しています。特に「さえ」「ばかり」などの「とりたて」機能を持つ表現の研究と、外来語の文法的特徴に関する研究をしてきました。
 私は母語として日本語を話せますが、これは日本語の語彙や文法を「知っている」からです。しかし、頭の中の言語知識の中身は、直接的に観察できません。日本語の教科書や辞書を見ても、留学生から質問された助詞の使い分け方が載っていないこともあります。また、大量のデータ(コーパス)を分析すると、直感では気付かなかった規則性が見つかります。”母語話者は、言葉で説明できなくても言葉が使える”のは、不思議だと思いませんか? 私が取り組んでいる研究は、見えない知識に基づいて出力された言葉を観察・分析することで、私たちが何を「知っている」のかを言語化しようとするものと言えます。
 ちなみに、言語の地域的な変種である方言も独自の規則を持っていますので、県外出身の私が熊本方言を習得しようとすると大変です。道を歩いているだけで疑問がどんどん出てきます。
 例えば、下の写真の「竹ん子」(タケノコ)。私の感覚では名詞と名詞の間の環境で「の」が「ん」になるような後の名詞は「頭ん中」の「中」など少数なのですが,熊本方言ではより広いように見えます。「推しの子」も「おしんこ」になるんでしょうか?
 同じく「塵置き場」は「ゴミ置き場」ですよね。私にとって「塵」はごく小さな粒子状のものです。熊本方言話者は「ごみ」と「塵」をどう区別してるんでしょうか?(以下、話が終わらない)

これまで書いてきたテキストや概説書
熊本方言の気になるポイント

2.どのような人生を経て、熊本大学に?

 私はのんびりした田舎の高校生で、言葉遊びを通じて日本語に興味を持ち、日本語教師になりたくて筑波大学に入りました。しかし、改めて人前に立つことが苦手であることに気付き、詰みました(笑)
 筑波大学には日本語研究者がたくさんいて、これは面白そうな世界だと思って大学院進学を決めました。院生時代は、先生に「恵まれた環境に閉じこもるな。外に出ろ」とお尻を叩かれて、関西の院生と合同合宿をしたり、心がけていろいろな研究者と交流しました。
 院生最後の年に、東京の国立国語研究所という研究機関で、研究用データを作る非常勤の仕事をしました。それまでの自分の「専門」が狭すぎたことを痛感し、勤務の合間に必死で勉強しました。共同研究も経験して、自分が面白がれば何事も面白くなることを実感しました。
 29歳のときに徳島県にある鳴門教育大学に就職しました。現職教員の院生が大勢いて、附属学校との仕事もする中で、”学問が教育や社会にどう貢献できるか?”と常に問われている気持ちでした。やはり環境は人を変えますね。学生を教え、子育ても経験したことでだいぶ丸くなったと思います。(うどんと魚が美味しすぎて、見た目も……)
 そして38歳で熊本大学に来て、今に至ります。前任校の感覚で絵本や小学校教科書を大学の授業で使っていたので、最初は「変なのが来た…」と思われたでしょうね。

駆け出しの頃の授業
子どもが書いた日本語にも謎(鏡文字)が

3.研究以外で実は没頭していて自分にとって欠かせないものは?

 研究者には収集癖のある人が多いと言われるのですが、私も、ビン牛乳の蓋、切手、お菓子のおまけシール等々、昭和時代の小学生がやりそうな収集は一通りこなしてきました。その後も、様々なものを収集しています。収集はもはや、心の安定材料になっているかもしれません。
 収集にも、コンプリートとなる範囲が決まっているものと、そうでない(全体像が分からない)ものがあると言われます。個人的には後者の方が楽しいです。おそらく、「こんなものがあったのか!」という発見と、集まったものの整理・分類から何かが見えてくるプロセスがたまらないのだと思います。
 こう書いてみると、”収集と研究は似ている”と思われるかもしれません。実際に、最初は何気なく集めていたものが、研究に発展したことがあります。
 第2回と第3回のKumadai-Hubポスター展では、軽自動車用の駐車場に見られる「軽」の略字「圣」(愛称:車のない軽)についてポスター発表したので、何となく「圣」の研究者だと思われている節があるのですが、元々は趣味で写真に撮って集めていたものです。ウェブサイトでコレクションを公開していたところ、新聞取材を通していろいろな謎があることを知り、漢字の専門家が同僚になり…といろいろな縁があって、自分で研究することになりました(論文も書きました)。自転車で撮影に行くと運動になりますし、旅行先の楽しみも増えましたし、オリジナルTシャツを着る謎の団体も作れましたし、いいことだらけです!

研究室の訪問者が驚く「恋人」コレクション
オリジナルTシャツを着てポスター発表

▼所属研究室▼

 学内に個人ウェブページを持っています。

▼紹介記事1▼

「身近な現代日本語の観察から見える新しい社会の見方」(熊大なう。)

▼紹介記事2▼

コラム「日本語文法って楽しくない?不思議クナイ?」(ことば研究館)


(編集担当:織畠知香、石本太我、前田龍成、赤池麻実)

***What is KUMADAI-HUB ?***

▶第4回KUMADAI-HUB巡回ポスター展2024の演題登録が開始!

***ポスター展について***
日時:12/1(日) 12:30~18:00
場所:熊本大学工学部百周年記念館
ポスター演題登録:~11/1(金)
事前参加登録:~11/30(土)
参加費:無料 *懇親会は別途必要
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▶Kumadai-HUBの紹介ページ🐻(2024)

▶くまだいハブ研究人図鑑

Kumadai-Hub事務局 :kumadaihub@gmail.com

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