Vol.29 守田 彩文|男性と女性それぞれにベストな医療を提供したい博士
1.どのような研究をしていますか?
私は、男女間の差を考慮して病気の予防・診断・治療を行う「性差医療」を実現するための研究をしています。男性と女性では明らかな違いがある一方で、女性(メス)は妊娠・出産を担うだけでなく性周期があることから、倫理的問題や研究手順の煩雑化を避けるため、従来の基礎・臨床研究は男性(オス)主体に行われてきました。ところが、この男性主体のエビデンスに基づく医療では、女性に不十分な治療効果や副作用が多く報告されており、問題となっています。
現在は、性差医療が未だ実現していない病気のなかでも、糖尿病に着目して臨床研究を行なっています。具体的には、五千人超(今後も増える予定)の患者さんを対象に、糖尿病治療薬の効果・副作用と糖尿病合併症の発症・進展に影響しうる様々な要因の性別特異的な影響を、臨床情報と遺伝子情報、バイオマーカー、メタボロームなどを使って検討しています。糖尿病治療薬の効果・副作用や合併症の発症・進展の性差には、様々な生物学的要因(体格、性ホルモン、遺伝など)と社会的要因(生活・教育環境、認知・行動など)が複雑に影響し合い、加齢によってこれらの要因の表現型も変化するため、丁寧に解き明かしていかなければなりません。
この研究によって、男性と女性それぞれにベストな糖尿病の治療介入法を確立し、特に女性の糖尿病に関連する心臓の病気や認知症、失明、透析を減らすことができたらと思っています。
2.どのような人生を経て、熊本大学に?
高校生までは地元福岡で過ごし、部活動や塾での勉強に励んでいました。生来マイペースな性格で、友人からは「皆のお母さん」とよく言われていました。それから熊本大学薬学部に進学し、学部3年次に薬物治療学研究室に配属されたことが、その後の人生を変えるきっかけとなりました。それまで自分の将来像は曖昧でしたが、臨床研究のおもしろさに触れるうちに、「臨床現場で生じる漠然とした疑問(clinical question, CQ)を適切に検討・解明し、その成果を臨床応用に繋げられる薬剤師になりたい」と考えるようになりました。
博士号取得後は、大学との共同研究先でもあった糖尿病専門の陣内病院に就職し、薬剤師としての臨床業務と研究活動に打ち込みました。当時の研究の一例を以下に示します。
実臨床では、患者さんの声や医師・医療従事者の意見を直に聞きながら、臨床経過をリアルタイムに追うことができるため、現状の医療課題やニーズを直観的に把握しやすく、研究に直結するCQが生じやすいと思います。臨床経過に沿ってデータの解析・検討を重ねるプロセスは、非常に有意義で充実していました。また、臨床応用することで患者さんに貢献できるような成果を得られた時は、何よりも得難い気持ちになりました。研究は、新たな発見に繋がるだけではなく、その過程で自然と知識が増え、患者さんの病状をより深く考察できるようにもなります。その結果、同僚や他職種、患者さんから頼りにされることも増えたように思います。
そうこうしているうちに、大学教員にならないかとお誘いを頂きました。実臨床を離れることに後ろ髪を引かれる思いもありましたが、結果として、量的にも質的にもより一層研究に向き合うことが出来るようになりました。立場は変わっても根っこはそのままで、今後は多くの医療機関と協力して研究を進めると同時に、研究できる薬剤師を増やせるような教育にも携わっていけたらと思います。
3.生きている中で大事にしていることは?
私が大事にしていることは、家族や友人と過ごす時間です。子供達はまだ小さく手がかかるので、仕事と家庭の両立は日々戦争のようですが、家族で囲む食卓や、絵本を読んであげながら皆で眠りにつくまでのひとときは、何よりの癒しになっています。私が疲れている顔をしていると、「じゅうでんしてあげようか?」と抱きついて回復してくれます。最近は千までの数を覚え、千パーセントになるまで過充電してくれるようになりました。友人たちも皆忙しくしていますが、それぞれの暇を見つけては集まっています。他愛もない話から真面目な話まで、何でも話せる友人は本当に貴重だと、最近身に染みて感じるようになりました。友人の家庭や仕事の話から、考え方のヒントもたくさん貰っています。私にとって、家族や友人と過ごす時間は気持ちの切り替えや日々の活力に欠かせないもので、これからも人との繋がりやご縁を何より大事にしていきたいと思っています。
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(編集担当:織畠知香、前田龍成)
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