WKW4K: 「ブエノスアイレス」の鏡にうつる恋愛
レスリー・チャン(張國榮)が好き。彼が主役の「君さえいれば/金枝玉葉」(1995)でハマり、シンガーとしても俳優としても完璧に美を追求する姿が好き。
「ブエノスアイレス」はトニー・レオン(梁朝偉)とブリーフ姿のふたりのポスターに初見ハッとしたものだ。
2022年8月は4回目の鑑賞。たぶんきっと、5回目もあるだろうから備忘録として残しておく。※ここから先はネタバレがあるので未見の方はご注意ください。
photo:WKW4Kパンフレットの帯をはずすと、オモテとは異なる美しさが現れる。そういえば監督はどの作品でもオモテとウラ表裏一体を描いている。
主な登場人物は三人。
やりなおすために、香港からブエノスアイレスにやって来たファイとウィン。またもや些細な事で喧嘩別れする二人。パ―トタイムのバーでのドアボーイの職を得るファイ、そのバーに白人パトロンと高級車で乗りつけるウィン。こんなはずじゃなかった…
一度はヨリを戻した二人だったが、やがてアルバイト先のチャンが自分に好意をもっていると気づき、ファイは新しく一歩を踏み出す。一方、別離の果てにウィンは永遠に失ったものの大きさに気づく。
鏡の効果
互いの気持ちがスレ違うさまを、鏡にうつったままの言葉を交わすシーンが多用されていた。深く愛し合っているのに、互いに想いあっているのに、どこまでいっても寄り添えない二人。正面切って気持ちをさらけ出すのが下手なのだ。
以下、印象に残った鏡のショット。恋わずらいは男女だけでなく、男と男でも同じなのだ。
やりなおそう、とウィンが鏡の向こうからささやく。
(本気じゃない
窓ガラス越しに、ウィンとパトロンの高級車が走り去るのをのぞくファイ。 (つらくて言葉にならない
買いだめ煙草に怒りをぶつけるウィンを洗面鏡から見つめるファイ。
(君を独り占めしたいんだ
それにしても、鏡や窓ガラス多かったことに見なおして初めて気づいた。何回見ても新しい発見があるのもWKWの魅力だ。
耳チカラのあるチャン
そして、チャン・チェン(張震)が登場。子供の頃に目が不自由だったという彼は、ファイが電話でウィンとしゃべる声音にまず心惹かれる。
ウィンとの別離で傷心のファイ。”你聲音不好。”
台湾に帰るチャンは、最後にイグアスの滝を訪ねて願い事のテープを奉納してくるから、とカセットを差し出す。”何か吹き込んでおくれよ”
鏡という視覚に反して、声という聴覚を比較させるところ、このセリフが刺さる。たしかに、ファイはウィンの眼差しにいつも翻弄されてきたのだから。そして、ファイは何をカセットに吹き込んだのか、ウィンのパスポートはどうなったのか。その謎は観客には明かされず監督自身だけが知る。
WKW哲学 ここにありき。
どの作品も監督・脚本・編集はWKW自身。
美術はウィリアム・チャン 撮影はクリストファー・ドイル
この黄金チームが珠玉の映画を、1時間半の夢を、私たちに見せてくれる。1997年当時、男どおしのラブストーリィは稀だった。何回見ても素晴らしい!
「そう来るか」と毎度驚かされる音楽も観終わった後には必然、と思えるセンスの良さ。わかりにくい、すっきりしない、と敬遠する人も多いWKW作品だが、私は大好物だ。当時のミニシアター・ロングラン上映を記録した「ブエノスアイレス」に再会でき幸せだった。 ★★★★★ 5/5
レスリー・チャン
彼をよく知らない人のために、記事をはっておきます。
美しく、繊細でプロフェッショナルなひとでした。
つい最近見た「プアン/と友だちと呼ばせて」にも多大なる影響をあたえてた。
#ブエノスアイレス #王家衛 #香港映画
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