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くまちゃん、未解決事件を解決しました

ご挨拶

はじめまして。くまちゃんです。

くまちゃん。いろんなことに挑戦する社交的なけもの。

突然ですが、皆さんは謎、解いていますか?
世間は謎解きブーム、老いも若きも謎解きに夢中。
でも、人に用意された謎だけじゃなくて、純粋に世界の秘密、《謎》……知りたくないですか?

くまちゃん、今はAI時代だよ。 謎なんてもうこの世に存在しないんじゃない?
きつねちゃん。マズルがチャームポイント

それがあるんです。
レファレンス協同データベースに。

ヘビースモーカーズフォレスト!…じゃなかった レファレンス協同データベース!?
くまちゃん「なんでドラえもんのび太の大魔境の出来杉君?」

みんなレファレンスサービスって知ってるかな?
図書館の人に、わからないことを相談できるサービスで、疑問の答えを教えてくれたり、答えが載ってる資料を教えたりしてくれるんだ。

レファレンス協同データベースは、全国の図書館に寄せられた相談の事例が登録されているウェブサイトなんだよね。

全国の図書館に寄せられた相談事例が登録されている


そして、このデータベースには「未解決」の項目があるんだ。

未解決

つまり図書館司書という、知の専門家が調べてもわからない、ホンモノの謎がここにあるってこと

くまちゃん、この未解決の謎に挑みます!!

いざ謎解きの世界へ…


ルール 近年(2015-2023)の未解決事例を解決 ある程度の信頼性を持つ資料をソースとする(Wikipediaや伝聞・個人のブログ記事などは不可×) どのように回答にたどり着いたか、過程を記述する


いざ挑戦!!

今回選んだお題

事例作成日: 2022年07月01日
登録日時: 2022年09月29日 16時39分
質問:
インドのホーリー祭りの詳細が知りたい。また、粉をかけあうらしいが、どのような粉をかけるのか。

https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000321885

未解決のお題の中から、くまちゃんが選んだのは、インドのホーリー祭に関する質問!
この質問を受け付けた静岡県立中央図書館では、ホーリー祭の詳細についてはわかったけど、粉の正体はわからなかったみたい。

くまちゃん、今回はこの粉の正体に迫ります!


くまちゃんポイント① 国内最大の蔵書数を誇る国立国会図書館。 そんな国立国会図書館でも「未解決」だった謎は、超易度が高いよ。 例えるならハンター×ハンターの三つ星ハンターレベルのむずかしさ。 自信があれば挑戦してみよう。
パリストン、チードル、ボドバイ級




1. ホーリー祭ってなぁに

まずはホーリー祭の詳細について、今一度確認してみよう。

インド各地でヒンドゥー暦11月の満月の日に行われる春祭り。春の訪れを祝い、誰彼かまわず色粉を塗り、色水を掛け合う。黄色は尿、赤は地、緑は田畑を象徴するといわれている。

JTBパブリッシング. (2020). 世界の絶景 超完全版. JTBパブリッシング.

……尿の象徴?

きつねちゃん「楽しそうだけど、粉っていうか、全体的になに?」

よくわからないので、図書館に行って事典を使って、もう少し詳しく、ホーリー祭の由来を調べてみました。

ヴィシュヌ神の信者である少年プラハラーダが、父親の悪魔ヒランニャカシプに、悪魔の姉ホーリカとともに火に入るようにいわれた。だが、プラハラーダは無事で、ホーリカだけが焼死した。この話にちなんで、ホーリー祭の前夜には、焚き木に中に(ママ)ホーリカの人形が入れられ焼かれる。翌日は、人々はお互いに色水をかけあう。その際は、普段の地位、カースト、ジェンダー、年齢などを気にせずに、道行く人にも色水をかけるため、無礼講である。

インド文化事典編集委員会編. (2018). インド文化事典. 丸善出版.

ふんふん、ヴィシュヌ神の神話に由来する、無礼講のお祭りなんだね。
でもなんで粉や水をかけあうのかは、まだよくわからないね。
さらに他の資料も調べてみよう。

現在、ヴァルナ制度は法律で禁止されているが、「色」による階級制度をなくそうとする象徴的な祭りがホーリー祭りである。(中略)カシミール地方の伝承で、悪鬼ピシャーチャが人家に入ってくるのに対し汚物を投げて退散させた悪魔祓いからも影響を受けている。黄色は汚物、赤は地、緑は田畑に擬したものという。

城, 一夫. (2019). 色彩の博物事典: 世界の歴史、文化、宗教、アートを色で読み解く.
誠文堂新光社.


なんとなく、何で粉や色水をかけあうのかわかってきたぞ。階級制度を無くす象徴的な祭りで、さらに悪魔祓いの影響も受けてるんだね。
くまちゃん、ピシャーチャなら知ってるよ。なぜなら女神転生(ゲーム)にも出てきたから……

ピシャーチャ、怖すぎない?これが尿で退散するんだね。




2. Googleブックスで「ホーリー祭 インド 粉」と検索

ホーリー祭については大体わかったね。
いよいよここからは粉について調べていくよ。
調べるのにはGoogleブックスを使います。

くまちゃんポイント② Googleブックスでは本の電子データの一部を見ることができるんだ。重要なのは本文からもキーワード検索ができるってこと。色々な資料、全部に目を通すのはむずかしいから、データベースの検索機能を活用しよう。

例えばこんな感じで、本文のキーワードが含まれている箇所を見せてくれるんだよね。

Googleブックスの検索結果


検索結果を眺めていると、粉に関する記述もいくつか見つかります。

「粉は派手な色の化学染料が多く、服や体につくとなかなかとれません」

JTBパブリッシング. (2020). ウソみたいだけど実在する! 世界のめっちゃスゴい国.
JTBパブリッシング.

「アビル abir (ヒンズー) (物)インドでホーリー Holi の祭り( Satuenalia )に使われる赤い粉。」

岩佐, 俊吉. (2000). 熱帯農業用語の手引き(1). 農業および園芸, 75(2), 319-322.

ふんふん、「赤い粉はアビル(abir)と呼ばれる粉で、化学染料が使われてることが多い」んだね。




3. キーワードを変えて「abir holi india」と検索

もう一度、Googleブックスで検索するよ。今度は検索する言葉を変えて調べてみよう。

くまちゃんポイント③ 検索キーワードはどんどん変えていこう。ひとつのキーワードに固執するより、うまくいくことが多いよ。特に同じ意味の言い換えや他言語表記などは試す価値アリ!

「abir holi india」で検索したら次のような文献が出てきたよ。

Abir, a white perfumed powder, is mixed with red gural poweder and used at the Hori festival.
In Bengal it is made from the curcuma zedoaria and sappan wood.

(アビルは、白い香りのする粉で、赤色のガラルパウダーと混ぜ合わされ、ホーリー祭で使用される。
ベンガルではガジュツとスオウの木から作られる
)※日本語訳はDeepLを使用

不明. (1886). Arts and Industries. Indian Notes and Queries, 4(38), 33-35.

Gulal:a coloured powder used along with Abir at the Holi festival. It is generally prepared from sappan wood, alum, and flour, but has of recent years been largely supplanted by cheap powder coloured by means of an aniline dye.

ガラル:ホーリー祭でアビルとともに使われる色粉。一般的にはスオウの木、ミョウバン、小麦粉から作られるが、近年はアニリン染料で着色した安価な粉に取って代わられている)※日本語訳はDeepLを使用

Watt, G. (1890). A Dictionary of the Economic Products of India (Vol. 4). Superintendent of Government Printing.


少しずつ情報が集まってきたね!ここまでの資料をまとめると、

  • 粉は、「アビル/ガラル」と呼ばれている

  • ガジュツ、スオウの木、ミョウバン、小麦粉を原料としている

  • 近年はアニリンの化学染料に取って代わられている

となります。早くもこの謎は解決か…!!?



本当にそうかしら?

え?

これ1886年と1890年の資料よね。100年以上前の資料の「近年」っていつのことなのかしら?

……

もっと最近の粉の事情を調べないと、解決とは 言えないんじゃない?


くまちゃんポイント④ ヤギのステラおばさん 有名クッキーチェーンと同名だが、全く無関係のヤギ。味おんちなのでチョコチップクッキーと小麦ねんどの味の区別がつかない。

ヤギのステラおばさんの言うことも、ごもっともです。
もう少し調査を継続してみます!



4. Google Scholarで「abir holi india」と検索

最近の情報を探すために、今度はGoogle Scholarを使って検索してみよう。

巨人の肩の上に立つ
先人の知の積み重ねをリスペクトした言葉


くまちゃんポイント⑤ Google Scholarは学術論文に特化した検索ツール。国内外の論文を幅広く検索できるよ。オープンアクセス(本文がネット上で公開されている)の論文はリンクも掲載されているよ

検索の結果、こんな論文がヒットしました。

Ghosh, S. K., Bandyopadhyay, D., Agarwal, M., & Rudra, O. (2016). Dermatoses among children from celebration of “Holi,” the spring festival, in India: A cross-sectional observational study. Indian Journal of Dermatology, 61(5), 525-528.

(インドの春祭り "Holi "の祝賀による小児の皮膚疾患: 横断的観察研究)
※日本語訳はDeepLを使用

これは医学論文だね。2010年から2015年の6年間の間、ホーリー祭に参加した、子どもの皮膚疾患を調査した論文みたい。

……すると、次のような記述を発見!

“Holi” colors used to be prepared from the flowers that blossomed during spring. Over the years, with the advent of urbanization and industrialization, these natural colors have been substituted by synthetic and industrial dyes. The colors commonly used are black (lead oxide), green (copper sulfate and malachite green), silver (aluminum bromide), blue (Prussian blue, cobalt nitrate, indigo, and zinc salts), and red (mercury sulfate).

「ホーリー」の色は、かつては春に咲く花から作られていた。長い年月を経て、都市化と工業化が進むにつれて、こうした自然の色は合成染料や工業用染料で代用されるようになった。一般的に使用される色は、黒(酸化鉛)、緑(硫酸銅、マラカイトグリーン)、銀(臭化アルミニウム)、青(プルシアンブルー、硝酸コバルト、藍、亜鉛塩)、赤(硫酸水銀)である。)※日本語訳はDeepLを使用

Ghosh, S. K., Bandyopadhyay, D., Agarwal, M., & Rudra, O. (2016). Dermatoses among children from celebration of “Holi,” the spring festival, in India: A cross-sectional observational study. Indian Journal of Dermatology, 61(5), 525–528.

なんと、色別の原材料が明らかになりました……!なるほど、近年は化学染料で代用されるケースが多いみたいだね。ただそれが原因となって皮膚炎を引き起こすこともあるそう……。

なんだか粉臭い……じゃなかった、きな臭い話になってきました。ここで諦めたらくまが廃る。もう一息、調査を続行してみます!!




5. 論文の引用文献をたどる

論文が見つかったので、「この論文が参考にしている情報」をたどります。

くまちゃんポイント⑥ 論文の最後にある参考文献をチェックすることで、さらに情報の深堀りができるよ。 そうやって見つけた次の文献の参考文献を、さらにたどっていくのも有効だよ。どんどん深く潜っていこう!

Jaisinghani, B. (2012, March 04). Holi: Markets Flooded with Spurious Herbal Gulal. Times of India. Retrieved from https://www.timesofindia.indiatimes.com/city/mumbai/Holi-Markets-flooded-with-spurious-herbal-gulal/articleshow/12129861.cms
[アクセス日:2023/08/24].

(ホーリー祭り:偽物のハーブガラルが市場に出回る)
※日本語訳はDeepLを使用

論文のReferences(参考文献)8番に上記のような『Times of india』の新聞記事がありました。オーガニックの粉需要が高まっているけど、オーガニックと偽った安価な粉が問題になっているという内容だね。

さらに論文の参考文献を見ていきます。

Holi Natural Colours - How to make Natural colours? Holi Festival Making of Natural Colours. Society for the Confluence of Festivals in India. https://www.holifestival.org/holi-natural-colors.html
[
アクセス日:2023/8/24]

(ホーリーの天然色 - 天然色の作り方?ホーリー祭 天然色の作り方。インドの祭りの合流のための協会)

References(参考文献)1番・2番で参考にされているインドフェスティバル協会のサイトに、天然素材での粉・色水の作り方のページがあるのを発見!
これで化学染料、オーガニック、両方の素材をおさえることができました。


これまでの結果を、くまちゃんまとめてみました。

ちょっと見にくいからクリックで確認してね
*角括弧は代替の材料だよ。
*全部をフォローしているわけではなく、別法もあります。

知らない材料ばっかりだから、比較的なじみがあって、入手しやすい素材を赤字にしてみたよ。




結論

結論:昔は植物を材料としていたが、19世紀後半から、化学染料が使われるようになった。しかし、化学染料は皮膚病等の原因となることがあり、現在ではオーガニック材料(ヘナ、ターメリック等)の需要も高まっている。だが、依然として祭りで用いられているアビル/ガラルには化学染料のものが含まれている

くまちゃん、今度こそ解決です!

色々調べると楽しいよね。

ネットの普及により、あらゆる経験から唯一性が失われつつある昨今、
自分だけの体験を手に入れるには、一見、ムダにも見えることに全力投球していくしかない、くまちゃんはそう思う。


今後も、noteで未解決レファレンスを解決していくからよろしくね。



おまけ

せっかく調べたので、くまちゃんもアビルを自作して、おうちでホーリー祭を開催したいと思います。

材料は、Amazonや成城石井とかのちょっといいめのスーパーマーケットでそろうよ。

写真左上から、ビーツ、コリアンダー、ターメリック、アナトー
「黄:ターメリック」「緑:コリアンダー「赤(奥):アナトー」「マゼンタ(前):ビーツ」

これを……

「Holi-hai!」(ホーリー祭で叫ぶ言葉)

思ったより汚物やね――


以上です。


見てくれてありがとう。
この記事でレファレンスサービスに興味を持った人は、こっちの記事も読んでみてね。


最後にCMです。

くまちゃん、実は普段はYouTubeで活動しています。
くまちゃんチャンネルでは、いろいろな動画を
投稿しています。


謎のカタログギフトを受け取ったり、


名言を雑にパクったり、


火を見つめたりしているよ。

ぜひチェックしてみてね!

おわり。

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