尊敬する大先輩は努力で時代についていく
私は黒電話もポケベルもPHSも所有してきた世代である。
ポケベルを打ちに公衆電話に並んだり、電波が悪いとアンテナを伸ばしてみたり、受電するときにキラキラ光る謎の物体をジャラジャラつけたりしていた。
あの頃ぼんやり考えていた、
「このポケベルから直接メッセージが送れたらいいのに」
とか
「小さい電話が持ち歩けるようになればいいのに」
とか
「CDとかMDとかなくても音楽が聴けるようになればいいのに」
などと思っていたことが20年の時を経て現実化してしまった。
そして時代は今「オンライン」「リモート」。
携帯電話もインターネットも、その時代に活動的に生活してきた世代にはすぐに慣れることができると思うけれど、ご年配の方はそういう類いのものが苦手な印象があった。
私の職場には70代の男性がアルバイトとして働いている。
品のある穏やかな方で、まさに映画「マイインターン」のロバートデニーロである。
生粋の日本人だけれど、ここでは「ロバートさん」と呼ぶことにしよう。
聞くところによるとロバートさんはアルバイトだけでなく、趣味でイタリア語だかスペイン語だかの語学を学んだり、町内会の役員をしたりと大変お忙しそうな生活をしている。
そんなロバートさんがつい2年ほど前にスマートフォンデビューをした。
職場ではアプリを通してやり取りすることが多いため、それに合わせてわざわざ購入してくれたのである。
しかし、進化しまくっているスマートフォンを扱うのは容易ではない。
アプリのインストールから設定までも一筋縄ではいかなかった。
ようやくスマートフォンに慣れてきた頃に、次はリモートである。
「あぁ、これはちょっとロバートさんには無理かも」
と思った私は、リモートでやらなければいけない仕事はロバートさんに振らないようにしてきた。
しかし、いよいよ避け続けることが難しくなってきたので
「こういうお仕事をする必要がでてきました」
と伝えると
「わかりました。精一杯やりますので教えていただけますか」
と、こちらが恐縮してしまうほど丁寧な言葉使いで応えてくれた。
なるべくわかりやすいようにとマニュアルをつくったものの、慣れた人には感覚的にできるような操作もロバートさんにとっては全てが初めて。
カーソルを小さなポイントに合わせるときも
「そこじゃなくてここです」
というようなやり取りを毎日のように行っていた。
私がいないときには孫ほどの年齢の学生アルバイトに
「教えていただけますか」
と低姿勢で練習していたというロバートさんのマニュアルには美しい字で
「ここを押す」「ここに表示される」
などビッシリとメモが書いてあった。
あぁ。私は年配の人には無理だろうと勝手に思い込んで、活躍する機会を奪っていたんだ。
失礼な話である。
実際ほとんど一人で操作ができるようになったし、ロバートさんが操作できるようになったことで職場全体も助かっている。
それでも何度も同じところで間違えるロバートさんは私に
「すみません。なかなか覚えられなくて」
と言う。
「いいんです!何回でも聞いてください!」
ここ20年でのデジタルの進化をみると、ここから20年後には今考える「こうなったらいいのに」がまた現実化してくるのだろう。
その頃私は進化についていけなくなっているかもしれないけれど、やってやれないことはないはず。
尊敬するロバートさんのように。