母と一緒に映画館へ ~そして小学生だった私は突然の成長を遂げる~
私の記憶が正しければ、生まれて初めて映画館で観た映画はドラえもんだ。
両親が共働きだったので、小学生のときは学童保育にお世話になっていた。
好きなお菓子を獲得するために本気でゲーム(中庭でかけっことか、ハンカチ落としとか)をしていたことを思い出す。
夏休みの朝はラジオ体操、宿題タイム、プール、お昼寝。
そしてひと夏に一度の大イベントが、
「映画館でドラえもんを観る」
今はもう無くなってしまったが、こじんまりとした映画館だった。
場所も何となく覚えている。
学校から皆で手をつないで歩いて行くのだが、小学生の足だと片道30~40分はかかったのではないだろうか。
かれこれ30年くらい前の話なので、細かい情景は覚えていない。
だけどジャイアンがいつもと違って優しくて、いつものアニメより感動して、入場者特典のおもちゃをもらえるのが嬉しかったことは鮮明に覚えている。
ちょっと遠出をして、大きな画面で映画を観て、おもちゃをもらえる。
とにかく特別な時間だった。
私が映画を好きになったのは、これがきっかけなのかもしれない。
更に、私が映画好きになるのに大きな影響を与えたのは母である。
母は休みの日にはいつもお酒を飲みながら映画を観て、泣いていた。
何をそんなに泣くことがあるのかと思っていたが、気づけば私も休みの日はお酒を飲みながら映画を観て、泣いている。
今となっては母が好きなもの全てを私も好きなのだから血は争えない。
映画、読書、旅行、韓国ドラマ、お酒、占い、自由…
「ローマの休日」を観て感動した母はお金を貯め、単身ローマへ旅に出た。
1950年代に女ひとりでローマへ。
何という行動力。
私も20代の頃にワーキングホリデービザを取ってオーストラリアに行ったが、レベルが違う。レベチである。
そんな母が娘二人を連れ、映画館へ。
ドラえもんを卒業してから映画館へ行くのは初めてだったはずだ。
私が小学校5年生、妹が3年生くらいの頃である。
ドラえもんを観ていた映画館とは別の、もう少し大きな映画館だった。
大抵家族で映画館に行く場合は、大人が子ども向け映画を一緒に観てくれるのだと思う。
しかし母は違っていた。
「お母さんはこれが観たい」
何の映画だったか覚えていないが、子どもが興味を持つような映画ではなかったはずだ。
妹が観たいと言ったのは、子ども向けの邦画だったと思う。
「妹と一緒にこれを観れば?」
私は嫌だと言い張った。
母と離れるのが嫌だったのではない。
観たい映画が違ったのだ。
ゴースト~ニューヨークの幻~
なんて大人すぎるチョイス!!!
若い人は知らない人も多いかもしれない。
カップルが一緒にろくろを回す、めちゃくちゃ有名なシーンがあるあの映画である。
ピンとこない人は検索してみてほしい。
小学5年生が選んで観る映画ではない。
結局3人各々が自分の好きな映画を観ることになった。
もちろん始まる時間も終わる時間もバラバラである。
全員の映画が終わるまでフロアで待っていたはずだ。
なんて自由。
そして何てお利口さんな妹。
当然字幕だったはずなのだが、私は泣いた。
ボロボロに泣いたのを覚えている。
ドラえもんから突然の成長っぷりである。
そこから私は映画を一人で観に行くのが当たり前になった。
大人になった今では、お風呂上りにすっぴんで愛車の原付バイクを10分走らせ、映画を堪能してサクっと帰って来る。
最高に幸せだ。
久しぶりにゴーストを観てみようか。
きっと最後のあのシーンで号泣するのだろう。
お酒を片手に。
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