ユーノスロードスターへの憧れはつづいている
私の両親は生まれ育った地元で結婚している。
同級生の幼馴染婚。
2人ともまだ若かったが、お腹に私がいることがわかりクリスマスの日に結婚に至った。
そして、今もたくさんの友人付き合いがある。
私が生まれた時、私の両親をとりまく友人達も当然まだ若く、未婚の人も多い状態だった。
そんな訳で、私は両親の友人グループのメンバーにも随分とかわいがられていたようだ。まるで我が子のようにあやしてもらったり、遊んでくれたり、おいしいものを食べさせてくれたり、私はほとんど覚えていないが、過去の思い出話を聞く限りはかなりいい思いをさせてもらっていた。
まるでプリンセスさながらの扱い。
そして、実際に幼少の頃の私は実にかわいらしかった。
自分で言うのも変だと思うが、写真で見る限りは目がくりくりと大きくて良い表情をしている。
何より性格が素直で大人しく、大人に好かれそうな要素を兼ね備えていたと思う。
両親の友人グループの1人にYさんという男性がいる。
彼も当時はまだ独身だった。
彼は週末になると、2つ隣の市からわざわざ私の両親の家へ訪ねて来てくれた。大人たちが室内で音楽をかけながらコーヒーを飲んだり談笑したりしている場面を何となく覚えている。
会話の内容は、映画やコンサートなどの話題、東京に遊びに行った時のこと、スキー旅行の計画、同級生などの近況などを話していたように思う。
そして、私にもよく話しかけてくれた。
「〇〇はかわいいなぁ」
「何が好きなの?」
「娘みたいな気持ちだよ」
私の両親と過去の話をしていると「本当にYはあなたの事をかわいがっていたんだよ」と言われることも多い。
きっと、一緒におもちゃで遊んでくれたり、本を読んだりしてくれたのだと思う。細かい場面ははっきりとは覚えていない。けれども、いつもその場面を思い出そうとすると、彼のハンサムな素敵な顔がくしゃっと崩れて、やわらかな陽だまりのような笑みを投げかけていてくれたことを思い出すのだ。
私にとってYさんは
たとえるなら
フルハウスという海外ドラマの
ジェシーおじさんであった。
かっこいいのに、ちょっとずれてる。
いつも明るい気分にさせてくれる。
ここぞという時は頼りになる。
素直で豊かな感情表現。
そして、あのくしゃっとした笑顔。
彼はいつもうちに訪れる時に
マツダのユーノスロードスターで現れた。
この車は2人乗りのオープンカーである。
私はこの助手席に乗ったのか乗らなかったのかも忘れているが、彼に「ドライブに行こうよ」と誘われた場面だけは鮮明に覚えている。
ツヤツヤした低い車体から手をあげて笑顔を向けるその仕草は、幼心にもどきどきするようなもので、私がはじめて人生の中で感じた大人の男性の魅力というやつだったのかもしれない。
時は流れ、私は成人になった。
その年に私は自動車免許を所得した。
はじめての車は両親に購入してもらった中古のシビックだった。
しかし、シビックを運転しながら、私はいつの日かマツダのロードスターに乗りたいという夢を抱いていた。
それはもちろんYさんのあの笑顔。
醸し出された大人の艶やかな魅力。
ハンドルを携える指先までのしなやかな腕。
ほのかに香るコーヒーの匂い。
カーステレオから流れる洋楽。
これらがきっと私の中で強い憧れとなっていた。
今は、私には子供がいるので、2人乗りの車を購入する予定は当分ないが....
いつの日か、私は自分が年を重ねた時に、あの憧れのユーノスロードスターで都内を走る姿を夢見ている。
その時はもちろん
Yさんが好きな洋楽をかけて
コーヒーを楽しみながら
私は風を感じて颯爽とハンドルをきるのだ。