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エンジニアリングとイノベーション ~経営視点からのCTOの役割~
企業が社会や世の中にイノベーションをもたらし、価値を創出していくためには、エンジニアリングが不可欠です。そして、その技術革新の中心となる役割を担うのがCTOです。
僕が考える「エンジニアリング」は、単に技術の蓄積やプロダクトの開発だけでなく、企業全体が持つビジョンをどう実現し、社会にどのように貢献していくかを支える根幹だと思っています。
今回は、CTOとしての役割を、経営陣との協働や、エンジニアリングが果たすべき役割の視点で考えてみたいと思います。
1. イノベーションに不可欠なエンジニアリングとCTOのリーダーシップ
イノベーションの実現に必要なのは、技術そのものの力だけではありません。企業として社会や顧客に対して新しい価値を届けようとするためには、エンジニアリングをどのように組み立てていくか、具体的に計画を描き、実行する必要があります。ここで重要なのがCTOのリーダーシップです。
新しい市場を切り開く技術、顧客体験を変えるプロダクトやサービス、社会に対する価値の提供など、どれもエンジニアリングなしには達成できません。CTOの役割は、技術の力で何を実現したいかを描き、その道筋をチームと共有して進んでいくことです。単なる技術の目標ではなく、会社全体が掲げる「未来」をどう技術で形にするか。その意味では、エンジニアリングは手段でありながらも、企業がどう社会と関わり、新しい価値を生むかの核心にもあると思います。
2. CTOと他のCXOとの協働から生まれる価値
CTOと他のCXOは、単なる役割分担ではなく、経営の視点で技術の活用を協働して考えるパートナーであるべきです。僕自身、エンジニアリングと経営が分断されてしまうと、技術が企業の方向性や成長にどう貢献するかが見えにくくなり、迷走してしまうと考えています。CEOやCFO、COOそれぞれの視点が技術戦略と交わることで、企業が技術をどのように活用して成長するかを現実的に計画し、実行していく基盤が整います。
特にCEOとの関係は、CTOが推進する技術やイノベーションが、企業の目指す方向性や社会への影響とどう結びついているかを判断する基盤となります。CEOが「どこまでCTOに権限を委ねるか、どの部分で意思決定を共有するか」をバランスよく考えることで、CTOも思い切ってリーダーシップを発揮できるのです。
3. 経営陣の判断基準とCTOに求められる視野
経営視点から見ると、CTOに求められるのはエンジニアリングを単なる技術ではなく、企業が掲げる経営目標と結びつける視野です。
例えば、顧客体験を向上させるためのプロダクトやサービス、事業の差別化を図る新たな技術の導入、新しい市場を開拓するためのイノベーションは、全て技術戦略の方向性と一致していなければなりません。
また、技術革新に伴うリスクと投資対効果を評価し、CTOが技術のリスクとメリットを十分に評価できる体制は、CFOやCOOの支援によって整えられるものです。そうした視点での協力があってこそ、企業全体での方向性も一貫性が保たれます。
4. 経営と技術の乖離から起こるアンチパターン
最後に注意すべきなのは、経営と技術が乖離してしまうリスクです。
僕自身過去に沢山失敗してきていますが、経営と技術が噛み合わずに足を引っ張り合ってしまう場面を見てきましたし、実際に体験もしてきました。
特に、プロダクトを主体とする企業やスタートアップでは、経営と技術の意識が乖離することが致命的な影響を及ぼすことが少なくありません。
CTOの視点から見ると、技術サイドが「やりたい技術」を追いかけてしまうことで、会社の目指す方向性からズレていくことがよくあります。
一方で、経営サイドもITや技術の理解が十分でなかったり、コミュニケーション不足でCTOの提案が伝わりきっていなかったりすると、プロダクト開発の途中で目標がブレたり、適切な投資やリソースの確保ができなくなったりします。
この乖離が続くと、次のような問題が起こります:
プロダクトの開発が進まない、もしくは望んでいた方向とは異なるものになってしまう。
情報セキュリティの管理やシステム更新が遅れる。
技術投資が経営の意図と一致せず、無駄に終わったり、負の遺産を積み上げてしまいリスクを高めてしまう。
こうした問題を放置したまま経営を続けるのは非常に危険です。特にプロダクトを核とする企業にとっては、会社の存続すら危ぶまれるケースもあります。
この乖離を防ぐには、経営陣と技術サイドの双方が意識を変え、コミュニケーションを密に取ることが大前提です。
CTOが取るべきアプローチ
経営陣のITリテラシーを引き上げるため、技術の重要性やリスクについて丁寧に説明する。
経営陣の意図を理解し、会社の方向性と一致する技術戦略を明確に示す。
CTO自身も経営陣を信頼し、技術が貢献するべきビジネスの視点を持つ。
経営陣が取るべきアプローチ
技術サイドに向け、自分たちの目指している先や、企業にとっての最優先事項を共有する。
技術サイドに対する理解を深め、リーダーシップに信頼を置く。
技術サイドが適切に経営に貢献できる環境を提供するため、支援や協力を惜しまない。
つまり、経営陣と技術サイドが相互に理解し合うために積極的にコミュニケーションを図ることが最も重要です。お互いの専門性を尊重しながらも、会社の方向性や重要な意思決定の背景について共通認識を持ち、全幅の信頼を置いて任せきることが、イノベーションの基盤になります。理解が難しいと感じることもあるでしょうが、そこで手を緩めず、しっかりと対話を続けることが大切です。その舵取り役であり、間に立って物事を推進するのがCTOの役割であるともいえます。
まとめ – イノベーションとエンジニアリングの融合
イノベーションにはエンジニアリングが不可欠であり、その中心的な役割を担うのがCTOです。CTOが技術戦略をリードし、他のCXOがそれを事業戦略にどう活かすかを共に考え、サポートすることで、企業全体が一丸となってイノベーションを生み出す体制が整います。
CTOが経営にどう貢献できるかを他の経営陣と共有し、経営全体でエンジニアリングの持つ可能性を最大限に活用していくことが、現代の企業にとって必要不可欠な姿勢だと感じます。エンジニアリングを通じて社会や顧客に新たな価値を届けるために、CTOとして企業の成長を促進する体制を築いていきましょう。