トラウマか、それとも思い出か
僕はヘビが苦手だ。
小学生のころ、大蛇が次々と人を襲う映画を見たことがトラウマとなり、草むらが揺れただけで脱兎のごとく逃げ出すほどにヘビが怖い。
そんな僕とは対照的に、我が娘(5)はヘビが大好き。
ヘビのクリクリとした目とウネウネと動く体が、とってもカワイイのだという。
ある日、妻と娘の3人で動物園にいったときのこと。
入口には『ヘビとのふれあいイベント』と書かれた看板が。
『これはマズい』とつぶやく僕。
案の定「パパ、ヘビさんさわりたい」と娘。
僕は「ウサギさんにしない?」と説得するも、娘は「やだ!ヘビさんがいい」とゆずらない。
しぶしぶ、イベント会場へ。
目をキラキラさせながら、ヘビをなでる娘。
僕のもっとも愛するひとと、もっとも恐れる存在が戯れている。
もはや苦行である。
そして「パパ、みてみて~」と言う娘の姿に、一歩後ずさりをした瞬間『ぐにゅ』っと何かを踏んだ。
ゾッとして足元を見ると、そこには地を這う細長い物体が。
全身の毛がいっせいに逆立つ。
『ヘビだ!』
瞬間的にそう思った。
「へぬわぁー‼」と絶叫し、妻にしがみつく。
一斉にこちらを見る、人々と動物たち。
だがそんな僕に、妻が冷静に言い放つ。
「あなた、よく見て」と。
足元にあったのはヘビではなく、ただの散水用ホース。
公衆の面前で絶叫し、涙目で妻に抱き着いた僕。
また、新たなトラウマが刻まれてしまった。
いや、これはいい思い出なのか?