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~何者である…かもしれない~第7回ゆる読書会レポート
「あなたという人間を、1分間で説明してみてください」
企業の採用面接で、面接官からそんな質問が出ることもあるという。
「1分間で自分が何者であるかを説明しろ」だなんて、僕には無理だ。
第7回ゆる読書会
『ブックバー・月に開く』で2ヶ月に1回のペースで開催していたゆる読書会も、今回でちょうど1年が経った。
そんな節目の今回、課題図書としたのは『何者 朝井リョウ 著』
何十社うけても内定ゼロなんてあたりまえという厳しい就職活動の現実と、見せたい自分だけ発信できるSNSという非現実の狭間でもがく就活生を描いた作品。
僕が2019年読んだ本のなかで、もっともおもしろかった作品ということが選書の理由。
【自己紹介で趣向】
参加者は常連さんから、はじめましての方もふくめて6名。
いつもは、はじめに参加者同士で簡単に自己紹介をしてもらうのだが、今回はちょっと趣向を変えてみた。
用意したのは画用紙とマジックペン。
画用紙に自分が『使いたいキーワード』と『呼ばれたい名前』を書き、それを見せながら1分間で自己紹介をしてもらった。
つまりは、1分間で自分が何者であるかを説明してもらったのだ。
自分ができないと思ったことを他人様にやらせるという、主催者権限の乱用ともとられる行為だが、みなさん文句も言わず取り組んでくださった。
ありがたい。
結果は、大成功。いつもよりも空気の和らぎが早く感じた。
ちなみに、『語学』のカネタさん、『自由』のヤヨイさん、『好きなことを探す』のトコさん、『三つ葉』のみつばさん、『手帳』のてるさん、『三味線』のリーさんという参加メンバー(ちなみに僕は『仮面ライダー』)。
リーさん以外は女性という、非常に華やかな雰囲気。
社会人3年目というリーさんもとても爽やかな青年で、いるだけで場の清涼感が引き立つ。
ちなみにリーさんの「三味線がキッカケで、引きこもりから脱した」というエピソードが印象深かった。
カネタさん、ヤヨイさん、トコさんはお子さんが就活を経験した世代、てるさんとリーさんは三年前に自身が就活を経験した世代、そしてみつばさんは、教育機関で仕事をしており、教育者として学生を社会に送り出す立場と、面接官として人材を組織に受け入れる立場の両方を経験しているという。
今回の課題図書にふさわしいと思えるような組み合わせに、主催者として胸が躍った。
全体として、話題はふたつの要素に集中した。
ひとつは『就活』、そしてもうひとつは『SNS』だ。
【それぞれの気持ち】
つい3年前、就活を経験した、てるさんとリーさん。採用されない焦りや、内定者とそうでない者とでギクシャクしていく人間関係といった当時の記憶を、ふたりは苦々しく語ってくれた。
また、親世代の方々からは、自分自身のときとは違う就活の厳しさを目のあたりにして、我がごとのように辛かったという意見も。
就活中、お子さんが心を病んでしまう寸前だったという方もいた。
作中でも、『不採用だったとき、決定的な理由があるはずなのに、それが何なのかわからない。試験のように数学ができなかったから、とか、作文で時間が足りなくなったから、とか、そんな分析すらさせてもらいない』というように、登場人物が就活の怖さを語る場面がある。
就活の辛い経験。
元・就活生とその親といった立場で参加者同士話題が広がるなか、みつばさんがふと口をひらく。
「学生たちを見ていて、なぜこんな良い子が受からないのかわからない、ということも多々あります。一方で、面接において基本的な採用基準はありつつも、相手の話す言葉に飾りがない気がするといったある意味感覚的なことが、採用の決め手のひとつになったこともあって・・・。人を選ぶって、正直むずかしいんですよね」と語った。
言葉ではうまく表現できない『何か』が、合否の決定的な理由となっていることもある。
そんな『なんとなく』といった要素が捨てきれないなかで、人を選ぶという行為に面接官側も怖さを感じていると、みつばさんはそう言っているように聞こえた。
【羨望と嫉妬は表裏一体】
本作では、物語のなかで登場人物のTwitterのつぶやきが各所に散りばめられている。
読書中、実際にTwitterを見ているかのような感覚にすらなる。
僕は作中、ある人物が「Twitterで自分の努力を実況中継していないと、立っていられない」と力なくつぶやき、今にも崩れ落ちそうな自分を保っている描写がとても印象的だった。
はたしてみなさんは、この描写をどう感じたのだろうか。
質問をしてみた。
まずは、てるさんが口火を切った。
「相手のTwitterをすぐ確認してモヤモヤするところとか、すごくリアルだと思いました。わたしも友達のアップしたSNSの画像を見ていると、すごく気持ちが下がってくるんです。2分ぐらいの短い時間なんですけど、むなしいというか、わずらわしいというか…。それで、あるとき気づいたんです。あっ、この2分ってすごくムダだなぁって」
流れていくタイムライン。
フレームにギュッと笑顔をよせあう友人たち。そこに自分の顔はない。
まるで時代の流れから取り残されたような疎外感と、画面から放たれるブルーライトに、目だけでなく、心までもかすれてくる。
羨望と嫉妬。
てるさんの言葉から、そんなイメージを僕は感じ取った。
ちなみに、現在てるさんは、SNS上の不必要な投稿は見ないようにしているとのこと。
かわりに、会いたい人には会いにいき、感じたことは手帳に、伝えたいことは手紙に書くといったように、行動することを大切にしているそうだ。
これは、ぜひ僕も見習いたいと思う。
【依存する理由】
次に、親世代のトコさんから、「なぜ、そこまでSNSの投稿にこだわるのか、依存してしまうのか、ちょっとわからないんです。怖くないんですか?」という率直な質問があった。
たしかに、投稿すれば世界中の誰にだって見られる可能性がある。それに、投稿は半永久的に残ってしまう。
その問いにリーさんが答える。
「ぼくは、SNSに依存してしまう理由って四つあると思っています。ひとつめは承認欲求と知的好奇心が瞬時に満たされるから。ふたつめは仲間外れにされたくないから。そして最後の理由。これがいちばんぼくにとっては最大の理由だったんですけど、それは何かの主人公になった気分になれるから、なんです」
じつはリーさん、以前はTwitter上で『公開、プライベート、裏』の三つのアカウントを持っていた。(『裏』というのは、匿名で愚痴をただ吐き続けるだけのアカウント)
最初は気持ちよく発信していたのだが、次第に壮絶な虚無感におそわれ、現在はすべて消去したという。
僕は、この『依存してしまう理由=主人公気分』という言葉がでたとき、思わず「たしかに!」と声をあげてしまった。
なぜなら、僕はこの『主人公気分』に酔ってしまい、SNSに傾倒してしまうことがよくあるからだ。
「自分の人生の主人公は、自分だ」といった、気持ちの在り方を説く言葉も聞くが、とはいえ何か主人公であることの確証がほしい
それが、僕の場合SNS上での投稿というかたちになって、長時間パソコンの前に鎮座し続ける状況を生み出している。
現状なんとかしなければ、とは思っている。
本作も『主人公気分に酔っている』という視点を入れて読むと、登場人物の言動に納得がいく部分も多い。
それにしても、てるさんとリーさんは、僕(37才)よりも一回りも年下であるのに、よっぽど僕よりもSNSから解脱していると感じた。
学ぶ相手に年齢は関係ないと思ったのと同時に、煩悩まみれな自分が情けない。
【非言語】
会も終盤になり、異なる世代・立場の意見が渾然一体になってきたところで、僕の母と同年代のカネタさんが、
「年寄りのお説教に聞こえてしまうでしょうけど…」
と優しく言葉をそえたうえで、ゆっくりと語り出した。
「SNS上ではなくて、みんな直接会って議論をしたほうがいいんじゃないかしら。この本に出てくる人たちも、優しすぎるというか、気のつかいすぎに思えるの。言いたいことも言えていない。それよりも、生身でちゃんと意見をぶつけ合うことで、相手に自分が何者なのか伝わるし、自分が何者なのか気がつくことができる、と私は思うわ」
と語り、にっこりと微笑んだ。
SNSが悪いというわけではないし、発信を通して気がつくこともある。けれど、カネタさんが言うように、議論を重ねていくなかで気がつくことは多い。
現実での議論の場であれば、自分は「是」と思っていたことに相手が「非」と答えた場合、その「非」という言語の部分だけではなく、相手の表情や雰囲気など、SNS上にはない非言語の部分に、自分はどう反応したのかを知ることができる。
そこを掘り下げていくことで、「自分は、こういう人間だ!」ということに気づけるのではないだろうか。
【十二単(じゅうにひとえ)】
実際にこの一年、読書会という議論の場で気づいたことは多い。
それは自分で主催してみると、なおさらだった。
ただ、「こういう人間だ!」とは、僕はまだ言いきれない。
「こういう人間かもしれない」という段階…というか複数の「かもしれない」が集まった状態だ。
だから、「1分間で自分が何者であるかを説明しろ」だなんて、僕には無理だと改めて思う。
でもいつか、「かもしれない」を積み重ねたその先に、何者であるか分かる日がくる。
そんな気がする。
その日のために、次回の読書会も参加者全員で「かもしれない」を積み重ねていこうと思う。
めざすは、十二単レベルの積み重ねだ。