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~もうひとりの参加者~第8回ゆる読書会レポート
「背中が熱い。首筋に汗が滲む…」
まるで、背後に誰かが密着しているかのような感覚。
1月だというのに、4月なみの気温だからだろうか。
それとも、おととい熱を出した娘の風邪がうつったのだろうか。
いや、この感覚の正体は「緊張」だ。
1月30日、ブックバー月に開くにて、第8回目のゆる読書会を開催した。
参加資格は課題本を読んでくることと、店内でワンドリンクをオーダーすることのみ。
それ以外はフリーという、ゆるい感じでやっている。
毎回、店の常連さんもしくは、「読書会にちょっと興味があって、初めて参加します」といった読書会初心者さんが参加してくれている。
今回の課題本は『本日は、お日柄もよく 原田マハ著』
主人公の女性が、とある結婚式で伝説のスピーチライターに出会ったことがキッカケとなり、自身もスピーチライターとして成長していく物語。
清々しいほど白い祝儀袋を模した表紙が、新年に、そして晴天の今日にピッタリの一冊。
晴れやかな気分でのぞんだ読書会である反面、僕はいつも以上に緊張していた(まあ、一度たりとも緊張しなかったことはないのだが)。
理由は、今回の参加者の半分が、他の読書会の主催者さんとその常連さんであったからだ。
僕が一度、そちらの読書会に参加させていただいたことが縁で、今回遊びにきてくださったのだった。
僕は毎回どの参加者さんに対しても、誠実にリラックスして接することを心がけているのだが、今回はどうしても意識してしまい、いつもとは違った緊張が僕を覆っていたのだった。
あまりの緊張に口内がパサパサに乾いてしまい、オーダーしたコーヒーをあっという間に飲み干してしまった。
コーヒーカップをわきに置き、とりあえず深呼吸。
そして、「それでは、始めます」と、僕はいつもよりも1オクターブ高い声で開始を宣言した。
【一文字の自己紹介】
参加者は全部で7名。
まずは、自己紹介から。
今回は新年最初の読書会ということで、自分の名前とともに、今年の目標を漢字一文字で紙に書いて発表してもらった。
作中で『静』と漢字一文字が書かれたメモが登場するシーンがあり、そこからヒントを得て思いついた趣向。
書いてもらう用紙は、本の表紙と同様に祝儀袋を模したものを用意。
「考える時間は3分で、1分ほどで発表してください」と僕。
用紙を手に「うーん」と、うなる参加者さんたち。
その姿に、事前告知もなく急にお願いしてしまったことに無理があったかなと不安がよぎった。
しかし、僕の心配をよそに、みなさん3分と待たず1分で完成。
『何・楽・毎・道・逢・内』、用紙に書かれた文字たち。
『何でも屋を突き詰める、自由を楽しむ、毎日の発信を継続する、ワタシの道を極める、懐かしい友に逢いにいく、自己内省をする....』と、それぞれの目標を発表してくれた参加者さんたち。
そのなかでも、とくに印象に残ったのは、目標の一文字に『生』をあげた保育士の青年Oさん。
昨年、身近な人を突然亡くしたという彼は、「今年は生きるということについて、真摯に考える年にしたい。他人の生についても、自分の生についても、です」と一言一句、丁寧に言葉を紡いだ。
その姿に胸を突かれた僕。
と同時に、みなさんの言葉を操るレベルの高さに、さらに緊張が増していくのを実感せずにはいられなかった。
【隠れた極意】
自己紹介のあと、さっそく本題に入る。
まず、「おもしろかった」という感想が多くでた。
それも、駆け足で読みきってしまうほどおもしろかった、である。
本作は、お仕事物語、社会問題、ラブストーリー、家族愛、男の友情、ハウツーなどなど、これでもかというほど多様な要素がつまっているのだが、それらすべてがスッキリとまとまり、ひとつのストーリーとなっている。
ある参加者さん曰く「これだけいろいろ詰まっていると、最終的に『結局何が言いたいの?』となってしまいがちですが、この作品にはそれがない。そこが秀逸だと思います」とのこと。
「たしかに!」と膝を打つ僕。
と同時に、アイデアが湧くと、あれもこれもと欲張りすぎて結局何がしたかったのかわからなくなるという僕自身の経験が思い起こされて耳が痛い。
さらに話しの中心となったが、作中に出てくるスピーチの極意・十個条について。
「具体例を盛り込んだ原稿を作り、全文暗記すること」
「聴衆が静かになるのを待って始めること」
「トップバッターとして登場するのは極力避けること」
などなど。
作中、当然この極意を遵守したスピーチが展開されると思いきや、ところどころこの極意に沿わないスピーチも披露される。
(ざわざわと騒がしいなか、さっそうと登場、いきなり話し出す、など)
しかし、「えっ」と思いつつも、なぜかそのスピーチに引き込まれてしまう。
これは何なのだろうかとなったとき、出た答えは「隠れた極意・十一個条目があるのでは?」であった。
『十一個条目』
そのワードから、参加者さん同士の会話がするりと紡がれる。
ある人は「守破離。極意という基本を徹底したその先に、殻を破って離れ出る11個条目があるんじゃなかろうか」と言い、
またある人はそれに対し「自分だけの十一個条目を考えてみたら、おもしろいと思いません?」と問いをなげかけ、
さらに別のある人が「だとしたら、ボクの十一個条目は『話に合コン話を盛り込む』、かな(笑)」と笑いを誘う言葉で場をわかせる。
見ていて、心が躍る参加者さん同士のやり取り。
そのなかで、『自分だけの十一個条目』という言葉が僕を惹きつける。
【僕だけの十一個条目】
僕は、人と話すことは好きだが、人前で話すことは苦手だ。
人前で話すとなると、頭のなかが真っ白になることも多々あるし、緊張で膝が震えすぎて、翌日筋肉痛になったこともある。
いつも煩わしくて、なんとかしたい緊張。
けれど、いつも自分のそばにいるこの緊張が、僕だけの『十一個条目』になるんじゃなかろうか。
いちばん近くにいるひとを、いちばんの味方にする。
そのためにできることは、緊張をひとりの参加者、もしくは同伴者として認め、他の参加者さんと同じようにその声に耳を傾けて、誠実に受け入れることなんじゃないかと思う。
そんなことを考えていたら、時計の針が読書会終了時間20:30を指していた。
参加者のみなさんに「ありがとうございました」と感謝を述べ、会は終了。
今回もみなさんの笑顔と「楽しかったです」という感想に、やってよかったと感じ入る時間であった。
みなさんを見送ったあと、カウンター席に座り、もう一杯コーヒーを注文する僕。
「この読書会の参加資格は、ワンドリンクオーダーなので」と、そっと呟き、自分のなかの緊張にコーヒーをふるまった。