NFT.NYC2023 現地レポート 前編 〜NFTのマスアダプションに必要なことはなにか〜
ニューヨークでNFTを主テーマにおいた世界最大級のイベント「NFT.NYC」が現地時間2023年4月12日から14日の3日間に渡って開催されました。Kultureスタッフが現地に参加した中で、今回は音楽をテーマにしたプログラムセッションをピックアップしながら、現在NFT界隈で起こっていることや、これからの未来についてなどをお届けしていきます。
NFT.NYCとは?
NFT.NYCは、NFTに関するセッションやネットワーキングが行われるイベントです。NFTの活用方法を模索し、議論しています。NFT.NYC2022では、70ヶ国以上、16,000人が参加しており、NFTに関する世界最大規模のイベントです。
今年は去年の開催に比べると参加者の規模も縮小していると言われておりましたが、その原因としては去年開催された22年6月頃はNFTの流通ボリュームが大きく伸びていたために、市場からの注目度が高かったことが挙げられます。
現在のNFT流通ボリュームは当時に比べると大きく落ち込んでいるため、いわゆるライト層が今年の参加を見送ったとの見方が大きく、
これはつまり、今年の参加者は技術的ツールとしての重要性が大きいNFTをマスアダプションさせるためにチャレンジを続けている人たちであり、本質的なNFTという技術の可能性を世界に発信しようとしている人たちであったと思われます。
ブランドやゲーム、音楽などの多方面でそのような本質的なNFT活用についてのアイデアを聞くことができ、非常に大きなインプットの場となりました。
Reaching New Fans with Music NFTs
セッションで話していたポイント
・CDからストリーミングになり、ファンとアーティストの関係性がなくなり、改めてアーティストとファンとのリレーションの再構築が必要だと思っている。
・今はテクノロジーを使って誰でも⾳楽が作れるようになってきたが、競争も激化している中で、⾳楽NFTは、現時点ではビジネス機会がある状態で、エントリータイミングとしては良い。
・100⼈ほどの⾃分の⾳楽が好きな⼈を⾒つけ、100人と一緒に⾳楽を作るこれまでのプロデュースとは全く異なるやり⽅となっていくであろう。
NFTを活⽤してファンとの関係性をどう構築していくかが重要であるセッションでした。これまでのアーティストのバリューアップの道筋としてはレーベルに所属し、レコード・CDをリリース、レーベルがプロモーションを⾏いヒットを掴み取るという構図から、ストリーミングやSNSの発達と共に、インディーズアーティストでも戦える状況となり、コンテンツが溢れ、競争が激化した変化の中で、真に⾃分の⾳楽を好きでいてくれる100⼈の熱量の高いファンと関わり、どう⾃分の⾳楽をフォローアップしていくかを⼀体となって考えていく必要性があると感じました。
Elevating Music NFTs: The 3 Missing Pieces (Culture, Tech, Law)
セッションで話していたポイント
・現状のWeb3⾳楽はテクノロジー・コミュニティ・アーティストサポートといったキーワードで混乱状態である。
・投資的な側⾯も⼤部分を占めているが、利益はあくまで側⾯で主要な部分ではない。
・⾳楽はユニバーサルランゲージでみんながシェアして聞ける⽂化的なものであり、コミュニティドリブンで作られるべき。
・Web3⾳楽プロジェクトのあらゆる側⾯において、⽂化的な影響を考慮する
・アーティストをマーケティングのツールとして使うことは避けるべき。
アーティストやクリエイターが創作する⾃⼰表現という⽂化としての⾳楽が第⼀にあるべきであり、NFTなどのテクノロジーはあくまで副次的なもの、サポート的なものである認識を持つ重要性を感じたセッションでした。
NFTを含めたテクノロジーの活⽤で⽬指すべきは利益追求ではなく、アーティストとファンの良好な関係の構築であり、利益はその先に付いてくるものと話していました。
Music and Entertainment of the future
セッションで話していたポイント
・中抜き(レーベル・GAFAプラットフォーム)を排除し、ダイレクトに顧客と繋がれる時代になった。
・思想として、完全に⾮中央集権の⾳楽プラットフォームエコシステムを作りたい(=アーティスト、キュレーター、コレクター誰もが参加できるようなプラットフォームを⽬指す)
・⾳楽創作活動が、Web3とAIに徐々に切り替わってきている。この概念は⼀般の⼈が理解するのには時間がかかるが、ゆっくりでもやるしかない
・100⼈ほどのスーパーファンをインセンティブを与えて共創作活動をしていくのがスタンダードとなる
・NFTでは特別な体験ができるといったアプローチの仕方だと誰もが欲しがるものになる可能性がある。
・ファンの形も様々で、成功してほしいという強い気持ちで応援している⼈もいれば、NFTを持つことでファンが儲かる、これがとても新しい考え⽅で⼤事にしないといけない
100⼈ほどのコアファンと共に共創していく。そのプロセスを経て有名アーティストとなった時に、アーティストだけが儲かるのではなく、⽀えたファンにも恩恵がある、win-winの関係といった考えが⼀般的になる可能性もあると示した。
現状は、NFTを使った施策といえば怪しさを感じられてしまう側面もあるが、⾔い⽅を変えて特別な体験が得られる新たなツールとして、少しずつでもアーティストとファンの理解を得ていくしかないと思いました。
Music NFTs :Intrinsic Utility, Scalability, and community
全体を通して、インディペンデントで活動する各シンガーが⾳楽NFTによるサポートの重要性をライブ演奏を交えて訴えかけていたセッション。上記、3つと比較するとかなりエモーションなセッションでした。
既にバリューのあるアーティストとインディペンデントで活動するアーティストとでは音楽NFTの活⽤の目的が異なります。前者はファンのロイヤリティを⾼めていくため、後者はファンとのエンゲージメントを強くしていくために活用されるのではないかと考えています。インディペンデントなアーティストがクリエティブ活動を続けていくためには⾦銭的なサポートが必要であり、マスには届かずともコアな少数のファンに⽀えてもらいながら活動を続け、バリューアップ⽬指して活動を続けていけるようになる必要があると感じました。
最後に
目的によってNFTの活用方法は大きく変わります。
メジャーデビューしているようなアーティストであれば、既に獲得しているファンベースをNFTによって更にロイヤリティを高めていけるような施策を打つことが考えられます。
例えばコレクティブルとしてのNFTを展開し、ファンの収集欲を掻き立て、ファンが自身のステータスを誇示できるようにすることが考えられます。
転売の可否に関わらず、自分がエンターテインメントに捧げてきた熱量をNFTで保有できることは貴重なステータスであり、将来的に大きな価値になると思っています。
一方インディーズで活動するアーティストであれば、活動を支えてもらうためのコミュニティ構築にNFTを活用するようなことが考えられます。
コミュニティのエンゲージメントを高めるためには、ホルダーに対して特別な体験を届けるなど積極的にアプローチを仕掛けることが重要な要素として考えられます。
楽曲の原盤権の一部をNFTで譲渡するような金銭的なインセンティブやNFTホルダーにて対してクリエイティブへのアーリーアクセスを許可するといったフィジカル的なインセンティブなど、小規模なコミュニティだからこそ出来るアプローチをNFTを活用して実現させることができます。
今回の音楽プログラム全般では、NFTを活用することで、これまでのコミュニティとの関わり方とは全く異なる新しいアプローチを仕掛けていくことができるという、新たな可能性を非常に感じることができる内容でした。