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リスクとリターンの算出に使われる3つのモデル (CAPM,WACC他)

今回は、リスクとリターンの算出に使用される代表的な3つのモデル

・資本資産価格モデル
 (The Capital Asset Pricing Model, CAPM)

・ファーマー・フレンチの3ファクターモデル

・加重平均資本コスト
 (Weighted Average Cost of Capital, WACC)

を扱います。

この3つのモデルの考え方を知ることで、
どのような切り口でリスクとリターンを数値化しているのか、

また、
実際の市場分析で使えるものはあるか、
他の分析に活用できる考え方があるかを検証する。


資本資産価格モデル (The Capital Asset Pricing Model, CAPM)

CAPMとは、
個別証券が持つβ値から、その株式に投資をしている投資家がどのくらいのリターンが期待できるのかを関係づけたフレームワーク。


β値とは、
個別証券(あるいはポートフォリオ)のリターンが、証券市場全体の動きに対してどの程度敏感に反応して変動するかを示す数値のこと。

例えば、
テスラは1.97 トヨタ0.64であり、
市場全体が10%上昇した場合、テスラの株価は19.7%、トヨタは6.4%連動して上昇することを予想しており、テスラの方が市場全体の動きに敏感に反応して変動するということがわかる。
(2022年11月時点)


𝛽𝑖 = 𝜌𝑖𝑚 × 𝜎𝑖 / 𝜎𝑚

𝜌𝑖𝑚: 証券𝑖と証券市場全体の相関係数
𝜎𝑖: 証券𝑖の標準偏差
𝜎𝑚: 証券市場全体の標準偏差


このフレームワークでは、
リスクとリターンの関係は線形であるとの仮定の下、以下の方程式で表すことができる。

(つまり両者には相関関係があり、リスクが上昇すれば、その分リターンも増える)

𝐄[𝐑𝐢] = 𝐑𝐟 + 𝛃𝐢 [𝐄[𝐑𝐦] − 𝐑𝐟]

𝐄[𝐑𝐢] (Expected Return on stock i): 証券iの期待リターン
Rf: risk-free rate
𝐄[𝐑𝐦] (Expected Return on market): 市場全体の平均期待リターン


このCAPMにおいて、
βは株式の価値と市場の動きを測定するもの、

つまり、

「リスクを測定するもの」


であるとしているものの、

このモデルでは、「マーケットリスクは算出するが、個々の独自リスクは算定されない」ことからあくまで

「マーケットリスクに絞ったリスク算出、価格算定のモデル」

となる。



証券市場ライン (Security Market Line, SML)を用いたCAPMの理論

上記の前提の下、もしCAPMが成立するのであれば、

すべての正しく価格決定された証券はこの線上にプロットする

といえる。

線上にプロットされていない証券は、マーケットの中で最適化されることとなり、

理論的には、ベータは

「リターンが将来どのように変動すると予想されるかを示すフォワードルッキングな指標」

といえる。


なお、実際には、
ベータから期待リターンを推定するというよりも、過去の株式リターンの時系列と、それに対応する市場ポートフォリオのリターンの時系列を回帰させることで期待リターンを推定することが多い。。

(実務では使われてない!!笑)



βの決定要因

ベータは、

・事業の性質
・オペレーティング・レバレッジ
・財務レバレッジ

の3つの基本的な要因に依存する。


「事業の性質」については、
どの国の経済でも景気循環を経験し、企業は景気循環によって異なる振る舞いをする。ある企業のリターンは、ビジネスサイクルによってより多く変動する。


「オペレーティング・レバレッジ」とは、固定費の使い方のこと。

  • レバレッジの程度は、売上高の変化による金利・税引前利益の変化として定義される。

  • 固定費が高いほど、売上高が変化したときの税引前利益の変動幅が大きくなります。他の条件が同じであれば、オペレーティング・レバレッジが高い企業はよりリスクが高い。

  • その結果、オペレーティング・レバレッジが高い企業のベータ値は高くなる。


「財務レバレッジ」とは、
企業の資本構成における負債のことで、
資本構成に負債を持つ企業は、レバレッジ企業とも呼ばれる。

  • 負債の利払いは、企業のリターンとは無関係に固定されている。固定された金融コストは、税引後利益が金利・税引前利益の変化に応じて変化する原因となる。

  • 財務レバレッジは企業の財務リスクを高めるため、その企業の株式ベータを増加させる。



ファーマー・フレンチの3ファクターモデル (The Fama-French three-factor model)

ファーマー・フレンチのモデルは、
一般的に小型株やバリュー株と関連する高いリターンを説明しようとする多因子モデル。


株式jの期待リターンの算出式は、

= 𝐑𝐟 + 𝛃𝐦𝐤𝐭,𝐣 × (𝐑𝐦𝐤𝐭 − 𝐑𝐟) + 𝛃𝐒𝐌𝐁,𝐣 × (𝐑𝐬𝐦𝐚𝐥𝐥 − 𝐑𝐛𝐢𝐠) + 𝛃𝐇𝐌𝐋,𝐣 × (𝐑𝐇𝐁𝐌 −𝐑𝐋𝐁𝐌)


*(Rmkt − Rf): 加重平均型株価指数の時価総額ーリスクフリーレート
*(Rsmall − Rbig): 小型株比率の平均リターンー大型株比率の平均リターン
*(RHBM − RLBM): 高簿価市場比率の平均リターンー低簿価市場比率の平均リターン

*SMB(Small Minus Big):
時価総額(企業規模)に対するリスクファクター。
大型株(Big)・小型株(Small)の分類は企業規模を指し、時価総額の大きい株式を大型株、小さい株式を小型株と呼ぶ。
市場では小型株効果と呼ばれるアノマリー(現代ポートフォリオ理論では説明することができないが、経験的に観測できるマーケットの規則性)が存在すると言われており、小型株は大型株よりもリターンが相対的に高くなる傾向が観察されている。
このモデルではこの小型株効果がリスクプレミアム(収益の源泉)であるという考え方に基づいて、SMBファクターの項を個別証券の期待リターンの算出に用いている。

*HML(High Minus Low):
簿価時価比率(PBRの逆数)に対するリスクファクター。
簿価時価比率(BPR:Book to Price Ratio)を見たときに、高いもの(High)をバリュー株(割安株)、低いもの(Low)をグロース株(割高株)と分類される。

(なお、BPRはPBR(Price to Book Ratio、株価純資産倍率)の逆数であり、BPRが高い(PBRが低い)株式がバリュー株、BPRが低い(PBRが高い)株式がグロース株となる)。

𝐵𝑃𝑅 = 1株当たり純資産 / 株価
𝑃𝐵𝑅 = 株価 / 1株当たり純資産

このモデルは多要素モデルのため、
CAPMより高い説明力を持つといわれている。



加重平均資本コスト (Weighted Average Cost of Capital, WACC)

このWACCは、
企業に資本を供給する側(投資家等)にとっての総合的な必要収益率を指し、
実際に企業側が資金を1円調達するのにいくらのコストがかかっているかを示す。


WACC = 負債時価総額 / 負債・資本の時価総額 × 𝐫d × (𝟏 − 𝐭𝐚𝐱 𝐫𝐚𝐭𝐞) + 資本時価総額 / 負債・資本の時価総額 × r𝐞


rd: (return on debt)負債に対する期待リターン(借入コスト)
re: (return on equity)資本に対する期待リターン(資本コスト)

*多くの市場において、企業は支払利息の控除を受けることができる。(1-税率)の項を含めることで、負債のコストを税引後ベースで調整している


WACCの特徴

  • 企業全体を評価するのに適している。資本の価値を求めるには、まずWACCを用いて企業価値を計算し、長期債務の市場価値を差し引く。

  • 通常、負債と資本の市場価値ウェイトは、それぞれのターゲットウェイトと等しいと仮定する。そうでない場合、WACCの計算では、負債と資本のターゲットウエイトを使用する必要がある。





今回3つのモデルを見てきたが、それぞれ

CAPMでは、リスクとリターンの線形関係から

3ファクターモデルでは、企業規模(時価総額や簿価)から

WACCでは、資本と負債の割合から

リスクとリターンを求めようとした。


特にCAPMでは、
株価は証券市場ラインが適正価格としてバリュー株(割安株)やグロース株(割高株)はマーケットの中で適正価格に収束していくという前提の下、
理論上かなり説得力もあり、マーケットの経験則上も違和感ないものと思える。


具体的にいうと、
リスク0%で1年後に1%のリターンが得られる米国短期国債があるマーケットで国債よりリスクの高い株式を投資家に購入してもらうためには、国債よりもリターンが大きいこと(リスクプレミアム)を投資家に約束しなければならない。

一般的な株式のリターンは5%とも言われており、
大手企業であれば、リスクは低いため、株式のリターンも若干少なめに、
中小企業などリスクが大きくなると、その分、投資家に株式を購入してもらうためにリターンを大きくする

というのはごく自然な発想であり、
また、マーケットでプロのトレーダーが売買する中、リスクに見合ったリターンに収束することはごく当然のことのように感じる。

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