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『私は人をだましたい』魯迅

私は人をだましたい魯迅  くたびれて仕方がないときに、偶〻現世を越出した作者を感心して模倣して見る。併し駄目だ。超然たる心は貝の如くそとに殻がなければならない。その上清い水も必要である。浅間山のそばには宿屋ならあるにちがいないが、象牙の塔を建てる人はないだろうと思う。  心の暫時の平安を求むるために、窮余の一策として自分は、近頃別な方法を案出した。それは人をだますことである。  昨年の秋か冬、日本の水兵が閘北で暗殺された。ただちに引越す人が沢山出来、自動車賃等は何倍も高

    • 『宿命』沖野岩三郎

      宿命沖野岩三郎 本書の原稿、二十字詰十行一千百八十枚の内七百七十枚までは全然大阪朝日新聞の懸賞当選小説として発表しなかった部分であります。残余の四百十枚も余程内容に改竄を加えてあります。 前篇 恋愛観 遺言  お常は白髪が多いので、一寸目には六十以上に見えるが、実は安政二年生れの、この物語を初める明治四十二年には、まだ五十五であった。  二十七という若い身空で良人に死別れて以来、三十万以上の財産を守って、人に後指も指されずに、六歳の利雄と当歳の堅爾とを一人前に育て

      • 《二十世纪之怪物帝国主义》幸德秋水(中日对照)

        廿世纪之怪物帝国主义幸德秋水述 赵必振译 『帝国主義』に序す(原序) 人類の歴史は其始めより終りに至るまで信仰と腕力との競争史なり、或時は信仰、腕力を制し、又或時は腕力信仰を制す、ピラトがキリストを十字架に釘けし時は腕力が信仰に勝ちし時なり、ミランの監督アムボロースが帝王シオドシアスに懺悔を命ぜし時は信仰が腕力に勝ちし時なり、信仰、腕力を制する時に世に光明あり、腕力、信仰を圧する時に世は暗黒なり、而して今は腕力再び信仰を制する暗黒時代なり。  人类之历史者,自始至终

        • 『牛車』呂赫若

          牛車呂赫若 一 「バカ、黙っとらんか。」  癇癪玉が破裂し我も泣きそうになった顔を歪めて木春は弟の頭を殴りつけた。すると弟は「あーん」と一層咽喉の破れるような声を張り上げて地面に寝そべり、じたばたと手足を動かして油缶をひっくりかえした。 「こいつ……」木春はこぶしを握りしめ上体をかがみ込んだ。「又ぶつぞ!」しかし急に、振り上げた腕が力を失い木春は声を和げて云った。 「バカだなあ、泣いてどうするか。お母ちゃんはすぐ帰えるよ。着物がよごれるぞッ。」  後この家の中

        『私は人をだましたい』魯迅

          『煤びた提灯』沖野岩三郎

          煤びた提灯沖野岩三郎  高尾が町内宗寺院の僧侶達から排斥され初めたのは日露戦争の始まった頃からであった。  各宗十一ヶ寺の僧侶達は『皇国戦捷敵国降伏大祈祷会』を聯合で五日間執行しようという事の相談会を開いた。それは町の有志から寄附金を募集して参詣者には御供の餅を配ろうというのであった。  各宗の僧侶達は一も二も無くそれに賛同したが、高尾は独りその相談に賛成しなかったのである。彼が賛成しなかった理由は、自分の宗旨は絶対他力であって、決して禁厭祈祷の如き事をなすべきもので無

          『煤びた提灯』沖野岩三郎