【樹木たちの知られざる生活】 (要約2/4)
【樹木たちの知られざる生活
森林管理官が聴いた森の声】
著 ペーター ヴォールレーベン
訳 長谷川 圭
[要約] (2/4)
■謎めいた水輸送
木の内側の水圧がもっとも高くなるのは、
春の芽が出る直前で、
聴診器を使えば私たちにも聞こえるほどの
勢いで、水が幹に流れ込んでいる。
実際、サトウカエデに聴診器をあてて
メープルシロップの収穫時期を決めている。
正直なところ、
木がどうやって水を吸い上げているのかは
分かっていない。
ただ、最近の研究で、蒸散と凝集力の効果を
否定する結果が確認されている。
主に夜間に木の内部に静かな音があることが
確認された。
夜間は光合成をしないので
水が蒸発することはない。
木はまったくもって不思議な存在だ。
だからこそ樹木は素晴らしい。
■年をとるのは恥ずかしい?
樹皮は皮膚と同じで、
内部器官を外界の攻撃から保護している。
樹皮は常に再生され、
古い樹皮は剥がれ落ちる。
粗皮、樹皮の一番外側の層は
人間のしわみたいなもの。
粗皮に現れる模様は成長によって生じた
ひび割れで歳を重ねるにつれ深くなる。
ブナやモミジは再生率が高くなめらか。
マツは古くなった樹皮を落とそうとしない。
ひび割れに苔が生える。
苔が上にあるほど年老いた木ということだ。
年をとると髪が薄くなるように、
枝も同じであまり伸びなくなる。
■ナラはひ弱?
つらそうにしているナラに出会うことが多い
中央ヨーロッパは、
ナラにとって居心地いい場所ではないようだ
なぜならそこは、ブナの故郷だから。
ブナは仲間には有効的だが、
ほかの木には厳しく接し遠ざけようとする。
こんなに弱々しいのに、ナラの木は
強さや忍耐力のシンボルとされている。
森の外では類まれな粘り強さをみせる。
ブナは森林以外では
200歳を超えることは殆どない。が、
ナラは農場や牧草地では
500歳を超えることもある。
ナラはブナより分厚くて丈夫な樹皮を
しているので外敵の攻撃にも強い。
■スペシャリスト
樹木はさまざまな場所で育つことができる。
むしろ、育たなければならない。
落ちた種が何処に運ばれるかは
風や動物たちに聞かなければ分からない。
トウヒは夏が短くて、
冬の寒さが厳しい場所でも繁殖できる。
中央ヨーロッパにある森林の大半は
ブナ林なので、森の内側には
ほとんど光が差さない。
この薄暗い環境に適応したのがイチイだ。
イチイは、とても謙虚で我慢強い植物だ。
ブナにはかなわないとよく理解している。
そこで、暗い森のなかで生きる
スペシャリストになる道を選んだ。
イチイは寿命が長いことでも知られている
質素で遠慮深い性格なのだろう。
■木なの?木じゃないの?
そもそも、樹木とは何だろう?
辞書では、
“幹から枝を生やす木本植物”
と説明されている。
切り倒された木は死んだとみなされるか?
切り株から、新しい幹が伸びることもある
すべての基本は根にある。
根に脳がある。と、考えられるからだ。
木が学習して経験を記憶できるなら、
記憶を貯めておく場所があるはずだ。
どこなのかまだ分かっていないが、
根がもっとも適した器官ではないだろうか。
植物と動物に
たくさんの共通点があることが証明されれば
人間の植物に対する態度がより思いやりの
あるものになるのではないかと期待している
■闇の世界
森林のバイオマス全体を見ると、
半分は地面の下に含まれている。
地中で生活する生き物のほとんどは、
人間の目には見えない大きさだ。
樹木にとっては、
地中で生活する小さな彼らは重要な存在だ。
森が原始の姿に戻るには、
人間の影響を受けていない
原生林を維持することが不可欠だ。
多様な生物種を含む原生林の土壌が、
近隣のほかの森を再生させる源となる。
だからといって、
私たちが森林の利用を諦める必要はない。
埋葬林。
木々が天然の墓標。
人間が寿命を終えても、
木の下に埋葬され原生林の一部になる。
■二酸化炭素の掃除機
私たちが一般的に考える自然循環の仕組みは
自然にバランスをもたらす中心的な役割を
樹木が担っている
光合成をして炭化水素化合物をつくり、
それを使って成長して、
生涯で最大20トンの二酸化炭素を
幹と枝と根に蓄える。
森は巨大な掃除機のようなもので、
二酸化炭素を吸い込み内部にため込む。
二酸化炭素の一部こそ大気に戻るが、
大部分は森林の生態系のなかにとどまる。
若い木よりも老木のほうが生産的である。
私たち人間が気候の変動に対抗するとき、
頼りになるのは年とった木だと示している。
私たちは、
木々を長生きさせなければならないのだ。
■木製のエアコン
その森で育つのは、
マツぐらいだと言われていた。
マツだけでは土地が痩せるかもしれないと、
ブナも植えた。ところが、
ブナは引き立て役で終わる気は
さらさらなかったようだ。
数十年後、落とし続けた葉が水分を蓄え
マイルドな土壌を作り
そのうちマツより大きく育つようになった。
樹木には自分の生活環境を変える力がある。
木質の総量が多ければ土壌の腐植土の層が
厚くなり水分が蓄えられ、
その水分が蒸発することで温度が下がり
温度が下がることで蒸発量が減る。
健全な森林は夏になると汗をかいて、
体温を調節する。人間の汗と同じ仕組みだ。
■ポンプとしての森
水は、どのような道を通って、陸地に、
そして森にやってくるのだろうか?
生命にとって欠かせない水分を
内陸まで運ぶのは樹木だったのだ。
海岸部の森林が伐採されると、
水分の輸送がストップすることも分かった。
電動ポンプの吸水口を
水からあげるようなものだ。
森の土壌は、
巨大な貯蔵庫となって雨水を蓄える。
樹木が根を張る地層が水で満たされたら、
何年もかけてゆっくりと深く沈んでいく。
貯め込まれた水は一定の水量で湧き出てくる
地下から出てきた水かは温度を測れば分かる
9度以下なら湧き水だ。
ぬかるみや水たまりは凍ってしまうが、
泉は湧き続ける。