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息子、ばったりクラスメイトに会う

息子には、学校で休み時間を一緒に過ごしたり、放課後に集まってゲームしたり、休みの日に公園で遊ぶような関係の子がひとりもいない。

それでも本人はそれを気にしている様子はなく、むしろその方が不安なく落ち着いて過ごせるようで、誘われると逃げ出してしまうこともある。

親としては「ひとりくらいお友達がいたらな」とは思うものの、こればっかりは親が無理矢理どうにかできることではない。


先日、こんなことがあった。

家族でショッピングモールへ行き、昼食にしようと混雑したフードコートでなんとか席を確保した。

すると、となりの席から「◯◯くん!」とうちの息子を呼ぶ声がした。

息子の在籍する支援級では、複数の学年の児童が混ざって在籍しているんだけど、その子は2つ年下のクラスメイトAくんだった。

何度も息子に「◯◯くん!」と声を掛けながら手を振ってくれている。

しかし、息子は全くのノーリアクションで席に座った。

挨拶を促してみたものの、一瞬だけAくんの方を見て「あ、」と小声で言っただけ。

息子のあまりの淡白さに、私は慌てて代わりに「あら!Aくん、こんにちは!」と言って、Aくんのご家族にも挨拶をした。

Aくんとその弟が私たちの席にやってきて、私と息子に、自分が食べたものや買ってもらったものなどをいろいろ紹介してくれた。

Aくんのご家族は「お食事の邪魔になるから戻りなさい。もう、すみません。」とおっしゃったのだけど、こんなに自分から雑談できる子がいるんだと感心して「全然構いませんよー!」と食事を横に置き、しばらく話していた。

一方その頃、我が息子は、もくもくと食事を進めていた。

まるでAくんがそこにいないかのように。

ただ、それはAくんがいるからそうなったのではなく、息子は普段から、食事中は話しかけてもほとんど返事がないのでいつもどおりではあるのだけど、よくこの状況でいつもどおりでいられるもんだ。

雑談が一瞬途切れるとAくんは突然、「◯◯くんは、あと半年ちょっとで卒業しちゃうんですよね?寂しいなぁ。もっとおしゃべりしたいんだよなぁ。」と言ってくれた。

息子は相変わらず何の反応もなかったのだけど、私はその言葉を聞いて思わず泣きそうになった。

学校でもきっと同じようにコミュニケーションが取れない息子だろうに、関わりたいと思ってくれている子がいてくれることが嬉しくてありがたくて。

でもそれと同時に、きっとそのAくんの想いに息子は応えられないのだろうと思うと、悲しくもなった。

私はAくんに「ありがとうね」と一言、涙を流さないように必死で堪えて伝えた。

何度もAくんとの会話に息子を引き入れようと話しかけても、反応はない。

息子が他の子と関わる場に遭遇することは滅多にないので、私も空回りしてしまったのかもしれない。

Aくんファミリーが先に食事を終えて帰られる時に、「うちの子がお邪魔しちゃってすみませんでした、とにかく話したがりで」と、とても申し訳なさそうに言われた。

「いえいえ、たくさんお話しできて楽しかったです!こちらこそ、本当に無愛想ですみません!」と伝え、お互い笑顔で別れた。

息子とはタイプが違いすぎて新鮮で、少し羨ましくも思ったが、話せなくても、話せ過ぎても、平均からはみ出ると悩みの種になってしまうのだなと複雑な気持ちになった。

どちらも自分らしく存在しているだけなのに、人と関わりながら生きていくためにはそれだけではいけなくて、言葉だけでなく態度や気持ちを相手にタイミングよく向ける必要があって、それって大人でも難しい。

そんなことを考えていたら、食事を終えた息子が「これだけたくさんお客さんがいて、これだけ席があるのに、同じ時間に隣の席になるなんてマジ奇跡じゃね?」と私に言ってきた。

「そういうの!そういうのをAくんに直接話すんだよ!そうすれば『会えてうれしい』って気持ちが伝わるんだよ」と思わず息子に言うと、息子はなんだか照れ笑いして「なるほどね」と呟いた。

言語化に時間がかかったんだね。

息子の経験値が増えた。

まぁゆっくり経験していくしかないね。

大丈夫。どうにかなるだろ。

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