015 ジビエこそ完璧な国産食材!?
あなたが言っていることは嘘だとか間違っていると、面と向かって歳下の世代から言われたことってありますか? 立て続けに2人も。それも自分が大切にしている思想や信念みたいなところで。
九条Tokyoは食料自給力に注目して生まれた店だという話は、以前に書きました(➡鈴木さん、いまボクは野菜を売っています)。できるだけ野菜は国産の有機のものを。魚は回遊魚ですから仕方がないとして、肉もなるべく国産のブランド肉を使うようにしています。全てではないですよ。
ある日、「卵は?」と訊かれて返答に困りました。それまで考えたこともなかったからです。いつも野菜を仕入れている卸業者から一緒に仕入れているので、多少はこだわったものだろうとは思っていましたが、さて、どこのだっけ?
「青森の平飼鶏ですね」納品書を調べてそう答えると、「卵が美味しかったので、買って帰りたい」とのご注文。卵料理じゃなくて、卵そのもののほうです。残念ながら在庫が少なかったので、次回いらっしゃるときに合わせて仕入れておくことにしました。
開業前、牛肉は伊賀牛を仕入れられないかと、生産者のところに無理を言って見学にお邪魔させていただきました。ブランド牛を育てるために立ち上がった初代の生産者にもお会いでき、その歴史を聞かせていただきました。ところが、残念ながら地元や関西で消費されるため、東京にはほとんど卸していないこと。また、ブランドを守るため、一頭買いでないと卸していないことを知りました。さすがに、一頭買いはちょっと。。。
というわけで、食材すべてではないにしても、多少なりともこだわった品ぞろえのつもりでいたボクに、喧嘩を売ってきた男がいます。
「国産の肉って言っても、飼料はどうでしょう。ほとんど輸入ですよ」
その通りです。痛いところを突かれたな、というのがボクの第一感。
「じゃあ、どうしろって言うんだよ」と尋ねたボクに、彼は待ってましたとばかりに、こう答えました。
「うちの肉を買ってください。山クジラです」
山クジラというのは、猪肉のことをいいます。江戸時代、猪肉を山鯨(やまクジラ)、鶏肉を柏(かしわ)、鹿肉を紅葉(もみじ)などと呼んだのは、表向き、獣肉食が許されていなかったからでしょう。実態は、薬喰いと称して、盛んに食べられていたようです。
「菜の花や 月は東に 日は西に」や「春の海 ひねもすのたり のたりかな」などの句で有名な与謝蕪村の俳句に、「妻や子の 寝具も見えつ 薬喰」「くすり喰い 人に語るな 鹿ヶ谷」など薬喰いについて取り上げたものがたくさんありますが、「薬喰 隣りの亭主 箸持参」というのがボクは一番好きです。
いけない、いけない。ボクは俳句より短歌派です。俳句のことは文学と呼ぶには短かすぎるだろうが〜、なんて公言しているくらいなので、これは、あくまで日本人と獣肉食の参考までに挙げただけですよ。俳句が好きだってことではありませんからね。五七五のたった十七文字では少なすぎるでしょう。風景は語れても哲学や思想までは、ちょっとねー。えっ、お前が下手なだけだって?
さて、山クジラの話に戻ります。彼が買わせようとしているのは、島根県美郷町で獲れるイノシシ。人口4500人程度の山あいの街で、年間、イノシシを千頭も獲ると言います。すごいじゃんかー。しかも、鉄砲ではなく、箱わなで。
その話だけで、ボクはもう仕入れる気になっています。罠にかかったも同然ですね。
しかも、仕入れてみたら、、、美味い!
九条Tokyoでお出ししているイノシシ肉は島根県美郷町産の山クジラです。美郷町の山の葉っぱや根っこやドングリほかを食べて育った、正真正銘の国産ジビエになります。
ジビエ(gibier)とはフランス語で、狩猟によって食材として捕獲された野生の鳥や獣の肉のことを言うそうです。
そうだ、肉はすべてイノシシやエゾシカだ、ジビエにしよう。農産物の獣害対策に協力もできるし。それに、銃じゃなく箱わなで獲っているっていうし。いいことだらけじゃん。
ご存じでしたか? 捕獲された獣の8割は捨てられているってこと。食肉とするには小さかったり、病気だったりというケースもありますが、鉄砲の玉の当たり所が悪かったり、処分場の問題だったりと理由はいろいろあるようです。一部はペットフードの原料にも回るようになったそうですが。
ところが、美郷町では箱わなで獲っていることもあり、8割が食用になっているそうです。素晴らしいでしょ! はい、まずは試しに、あーん。
ところが、ところが、です。「ジビエではこの国の食料自給力は守れません」という新たな男が現れたのです。この店は何かに呪われているのでしょうか? こうも変なのが続いてやってくると、疑っちゃいますね。えっ、類は類を呼ぶって?
「獲りすぎたら、ニホンオオカミのように絶滅してしまいます。それに、山奥まで獲りに行くのは非効率だし、ハンターは超高齢化しています」
「じゃあ、どうしようって言うんだよ」ボクの声は小さく、震えています。こんな店始めなければよかったかも〜。
「日本の食事情を救おうとしたら、ダチョウです。1年で2mにも育つんですよ。餌だって、国産のもので充分だし」
なんと、彼は来たるべき日本の食糧難を救おうと、茨城に土地を借りてダチョウ牧場を作ったと言います。こりゃ、そこのダチョウだって仕入れなくちゃ。ダチョウはジビエじゃないにしても、国産の良質な動物性たんぱく質。しかも、鳥なのに、赤身のお肉ときたもんだ。
これがまた、美味しいったら。九条Tokyoでは、ダチョウのモモ肉をタリアータとしてお出ししています。
というわけで、九条Tokyoの肉はジビエが中心となりました。もちろん、大山鶏や日高豚なども揃えていますが、ジビエを食べにいらっしゃる方もたくさんいます。ダチョウはジビエではありませんが、鶏豚牛以外のお肉のカテゴリーとして紹介しています。
そこで、というわけではありませんが、毎月第4火曜をシカの日と読み替えて、ジビエールバーというイベントを続けています。美味しいジビエ料理で楽しもうという企画で、もう1年以上続いています。
続いているといったら、このnote。22時を過ぎて客のいなくなった23時までの1時間、百合子へのささやかな抵抗というほどのことはありません。暇を持て余していたボクの手慰みになっていますが、会話がないと辛いですね。人は支え合っている存在だと、漢字そのものが教えているくらいですから。
支え合いの基本は? それは共感であり、言葉だと思います。ミッシェル・オバマのスピーチ、素晴らしかったですね。そうだ、この国に足りないのは、共感なんだ。向こうの国だけでなく、共感という言葉からはほど遠い面々の顔が連綿と浮かびます。
そう、共感! そして、それを伝えるのは言葉なんだ。
あれっ、たった2文字の言葉を伝えるために、ジビエから始めて、こんなにタラタラ長い駄文を連ねなくても。。。でも、〆切の23時まではまだ少しあります。
そう、はじめに言葉ありき。あの長〜い聖書の初めにも、そう書いてあるじゃないですか。前に書いた通り(➡️信仰を持たない者の祈りの道)、信仰を持たないボクが言うことではありませんが、やっぱ言葉、会話だよ~。
この店をやろうと決めた時、1年ほど、24時間営業のスーパーで、仕事が終わってからレジのアルバイトをやりました。それまで接客マニュアルや店頭ポスターなどは作っていたのに、接客そのものは一度もしたことがなかったからです。レジスターも使いこなせないし、お客さんとの会話だってままならないだろうと。
バイトは23時から朝の7時ですから、暇な分、いらっしゃるお客さんと会話を交わす機会が増えます。
タバコとお酒と一緒に野菜サラダを買っていく若者に、「ほんとに身体のこと考えてるのかなぁ?」とお釣りを渡しながら言ったら、後日、ガールフレンドを連れてやって来ました。後ろに客が並んでいたので急いで何も言わずにレジを終えると、「何か言ってよ。それを聞かせようと、わざわざ彼女を連れてきたのに」と言われ、「うちはサラダは売ってるけど、油は売ってないんだ」と答えました。彼はキョトンとしていましたが、ガールフレンドは大笑い。彼女の方が教養が高いってことでしょうか。
派遣で介護の仕事をしている常連客の若い女性が、自分が学費を出して卒業させた弟が来月からピースボートに乗って世界一周すると言って連れて来てくれたことがありました。「後のことは心配しないで、お姉さんはボクがいただきますから」と言ったら、バカ受けしたっけ。あの姉弟はどうしているだろう。
ようやく根津に物件が決まって、そのバイトを辞める日、名前も知らない常連客の一人が昼勤のバイトに手紙を託していって、大騒ぎになりました。店がオープンして以来、客からラブレターをもらったのはボクが初めてだって。
内容は、そんな大騒ぎするようなことではないんですよ。でも、深夜から早朝にもかかわらず、ただ話をしに来る人の多さといったら驚きでした。
誰に聞いたのかボクが辞めると知ったおばあちゃんに、2-3日怒られ続けました。もう、牛乳の紙パックの口を開けて、輪ゴムで塞いで売ってくれる人がいなくなると。歳下の先輩アルバイトからは、余計なサービスをすると他のバイトが迷惑しますよ、と窘められていたことの一つです。
ボクは牛乳メーカーに、老人の力でも開けられる紙パックの開発したほうがいいんじゃね、と連絡入れたけど、変わってないですよね。
ボクがかつて作っていたマニュアルは欠陥だらけですね。現場でそんなことが起きているなんてこと、知りもせず作っていましたから。空想では共感は生まれません。うんと想像の羽を広げると言ったって、人には限度があります。みんながジョン・レノンになれるわけはないんだから。
パンセパンセ パン屋のパンセ にんげんは あんぱんをかじる葦である と詠んだのはボクの大好きな歌人、杉崎恒夫。もち、炭水化物も必要ですが、会話も必要です。甘いものではなかったとしても。
そんなことを確認させてくれる大切なイベントの一つが、ジビエールバーです。次回は、第4火曜というと、もうすぐ。8月25日(19時から)になります。
*15回続いたことを記念して、番号をつけてみました。自粛が終わる8/31までは続けたいと思っています。