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畑の生活

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LIFE IN THE FIELD 畑仕事=フィールドワークの記録
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2021年12月の記事一覧

【畑の生活】ほうれん草

【畑の生活】ほうれん草

その日、畑に出ているのは長老と僕たち家族だけだった。冬は夏に比べてやることは、そう多くない。冬の畑は静かに時間が流れていくそうだ。長老はいつもの紺色の作業着の上から黄色い防寒着を着て、農園全体をゆっくりと歩いて各畑の様子を見て回っている。「だいぶ順調だ。」うちの畑を見て長老が言った。ベビーリーフは、何度か収穫しているがまだ成長している。色んな種が混ざっているので、水菜やルッコラ以外にも若いレタスの

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【畑の生活】密集する根

【畑の生活】密集する根

長老によると畑の水やりや手入れは夏場は1週間おき、冬場なら2週間おきでも十分らしい。それでも僕は畑の様子が気になるし、できるだけ土に触れたい。畑をはじめてから毎週末には欠かさず畑に通っていたが、その週末は雨がつづいたため家にいた。晴耕雨読だ。前の週に初めて収穫したベビーリーフはサラダにしたり、パンに挟んだり、お粥に入れたりして堪能させてもらったが、まだ少し残っている。ベビーリーフの青々としたほろ苦

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【畑の生活】ネイキッドな場所

【畑の生活】ネイキッドな場所

長靴に履き替えて畑に出てみると、バインダーが数本外れてビニールのアーチの片側が大きく捲れあがっていた。風に煽られたらしい。土に刺さって綺麗なアーチをつくっていたバインダーの一方が土から抜けて、真っ直ぐになってしまっている。壊れたビニール傘みたいでなんともみっともない。さて、どうしようかなと考えていると長老がやってきた。長老はビニールが肌けた畑を見て「風が強かったからな。」と言った。ここ数日、ぐっと

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【畑の生活】無我の記憶

【畑の生活】無我の記憶

此方と彼方を行ったり来たり。此岸と彼岸を往復する。此岸にあるとき彼岸を想い、彼岸にあるとき此岸を想う。僕はふたつの岸を空間的に水平移動することによって、自分の次元を垂直に拡張しつつある。それは対話にも似ている。対話は単なるキャッチボールではない。書くこと、読むこと、話すことの本質、根源のようなものは、意思の伝達という手段のもっと手前にある対象と混ざり合うことだ。空間、時間、物理、肉体、絶対的に隔て

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