8/19 クイズ大会「abc」感想
クイズ大会「abc」の話です。
忘れられない日になる。
8/16(日)、基本問題実力No.1の学生を決めるクイズ大会「abc」が今年も開催された。
数多くの名勝負を生み、熱狂と興奮が冷めやらぬまま、年に一度のクイズの祭典は幕を閉じた。
だが、その激闘の裏で、もう1つの知られざる物語があったことも忘れてはならない。
そう、00年代の音楽業界に彗星のごとく現れると、ティーンを始めとした若い男女に絶大な人気を博し「テルマー」と呼ばれるフォロワーを多数生んだ、カリスマ・アーティスト「青山テルマ」のラストライブだ。
その道10余年、自他ともに認める「テルマー」である私は、彼女の最後の晴れ舞台を見届けるため、東京は外苑前の神宮球場に来ていた。
いつにも増して暑い日の神宮球場は、あたりを埋め尽くす「テルマー」の姿でいっぱいだ。ソーシャル・ディスタンスが何だ、関係あるもんか、アタシたちの、俺らの、テルマの最後の舞台なんだ。こんなアクリル板なんかいらない。もっと近くで見せてくれ。そんなことを言わんばかりの人だかりだった。
もちろん、私もその中のひとりだ。
最近はくだんのウイルスの影響から、プロ野球の興行でさえ空席が目立つ神宮球場に、この日はなんと6万人もの観客が詰めかけたという。
どうしても会場に来れなかったテルマーのために用意されたライブビューイングのチケットは13万枚が即完で、日本ほどテルマの知名度がないアメリカでも、国民的行事のスーパーボウルの半分くらいPPVが売れたらしい。
そんなプラチナチケットを手に入れ、会場内で見届ける事ができる幸運を噛み締めていると、ついにテルマのラストライブの幕が開いた。
ーーーーーー「それでは1曲目、聞いてください。
『そばにいるね feat.(フィート)SoulJa(ソルジャ)」
テルマが、知ってる曲を歌い出した。だが、そこにフィーチャリングアーティストであるはずのSoulJaの姿はない。その場では分からなかったが、後に彼はブログで真相を吐露している。
「朋友(ほうゆう)のテルマの最後の舞台というプレッシャーで、リハ中に神宮のトイレで2回も吐いてしまった。本番は全然あかんかった。誠に申し訳ない」
ラッパー界でも強心臓で知られる彼が、そこまで緊張するとは。テルマの名の重みが改めて感じられるエピソードだ。
ストイックなテルマは、そんなトラブルは意に介せず、器用にテルマのパートのみ歌い上げる。SoulJaのパートは無声(伴奏だけ流れている)である。愚直なテルマらしい判断であったが、会場にはなんとなく嫌な時間が流れる。気まずいのだ。
いくら至高のシンガーのパフォーマンス中でも、インスト音源だけ聞こえる時間があるのは気まずすぎる。会場とLVで観ていたテルマーに一斉に緊張が走った。中には、パニックのあまり涙ぐむものが現れるほどだ。
私は、ひとり祈っていた、こんな時間が続くのは誰のためにもならない。
誰か、誰かこの状況を打開してくれーーーー
ーー
ーーーー
ーーーーーーーそんな時だった。
「俺… こも…ないよ…
探…続ける… たの顔…
Your 笑顔…今でも触れそうだって」
なんと、会場にいたベースボールキャップの少年が、SoulJaのパートを歌い始めたのだ。
始めは小さなかぼそい声だったが、勇気ある少年の行為に応えるように次第に周囲の声は大きくなっていき、しまいには大きなシンガロングとなって会場にこだました。小さなテルマーが大衆を動かしたのだ。
私はSoulJa側の歌詞を知らなかったので、周囲に悟られないよう、ごまかすように口をパクパクさせていた。
そんなこんなでテルマが名曲『そばにいるね』を歌い上げると、球場全体を万雷の拍手が包み込んだ。会場が一体になった瞬間だった。
次はどんな曲で心震わせてくれるんだろうか。
期待に胸を膨らませながら、皆、テルマのMCに耳を傾ける。
「ーーーーーーありがとう。みんなサイコーね。」
次の曲はーーーーーーーーー
テルマとテルマーの、長い冒険は、まだ始まったばかりだ。
「テルマーのぼうけん」
〜fin〜
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