
川柳ネプリ「紙上領域」を読んでの感想
遅くなりましたが、成瀬悠さんの120句(!)ネプリ「紙上領域」の感想です。
いっぱいの川柳に触れられて嬉しいです、ありがとうございました!
いくつかお気に入りの句の感想を書いていきたいと思います。
祖母の教えによりタイルを数える
タイルの壁がある古い家だ。祖母の家に家族で住んでいるのだろう。
句主体は子供で、親に暴力をふるわれている。祖母も家庭内では弱者でそれを止められず、ただ「タイルを数えて耐える」ことを教えたのだろう。
あっさりとした読み口の句の中で、歪んだ家庭はあっさりと続いていく。
辺境で丸くなるまで書く手紙
左遷されたのだろうか、句主体は辺境にいる。尖った人間は疎まれがちである。
しかし出す先もない手紙を書いて自分を見つめ続け、人柄は丸くなった。年月はかかったが、当たり障りなく社会で生きる術が身についた。
周回遅れだとしても句主体はこれからも生きていく。
人間だけは解約をお早めに
我々は産まれた時に「人間」として契約をしていたのだ。契約通り、普通で平凡で社会に馴染まなければならない。
そんな契約は真っ先に解約した方がいいとこの句はそそのかす。人間という保険などは要らない、自由に生きるのだ。
自由の先には何の保障もないけれど。
付け髭を消印として用いれば
郵便局員が職人技の速さで手紙類に付け髭をバシバシ貼り付けていく。はみ出さない絶妙な位置だ。黒い毛がユーモラスに、あるいは気味悪く揺れ、抜群の存在感を放っている。こんな手紙をもらって燃やし捨ててみたい。
民話のような煙ならよかったのに
ぷかぷかと上がる煙が、例えば民話のように悪を祓うものなら痛快だったろう。
喫煙室に白くこもる紫煙は、気晴らしに使うには有害すぎると分かっているがやめられない。そんな自分が情けない。情けない者同士、今日も喫煙室では社内の下卑た噂話が飛び交うのだ。
敬礼に線対称の線を引く
敬礼に線対称の線を引いて繋げるとXのような形にならないだろうか。敬礼の反対側もまた敬礼で、敵同士反対側を見ている。敵同士であるが対称的であり、惨めだ。戦争を美しい図形として表現した句である。
読んでくださりありがとうございました!